地味な僕でもクラスの中心人物の世話係になることはできますか?
一葉
水谷家の豪邸
第1話 バイト探し
ピピピピッピピピピッ
デジタル時計の音が、この小さなアパートの1室の中で、僕が起きるのを待っているかのように、いつまでも鳴り響く。
それに、更に言うと、天井が低いため、反響してさらにうるさく感じてしまう。
「ん……、うるさいなー……」
バンッ
僕は、そのデジタル時計の音のうるささのあまり、そう呟いていた。今、まだ眠い僕にとっては、自分で設定したのになぜか妙に苛つき、デジタル時計を強めにたたいてしまった。
「あ……」
やばいな、うるさくて思わず、デジタル時計を壊しちゃった……。
横を見てみると、そこには壊れて画面に何も映っていないデジタル時計が、小さな戸棚の上に寂しそうにポツンと置いてあった。
どうしようか……。
デジタル時計って、なぜか意外に高いんだよね。お金無駄に使いたくないしな。
ま、まぁ、必要な物だったら、無駄遣いじゃないし、しょうがないかな。
そんな風に言い訳しながら、僕は身体を起こす。いつもはそれにプラスして、眠気を少しでも抑えるために目を擦っているのだけれど、さっきの一件で、もう目が完全に覚めてしまっているので、必要はない。
とは言っても、日課は日課。なぜ目をこすっているのかも忘れ、自然と目をこする。
あ、そうだ。今日から春休みになったんだった。
今日は面倒くさいけどバイト探しでもしないといけないな。
一応、5、6件くらいは探したんだけど、本当に大丈夫なのか心配だな。
そんなことを考えながら、貧乏人である僕は、大きいダンボール箱の上に乗っているパソコンの電源をつけて、デジタル時計ができるだけ安く売っているところを探すことにした。
ちなみに、パソコンのアカウント名は、陰という名前にしている。僕の本名である小夜日陰(さや ひかげ)の名前からとった。実に単純だ。
パソコンの電源を立ち上げると、まずは、よく開いている所をまとめてある場所。つまり、お気に入りの欄を開く。すると、そこには2つのサイトが出てくる。1つは、昨日卒業式を行った中学校のホームページ。そして、2つ目は、ネットショッピングだ。
えーっと……まずは、昨日にもう卒業式もすんだし、ここのホームページは別に使わないだろうな……。
そう言って、中学校のホームページを、このお気に入りの欄から消す。
そして、次は高校のホームページでも……というわけではない。僕は高校に行かないことに決めてあるからだ。
高校に行かないのは、決して頭が悪いわけではない。どちらかというと、頭がいい方だと僕は思っている。
それでも、高校の受験に受けないのは、金欠と、……単に友達がいないから……。
まぁ、そんな僕のどうでもいい話は置いておいて、用意を終わらせると、僕は自分が受ける予定のバイトの受験時間を書いたメモの紙を見て、今日の予定を確認する。
「今日は、えーっと……ファミレスとコンビニのとこの面接か……。」
声に出すと、記憶に残りやすいと、どこかで聞いた覚えがあるので、僕は取りあえず小さく呟いておいた。
……ふぅ。緊張するなー……。
そして、扉を開けて部屋の外に出ると、まずはファミレスに向かった。
「えーっと、こっちなのかな?」
僕は、食費の削減のためにいつも家で料理を作ることにしている。だから、僕はファミレスになど、中学生になってから1度も行ったことがなかった。
そのため、スマートフォンの地図アプリを使って、僕はファミレスに向かっていた。
ウィーーン
おぉ、自動ドアなんだ。いいなぁ、僕の住んでいるアパートにも付けてほしいなぁ。まぁ、絶対に無理だということはわかっているけど。
うぅ……。なんでこんなこと考えちゃったんだろう……。
僕は、勝手に自分の部屋に自動ドアを付けたときのことを想像して、勝手に落ちこみながら、店の中に入る。
「いらっしゃいませ。」
カウンターにいる人は、ファミレスの中に入っていく僕に気づくと、店員さんはすぐに僕に声を掛けてくれた。
バイトの面接をする時って、カウンターにいる人に言えばいいのかな?バイトの面接は初めてだよ。
