第3話 お婆ちゃんの正体

 そして、事故が起きてから1か月もしないうちに、僕はなんとか退院する事ができた。


 最近は、あまり足を動かすことがなかったせいか、自分の足なのに、なぜか動きががたがたで、ぎこちない。


 でも、病院内を歩いているうちに、足を動かす事にもだんだん慣れ始め、病院を出る頃には、普通の状態の歩きレベルくらいには戻っていた。


 そして、外にはあのお見舞いに来てくれたお婆ちゃんが来てくれていた。


 なぜ、助けたお婆ちゃん、と言わないのかというと、自分が助けたお婆ちゃんというと、なにか恩着せがましいような感じがして嫌だからだ。


 あっ……おばあちゃんはもう来ていた。やばっ、待たせちゃったかな?


「あ、お婆ちゃん。待たせましたか?」


「いやいや、別に待ってなんかないよ。本当に今来たところだから。そして、退院できたんだね、おめでとう。」


「あ、ありがとうございます。」


 なにか、恋人同士の待ち合わせみたいな会話っぽいものをしているような気がしたが、とりあえずは、いろいろと厄介なことになりそうなので、突っ込まないでおく。


「じゃあ、早速なんだけど、私の家に行くよ。」

「あ、そうだ。あなたの家の物とか持っていかなくていいのかい?途中に寄ろうか?」


「あ、いえ、大丈夫です。それほど必要なものはありませんので。あっ!…………いやでも、まぁ大丈夫です。着いたあとで取りに行こうと思います。」


「でも、途中で寄ったほうが早いだろうけどいいのかい?」


「はい、手間をかけさせるわけにはいかないので。」


 そして、お婆ちゃんと僕は、お婆ちゃんの家にむかった。


 しかし、僕はお婆ちゃんの家がどこにあるのか知らないので、聞いてみた。


「そういえば、お婆ちゃんの家ってどんな感じなんですか?」


「それはね……。」


 何をもったいぶっているのだろう?、などと考えていると、お婆ちゃんが急に足を止めた。


 僕はついたのかと思い、お婆ちゃんが止まったその先を見てみると、そこには、この街の中で1番のお金持ちと呼ばれる水谷家のお嬢様の豪邸と噂されていた建物があった。


「ここだよ。」


「……え?」

「え、えーっと、本当にここなんですか?」


「えぇ。そうよ。」


「え、えーっと……」


 僕にはお婆ちゃんに家を示されているのに、正直何を言っているのかが分からなかった。


「ほ、本当にここで働いてもいいんですか?」


「あー、だって、あなたは命の恩人なんだしょ。なら、遠慮することはないじゃない。」


「でも……。」


「いいのいいの。」


 僕はただ、お婆ちゃんの介護をするとばかり思っていたけど、そのままの意味だったなんて……。


 ただ、お婆ちゃんを助けたというだけで、こんなにもすごい豪邸で、働くことができるようになるなんて……。


 そうして、これから始まる僕の人生は、これまでの人生とは、180度真逆に変わっていった。









「うわぁ……!すごいな……!」


 水谷家の豪邸の扉を開けてみると、そこには執事の格好をしている人や、メイドの格好をしている人が、玄関を出てすぐのところで並んでいた。


「「「「お帰りなさいませ。」」」」


 そして、おばあちゃんが帰ってきたということを確認すると、その人たちは声を揃えて一斉に挨拶をした。


 まるで、僕がお金持ちになってみんなから慕われているように感じた。


 ……ん?いや、実際は違うっていうことはわかってはいるけれど、その気分でいたいから、一応否定しないでおく。


「荷物をお持ちいたしましょうか?」


 さすが、お金持ちの人は違うなぁ。普通、世話係なんて雇わないもんなぁー。


 なんて、そんなことを考えながら、僕は執事の人に僕の持っていた荷物を渡す。


「ご案内いたします。」


 そして、執事の人がそう言うと、お婆ちゃんが、僕に対して今日のことについて説明された。


「じゃあ、執事さんに付いていってちょうだいね。あと、今日は仕事はなしでいいからね。この家のいろんなところをみてまわっておいで。何がどこにあるか把握しておいてね。」


「分かりました。あの、ありがとうございます。」


 よかった。今日はまだ退院したばっかりで、ちょっとくらいは休みが欲しいかなって思ってたんだよな。


 ま、入院している間は、ずっとベッドで寝ていたりしていたけど……。


 そして、執事の人に案内され、これから僕が住む部屋についた。


ガチャッ


 扉を開けると、その部屋は、それだけで僕がすんでいたアパートの部屋の2、3倍はある広さだった。


 こんな部屋、もらってもいいのかな。


 とか考えていると、まだ執事の人にお礼を言っていないことに気づいて、お礼をしておいた。


「あっ、ありがとうございます。」


 そう執事の人に言った後、僕は部屋の中をみてまわった。

 いつも住んでいる所以上に部屋が広いせいか、それとも荷物が少ないせいか、とても解放感がある。


「じゃあ他の部屋も見てみるか……。」


 前に、お城の見学があったときも感動したんだけど、それ以上に感動する……!


 こんなにもすごい部屋が何個もあると思うと、あのお婆ちゃんの凄さが感じられる。


「こんなに部屋があって、お婆ちゃんと、執事の人、メイドの人ぐらいしか住んでいないのかな……?」


 すると、ふと、家族って今どこにいるのかな?と思った。


 気になるし、後で聞いてみるとするか。


 その後、トイレの場所にお風呂の場所、そして、食堂。だいたいの部屋をみてまわった。


 そして、自分の部屋に戻ると、この部屋に置いてある大きいベットに寝転んでみた。


「始めてだなぁ、こんなフカフカで大きいベットで寝るの。いつもはこの二分の一くらいの小さいベッドだったからなー……。」


 こんなところで生活できるなんてね……。


 自分は、このベッドに取り込まれてしまい、もう気持ちが良くて、動くことができず、このベッドから離れたくなくなってしまった。


 だからか、それともそれ以外のことが原因なのかはしらないが、気づかぬうちにそのまま眠ってしまっていた。




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