第28話 ツッコミのガス抜きって大変なのよ

 前回のあらすじ。

 冒険者で暇を持て余していたユノ、マユラ、メルトの三人はとある3人の冒険者のそれはそれは嫌~な場面を目撃してしまう。

 居ても経ってもいられなくなったユノがその嫌~な場面で被害を受けていたトロ子ことルルを救出した。


 すると、そのルルから「どうすればモテれるのか」と相談された。

 そして、ルルからの相談を受けているうちに謝り癖があると発覚し、そこを強制していくことに。

 しかし、本当の問題は本人が「どんくささ」と認識している異常な力であった。


「(つ、机が握力で粉砕した......!?)」


 ユノはそんな禅にしか出来ないようなことを普通の冒険者がしていることに驚きを隠せなかった。

 確かに、この世界は魔法があって自強化の魔法も当然ある。

 しかし、大男でも拳を叩きつけないと破壊できないような丈夫な机を片手で、それも恥ずかしそうに握って砕いたのだ。

 どんくささ以前にただの恐怖である。


「そ、それは......そんな風にできるのはいつからですか?」


「生まれた時ですかね? 私が赤ん坊の頃に椅子を振り回していたことを面白がって伝えてくれたことありますし」


「そのどこら辺が面白いかわかりませんが......まあ親のひいき目というのでしょうけど、それじゃあ弟や妹から心配されてたのって」


「すぐ壊しちゃうからなんですよね。私、緊張すると力んじゃうみたいで。それにそうじゃなくても転んで落としたりが多かったので」


「そうですか。それは大変でしたね」


 なんということか。異常な力は天性のドジとともに増幅されてしまっているらしい。それで上がり症とは随分苦労した事だろう。

 ......いや、何ちょっとだけ恥ずかしそうな顔してるの。確かに、ドジを公言するのは恥ずかしいけど、それよりも強烈な問題をかかえてるからね?


 ユノは思わず呆れたため息を吐く。いや、呆れたというより疲れたという方が正しいか。

 こう言っては何だが厄介な頼まれごとを引き受けてしまった気分だ。しかし、受けたからにはやり遂げねば。


「それで『モテたい』というからには意中の相手がいるということですけど、具体的には誰なんですか?」


「え!? そ、それは言わなきゃダメですか!?」


「当然ですよ。どうせモテるなら意中の相手を落とすぐらいじゃないと。もっというと意中の相手にモテたいから頑張るんでしょ? 目標なしに突っ走るのもいいですけど、大概どこかで走ることを止めてしまうものですから、ゴール設定は大事です」


「そ、そうですね。ただ漠然と広い目標だけじゃだめですよね。え、えーっと、その人は青鎧の王子と呼ばれる人で......」


「青鎧の王子?」


 か細い声で告げたルルの言葉をユノは聞き返すように言葉を返した。

 すると、その言葉に反応したのはメルトで、その王子の情報について伝えていく。


「『青鎧の王子』って言うのは甘いマスクをした顔立ちと誠実さを兼ね備えた愛称のようなもの。ちなみに、青鎧は単純に来ている装備から。この町に最近やって来たルーキーではないけど、そこそこ冒険者経歴の長い人で、それなりの実績もある。まあ、才色兼備って感じで女性冒険者の中では高根の花の存在」


「随分と知ってるね。好きなの?」


「そうじゃない。ただ用があってたまたま調べていただけ。用っていっても別に何もしないし、私の興味は生気のない目をしたイカレ野郎の生態を調べることだから」


「まあ、ゼンさんにはご愁傷さまですって感じで、そんな感じの人なんですね。まだ見たことないです。とはいえ、なるほど......その人が意中の相手ですか。そうとなれば、当然あの3人組もそうなんですね?」


「恐らく、はい。あの三人は普段会話が噛み合っているようで絶妙に噛み合ってないんです。ですが、その人の話題だととても噛み合って......でも、その目は全く笑ってないです」


「うへぇ、私が天界で見ていた昼ドラよりドロドロしてるじゃないですか。というかまあ、昼ドラはあくまでフィクションでドロドロしてるからハラハラもありますけど、現実リアルじゃあ普通に知りたくないですね。というか、興味もないですけど」


 ユノはふと「あ、最終回って録画してあったっけ?」と思いながら、席を立つとルルに告げる。


「とりあえず、ドジもなにも私達はあなたを知らないとアドバイスのしようがありません。少しついてきてもらっていいですか?」


 そして、ユノはルルを連れて移動していく。成り行きで乗っかったマユラとメルトもついていくとそこはちょっとした開けた草原の上。

 まばらに木々が生えていて、少し大きめな岩が点在している。


 そこにルルを連れて行くとユノは大々的に告げた。


「さあ、これから見せてもらうは女同士のなまめかしボディを動かした企画! “体力、気力、知力でモテる女を決めろ! 第1回ドキッ! 女同士の大測定大会~ポロリもあるよ~”どんどんどんぱふぱふぱふ~」


「いぇーい!」


「い、いぇーい?」


「......」


 昔どこかにあったいかがわしさをにおわせる企画名に元気よく拳を突き上げたのはマユラだけで、ルルは困り気味に半分まで上げて、メルトに至っては完全に冷めている。

 しかし、完全にある意味スイッチが入っているユノはどこ吹く風で進行していく。


「えー、今回の企画を務めさせていただきます、司会進行のユノです。どうぞお見知りおきを。いや~、ついに始まりましたね。こういうの一回やって見たかったんですよ。解説のユノさんマークⅡさんはどうですか?」


「え~、そうですね。実は私も非常に楽しみにしておりました。女の子同士のくんずほぐれつ、もう神回決定ですね(ユノ裏声)」


「......何あれ?」


「一人二役やってますね......」


「ユノちゃん、楽しそう~」


 完全に悪ふざけだけで突っ走って行く気満々のユノと冷ややかに見るメルト、動揺が隠せないルル、他人事のように告げるマユラ。

 もはやこの4人の温度差だけで灼熱から極寒までありそうだ。


 普段ボケを収めるツッコミ役としての活動が多かったせいか、やはり溜まるものがあったのだろうか。

 ツッコミが一応できる禅がいない以上、もう彼女を止める者はいない。


「さあ、今日のモテ女を決めるに相応しいチャレンジャーを紹介していきましょう! エントリーナンバー1番。愛する意中を落とすためならば手段も何も選ばない。召喚魔法で召喚した魔物にまで交配活動をさせる淫乱ドピンクこと魔女マユラ~!」


「はーい、マユラだよ~! 手段を選ばないは誤解があるけど、愛のためならば仕方ないよね」


「続いてエントリーナンバー2番。仕事は殺すこと、しかし今はもっぱら足を洗って絶賛暇を持て余し中。なので、やることと言ったら殺せなかった相手の素性から人間関係、生態調査をするぐらいしかない元殺し屋メルト~!」


「.....よろしく。ちなみに、別に暇を持て余してるわけじゃない。他に割く必要がある時間があるだけ」


「そして最後のメンバー。エントリーナンバー3番。謝り癖が特徴的な気弱な女の子。そして、ドジっ子属性があると思ったらとんだ食わせ物。今回のダークホースになりうるか破壊神ルル~!」


「え、あ、はい、ルルです! 精一杯出来ることをやっていきます」


「さて、総勢3名によるしのぎをかけたくんずほぐれつのキャットファイト! 始まりはCMの後!」


 ユノはそれはとても楽しそうに言っていた。

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