そう考えると、僕はカウンターにいる人に声を掛けることにした。
「あのー、すみません……。」
「はい、なんでしょうか?」
「あのー、バイトの面接をするためにここに来たんですけれど……。」
「あ、分かりました。じゃあ、こちらについてきてください。」
そう言って、僕は店員に付いていき、店の裏側の方に連れてこられた。
良かったー。正しかったのかどうかは分からないけど安心して一息つく。
「じゃあ、用意ができたら呼ぶので、その時になったら、部屋に入ってきてください。」
「あ、はい。分かりました。ありがとうございます。」
そして、その後、5分くらいの時間が経った。すると、中から僕に対して言っているであろう声が聞こえた
「入ってきてください。」
僕は、そう呼ばれたので、まず最初に扉の前で深呼吸をすると、一声かけてから部屋のなかに入っていった。
「失礼します。」
「はい、どうぞ。」
そして、僕は椅子の前に立つ。緊張からか、少しばかり足が震えていたが、背筋を伸ばせばなんとかごまかせるかなと考え、できるだけ背筋を伸ばすようにした。
「お座りください。」
そして、僕が椅子に座ったことを確認してから、話し始めた。
「じゃあまず、氏名を教えてください。」
「はい。さ、小夜日陰、です。」
「これは、珍しい名字ですね。小さい夜とかいて、さやと読まれるんですね。」
面接官らしき人、多分ここの店の店長であろう人が、僕が事前に送った書類を見てそう言っていた。
「は、はい。」
それ、今聞くことなのかな……?
ま、まぁ、いいや。えっと、志望理由は人と接することが好きだからって感じかな……?
今の僕を見ると、完全に嘘ついてるなって絶対に分かるんだろうな……。
あ、でも好きだけど苦手って言う人も少なからずいると思うしな。
大丈夫かな……?
などと、不安になりながらいろいろと考えていく。
「じゃあまず、ここの店を選んだ、志望動機を教えてください。」
「はい、僕がこのファミリーレストランに志望した理由は……。」
その後も、アルバイト経験はあったか?だったり、長所はどこだ?だったり、アルバイトをしてからの事に関係してきそうな質問を多く聞かれた。
「……これで面接を終わります。ありがとうございました。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
「じゃあ結果は、また後日、送らせていただきますね。」
「分かりました。」
「はい、ありがとうございました。」
うわー、緊張したー……。
次はコンビニの面接をしないといけないのか。途中で集中力が切れたりしないかなー、すごく心配でならないんだけど……?
とかなんとか考えながら、ファミレスを後にする。そして、次はコンビニにむかい、ファミレスの時と同じように面接を受ける。
そして、コンビニの面接も、なんとか無事に終えることができた。
「よかったー、なんとかもったなー……!」
そして、その後も、いろんなところの面接を受け続けた。
そして、合否確認日。
アパートの一室で、すごい変な空気が流れていた。
……ひっひっふぅ……ひっひっふぅ……。
少し、呼吸がおかしい。
まぁ、唯一、中学校でほとんどしゃべることなんて無かったのがちょっと怖いけど、6個も受けたし、大丈夫でしょ。
と、自分に軽く洗脳をする。
よし、開けてみるぞ。
そして、届いた書類を確認してみる。
結果。……全部不採用だった。
「……え、どうしよう……?」
さすがになにかひとつぐらいは受かってくれるとは思っていたけど……。
そこまでコミュニケーションが出来てない訳じゃないとは思っていたけど……。
ひどいのかな……。どうしよう。今日から僕は無職なのかな……。
でも、やっぱり中卒という部分がすごい影響を受けたんだろうな……。
うー……。
僕は布団にもぐると、人生もう終わったなーとか、こうなったら死んでしまおうかとか、ボソボソと呟いていた。
そして、僕はいつの間にか気づかぬうちに眠りに落ちていたのだった。
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