第2話 交通事故
「んんー……。」
「……あれ?あー、そうか。いつの間にか眠ってしまっていたのか。」
目が覚めて気付くと、もう外からは鳥の小さくて、綺麗なさえずりが聴こえ、閉じられていたカーテンからは、光がほんの少しもれていた。
「とりあえず、またどこかに面接しにいってみることにするか……。」
「だってやっぱり、無職にはなりたくないしな……。」
「……まぁ、なってるにはなっているんだけど。」
今日は、なんとなく外に出てみることにした。現在は、昨日の状態のまま、スーツで寝てしまっていたので、しわくちゃになってしまっていた。
どうするかはまた後で考えることに決め、僕はとりあえず新しい服を出して着替えた。
そして、結果的に、脱いだスーツをクリーニングに出すことにした。
とりあえず、クリーニング店に行ってみることにするか。
先程まで着ていたスーツを小さくたたむと、そのスーツがに2、3着程度入るか入らないかぐらいのかばんにしまった。そして、かばんを持って、僕は扉を開けて、もう太陽が輝いている外にでた。
とりあえず、商店街に向かうことにした。その途中、なにを考える気にもなれず、僕はただ、道路を2、3分ぐらいずっとぼーっとしながら歩いていた。
どうしようかな?ずっとこの状態だったら親に迷惑かかるし。なにか見つけないといけないよな。
そんな時だった。
僕の視界の先には、横断歩道を青信号の時に渡りきれていなかったお婆ちゃんがそこにいた。
でも、これで渡りきればなんの問題もないのだが、そこに運悪く、居眠り運転をしているトラックがそこにむかってきていたのだ。
「……危ない!」
僕は、全速力で走ってお婆ちゃんのところまでむかい、命の危険が迫っているので、少し強めに背中を押してあげた。
だから、なんとかお婆ちゃんは無事に横断歩道を渡りきる事ができた。
しかし、僕は間に合うこともなく、トラックに引かれてしまった。
よかった……!
お婆ちゃん、助かったんだな……。
今は、自分の方が危険で、死にそうなときなのに、そんな自分の事など、1ミリたりとも考えてなどいなかった。
「……知らない天井だ。」
僕は目を覚ますと、思わず、あのどこかの小説家が使っているどこかの物語のどこかの有名なセリフを使っていた。
でも、本当に何処なんだろう、ここ?
気になって、周りを見渡してみると、ピッピッピッピッときまったリズムで音を鳴らす機械に、1面の白い壁。ここは、病室のようだった。
あっ、そうだ!僕はトラックに引かれてしまっていたんだった。
よかった、なんとか生きのびることができたんだな……。
そういえば、あのお婆ちゃんはどうなったんだろうか?無事だったのは分かるんだけど、背中を押してしまって……。ピンチだからって思って……。
ちょっと強く押しちゃったかな……?
そんなことを考えていると、僕の隣にある扉がコンッコンッとなった。
そして、ガチャッという音とともに、病室の扉が開いた。そして、一人の看護師さんが入ってきた。
「失礼しま…あ、よかったー。目を覚ましたんですね」
目を覚ました?目を覚ましたって表現を使うってことは、僕は結構長く眠っていたのだろうか?
