第5話 初仕事 2

「……失礼します。」


 扉を開けると、その部屋は壁が薄いピンク色になっていて、ベッドの横にある小さな棚には可愛いぬいぐるみがあったり、時計も可愛らしいものが置いてあって、なにか女の子っぽい感じの部屋だった。


「……うわぁ、女の子か。ちょっと大丈夫なのかなぁー。」


 まぁ、することリストのなかに、起こすって書いてあるし、大丈夫だろう!


 そう自分に言い聞かせた。


 それにしても、今思えば中学校入って思春期になってから初めて女の子の部屋に入ったかも。


 そして、起こそうと、ベットの近くまで行って、あることに気づいてしまった。


 えっ!?


 これって……よ、幼児じゃない!?


 背はだいたい僕と同じぐらいだった。そして僕は今、中学3年生のなかでも平均ぐらいの身長。背の順が中学校にも残って、あったとするのならば、毎回真ん中になることだろう……。


 まぁ、大きくもなく小さくもなく、ほとんど取り柄もない。


 ……まぁ、そんなこと……いや……うん、そんなことは置いておいて。


 つまり、今寝ている人は中学生っていうことなのかな……?


 ほんとのほんとに起こして大丈夫なの?


「……うぅー……。」


 いいのかなー?

 そして、本当に驚いたのは、ここからだった。


「……あれ?もしかして……水谷さん?」


 そこで寝ている人は、まさかの中学3年生の時に同級生で、そしてさらには同じクラスの人だったのだ。


 水谷さんは、いつもクラスの中心人物であった。


 いつも元気で、男性、そして女性のどちらからも、いや、それどころか先生たちの間でも、結構な人気をほこるくらいの人物だった。


 そのため、クラスどころか、その中学校の中でも、中心人物だったりするのだ。


 そして実際に僕も憧れていた。みんなと楽しく遊んで笑っていて、本当に人生を楽しんでいるようだった。


 僕とは真逆の人生を歩んでいる。


 そんな人だ。


 ……まぁ、もしかしたら、水谷さんにあこがれているのは、人間の習性っていうか特性っていうか。ないものに憧れるっていう、そんな習性、特性からかもしれないけど。


 たまに僕の方を見ることがあるから、最初は僕への見せかけかでしているのかなんて変な考えで思っていたけど、でも別に罪悪感はないようだし、なぜ見ていたのかは分からないけど、僕も憎むことなど無く、本当にただ憧れていたぐらいだ。



 確かに僕のクラスに水谷って名前の人はいたのはわかっていたけど、ここに住んでいたなんて……


 お孫さんがその水谷さんだったなんて……


 ……あ、そうだ。


 過去になんて戻っていちゃ、いけないじゃん。起こさないといけないんだった。どうしようか……?


 ま、まぁ、お婆ちゃんが起こしてって言っていたし、することリストのなかに入っているし、とか、軽く洗脳をすると、僕は覚悟をきめた。


その時だった。


「キャアーーーーーーッ!」

「侵入……」


 僕が覚悟を決めるのが遅すぎて、水谷さんが自分で目を覚ましてしまったのだ。


 そして、水谷さんのその叫び声は、部屋中に響いた。


 うわー!自分で起きちゃったよー!それに、もう絶対に侵入者っていいかけてたよー!


 とりあえず、どうにかして落ち着かせないと……!


「あ、あの……水谷さん……?」


 すると、水谷さんは、これが僕だと気づいたみたいだった。


「え……、小夜くん?」

「どうして小夜くんはここにいるの?」


 水谷さんは、僕に対してそう質問した。





――――――――――――――――――――――




 そして、これまで僕に起きたことを全て話すことにした。



「そ、そういうことだったんだ……。」

「お婆ちゃんを助けてくれたひとが、まさかの小夜くんだったなんてね」


「う、うん……。」


「ありがとね。」


「あ、こちらこそ……。」


 ふぅー、大変だったー。

 でも、一応どうにかなって、本当によかったな。


「じゃあ、これから何回も私を起こしに来ることになったの?」


「ま、まぁ、そうなるね」


「まぁ、これからよろしくね」


「う、うん?」

「え、えーっと、いいの?」


「なにが?」


 えっ、気にしてないの?


 僕が起こすことになって、嫌がるかもしれないと思っていたけど、気にしていないようだったから、やっぱり僕も気にしないことにした。


「……いや、なんでもない。」


 それにしても、本当にいいのかな?なぜか知らないんだけど、すごい順応が早いんだけど。


「じゃあ次、服を着替えさせるってあるんだけど」


「あー、よろしく」


「………え?」


「いや、だから、よろしく」


「自分で着ないの?」


「私、不器用だから」


「いや、でも……。」


 不器用だからって……。たとえ不器用でも服着たりすることぐらいできるでしよ!


 でも、一応雇ってもらっている身なので、そんなことは言わないでおく。


 即解雇とか言われたら、僕もう死んじゃうんだからね!


「早くしてね。」


「……はっ!…あっ、分かりました……。」


 うぅー、なんでこんな事になっちゃうんだよー……。


 ちょっとぐらい羞恥心もってくれよ。これじゃあ、ぜったい僕、そんなにもたないよー……。


「え、えーっとこの服を着させればいいのかな?」


「うん。そうだよ。」


 なんか、どんどん水谷さんのイメージが壊れていくんだけど。


 なんでも、ちゃんと自分の力でやっていく人だと思っていたんだけど……。


 もしかしてだけど、昨日ずっと寝てたりしたのも、服着たりすることがめんどくさいからとか、なのかな……?


「あ、できるだけ、肌触れないでね。恥ずかしいから。」


 いや、僕にどれだけプレッシャーかける気だよ。本当に自分で着てほしいよ。


 さっきまで憧れてたとか、今考えると、どこに憧れるところがあるのかってツッコみたくなるよ……。


 そして、時間をかけて、どうにか服を着替えさせることに成功した。


「時間かかりすぎだよー。」


「…おい。」


なら、自分で着てよ……。着てくれよ……。


 僕は、心の中で、ふとそう思うのであった。











そして、朝ごはんの時間になった。


「いただきまーす!」


 水谷さんは、元気よく「いただきます」といった。しかし、なぜかなにも食べようとはしなかった。


 あれ?水谷さん、なんでごはん食べないんだろう。もういただきますって言っているのに。


 すると、水谷さんは、その理由を間接的に教えてくれた。


「……ねぇ、食べさせて?」


「………え……」


 どれだけ、させる気だよ。

 まぁ、とりあえず言うことは聞いておいた方がいい気がするし……。


「……。」


「早くしてね。」


「……はい……」


「…………あむ」


うぅーーー……。恥ずかしいよー!


「はい、もう一回。」


「はい……」


「…………あむ」


 羞恥心みたいなもの、水谷さんには1ミリたりともないのかな?


 僕は、そう思って水谷さんの顔を覗いてみると、少し顔を赤くしていた。


 ……やっぱり、少しくらいはあるんだな……。


 なんか嬉しい……! 

 

 そしてこの「あーん」が、何度も何度も続き、結果、ご飯が食べ終わるまで続いた。


 そして、僕の朝ごはんを食べるのが8時前後となってしまった。


 気づくと、いつの間にか僕の朝ごはんであるお味噌汁は、ヒンヤリと冷めていたのであった。

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