第10話 勉強会 1

「ねぇ。」


 廊下を歩いていると、途中に後ろから僕に対して言っているであろう声が聞こえてきた。


 後ろを振り向いてみると、そこには少しイジワルそうな顔で笑っていて、口角がほんの少し上がって、ニヤニヤとしている日向の姿があった。


「ん?なに、何かあった?ちょっと気持ち悪いよ……。」


「えー!ちょっとーー!女の子に向かってそれはひどいよー!」


「ごめんごめん。ははっ。」


「もうなんで笑うのー!それにその笑い方、あのデェズニーの有名な黒くて大きい耳を持っているあのネズミの笑い方に似ているよ、あっ!?もしかしてだけど、日陰って、ネズミだったの?うわぁ……。」


「いやいや、そんなわけあるはずがないでしょ。それに、すごいやけに遠回りに説明するんだね……。」


「もう、いいでしょ。じゃっ、バイバイ!……ってちがーーう!」


「じゃあ、何?」


「あのね、勉強会しない?私ができるとこなら勉強、教えてあげるよ」


 やけに、いい意味でいうとコミカルっていうか。あ、悪い意味なら、騒がしいって感じかな……。


 まぁ、それよりも勉強会?僕たちが通う学校って公立だったよね。結構簡単な試験だったと思うけど……?


 ……あ、そうか。日向は念のために、勉強した方がいいって思っているのかな?


「うん、分かった。いいよ!」


「オーケー!あ、大丈夫だと思っているけど……。」


「なに?まだなんかあったりするの?」


「私の友達来るからね!2人。私達の1つ上の先輩だよ。」


………………。


「ええええぇぇぇ…………!」


 僕は、近くにいる日向が聞こえなくて、僕がぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で、悲鳴をあげたのであった。









翌日


 そして、勉強会の会場は、僕の部屋で、ということになった。


 なんで僕の部屋ですることになったんだろうか……。でも、そんなことは今はどうでもいい。


 それより、あと5分か……。


 僕は、すごく、すごく、本当にすごく緊張していた。


 あっ、これは、一応言っておくが、大げさなどではないぞ!


 なぜなら、僕は学校の人の中で、しゃべったことのある生徒は、10人もいない。


 さらに、付け加えると、それは中学3年間でのことだ。


 そのため、話すことができる人は、少なかった。本当に最低限しか話さなかったからな。委員会もできるだけ自分の出番がなくて、地味そうなものを選んだ。


 名前に出すと、少しその委員会ががっかりしたり、怒ったりすると思うので、言わないでおく。


 そして、追加で付け加えると、部活は一番目立たないもの。それはつまり、帰宅部。まぁ、分かるだろうけど、簡単に言うと、なんの部活にも入っていないということ。


 僕が通っていた中学校は、無理に部活に入れようとしていなかったため、結構良かった。


 でも、まぁ、遠回しに、入れ、とはすごい言っていたが、それは気づかないふりをすることにして、無視していた。


「うわぁー、すごーい、さすが水谷家の豪邸だね!」


「そうだね!」


「はいはい。あがってー!立ってばかりじゃつかれるよー!」

「ささっ、どうぞどうぞー。」


 玄関の方から、インターホンのような、誰かが来たと、来客をしめす音が聞こえた。それに、本当に微かにだったが、プラスで声が聞こえた。それも複数人。


来たか……。


 階段の音が聞こえてきた。

 僕は、深呼吸をすると、扉の方に向かって歩いた。


コンコンッ


と、僕の部屋の扉を叩く音が聞こえると、僕は返事をして、友達たちを部屋に招き入れた。


「……はーい」

「こ、こんにちは」


 僕があいさつをすると、友達達は、固まっていた。


 あれ、なにかおかしかったところでもあったかなー……?とりあえず、もう一度やり直しておこうかな。


 すると、そう思っていたその途端、ふたりの友達の声が重なって響いた。


「「かわいい!!」」


そう言った途端に、僕に襲いかかってきた。


「うわああぁぁぁああ!!!」


 痛い痛い痛い痛い!すごい痛い……!

 そして、苦じい苦じいよ……。


 すると、日向が、なんとかやめさせるよう言ってくれた。


「ねぇねぇ、痛そうだよ!」


 と。その一言で、もう僕は救われました。ありがとう!!


 ……なんてくだらない茶番は終わりにしておいてっと。


 とにかく、助かった……。

 本当に日向、感謝だよ。


「「ごめん……」」


 そして、またもやふたりの声が重なって響いた。


 仲良しだったりするのかな?うん、いや、絶対にそうだな、なんて考えながら、「大丈夫ですよ。」と、少し無理矢理に笑顔にしながら、そう言っておいた。


「「ありがとーー!」」


「うわあぁぁああ!!」


 そして、これもまたもやふたりは僕めがけて抱きつこうとしてきた。


 でも、この出来事のおかげで僕は、このふたり相手に、緊張がすこし和らいだ。


 可愛いって言われたのは、お母さん以来だな……。


「はい、はい、じゃあそこでこの事は終了!勉強タイムにうつりましょー!」


 そして、日向の掛け声とともに、勉強タイムが始まったのだった。


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