それで気になって、僕はそのことについて聞いてみることにした。
「あのー、すみません。僕は、ここでいったいどれくらいの時間の間、眠っていたんでしょうか……?」
「うーん……。えーっと確か、1週間ぐらいですかね……?」
「そ、そうなんですか……。」
1週間も眠っていたのか……。
僕は、長くてもだいたい3日程度だろうと思っていたので、少し驚いた。
あ、そうだ!あのお婆ちゃんは、あの後にどうなったか聞いてみるか。
「あ、それでお婆ちゃんはどうなったんでしょうか?分かりますか?」
すると、看護師さんは、僕の質問を聞くと、その途端に笑顔になり、そして、答えてくれた。
「ふふふ。あなたが助けたお婆ちゃん、ちょうどいいことに、今まさに来てくれていますよ。」
え、お婆ちゃん、来てくれたんだ?別に来なくても良かったのに……。
「え、そうなんですか?」
「はい。」
「じゃあ、呼びますね。どうぞー、お婆ちゃん!入ってきてください。」
そして、あのお婆ちゃんが入ってきた。
それと同時に、看護師さんは、礼をしてこの部屋から出ていった。
「こんにちは。」
僕は、お婆ちゃんに対して、こんにちは、と挨拶をすると、微笑みながらお婆ちゃんは同じように返してくれた。
「あ、そうだ。お婆ちゃん、大丈夫でしたか?あの時、背中をちょっと強く押してしまったような気がして……。」
「それでケガをしてしまっていたら……。」
「いえいえ、大丈夫でしたよ。それに、押してくれなかったら、私はもうこの世にはいなかったんだから。本当にありがとうね。」
「いや……。」
人から感謝されるのって、久しぶりだけど、嬉しいものなんだよな。なんか……うれしい!
僕は、人から感謝されるということを忘れていた。
学校でなにか手伝ったときも、それが当たり前だと考えられていて、感謝されることなど無かった。そのため、少し照れてしまった。
「そうだ。よければ、なにか手伝わせてくださいませんか。私ができることならなんでも……。」
親切だなー、お婆ちゃん。
でも、バイトのことを話したらいろいろと悪い思いさせちゃうかもしれないし、やめておこうかな。
「えーっと……大丈夫です。」
本当は、全然大丈夫じゃないんだけどね。バイトも見つからないし、お金もない……
そうだ、そういえば治療代って高いよね。お金、どうしよう……。
困ったなぁー……。
「大丈夫じゃないみたいだね。」
え?
「……え?」
心の声と、いま出しているこの声が、完全に重なる。久しぶりかも。よく見せるために嘘ついてばっかりだったから。
「嘘、ついているんでしょ」
な、何で分かったんだろう。
もしかしてだけど、なにか超能力でも持っていて、それで心でも読めたりするのか?
「心なんて読めないよ。」
ほらー、読めてるじゃん……。
なんか怖いなー。
「怖くないよ。」
……え?
やっぱり、もうほとんど確実に心読めてるんじゃない……?
「遠慮なんてしなくていいから。」
「なにか、あったのかい?」
「はい……。」
どうしようか。まあ、とりあえず、話すだけ話してみようかな。もしかしたら、気がまぎれて楽になるかもしれないし。
「実は、今、お金がないんです。」
「バイトもすべて不採用で……」
そして、今ある僕の状況を、全て話す事に決めた。
すると、お婆ちゃんは、にっこりとした顔をして、1つの解決策を持ち出してきた。
「じゃあ、家に来ないかい?私の家の世話係として」
「え……でも……。」
「なんと、朝昼晩3食ついて、寝る場所も用意できるよ。これならどうだい?」
「いやいや……。でも、本当にいいんですか?」
家に世話係って普通の家には要らないんじゃないかな……?
あ、そうか。多分お婆ちゃんがの介護とかかな……?
「じ、じゃあお願いします。」
そして、僕の職場が決まった。
「そうだ、治療代。どうしよう……?」
どうするべきか考えていると、お婆ちゃんが、最後まで親切にしてくれた。
「あー、私が代わりに治療代を払っておくよ」
「え、いや。そんなにも……でも、頼んでもいいですか?」
「あー、いいよ。」
「すみません。本当にありがとうございます。」
「どうも。」
そう口にすると、お婆ちゃんはこの病室から「さようなら」と言って出ていった。
本当に、何から何まで……。
さすが、心が読めるってすごいなぁ。
でも、いい意味で、とっても長生きしているんだろうし、なにかが何となく伝わってくるんだろうか……?
まぁ、本当によかった。お婆ちゃん、優しかったなー。
本当に感謝しかないよ。
でも、ほんとによかったのかなー……?
僕は、僕のせいで借金になって負担になったりしないか、少し不安だった。
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