第27話 乙女の会話が清廉だと思ってるなら一回スカイダイビングしてこい

「「「「......」」」」


 冒険者のギルドのとある場所にて4人の少女が向かい合うように座っていた。

 そして、どう切り出したらいいか迷っているのか誰も発言することはなく、ただ沈黙だけが流れる。

 いじめ現場を目撃してしまった時とはまた違った気まずさ。

 二つに髪を縛った茶髪の少女トロ子はこの妙な緊張感に委縮してしまっているのか固く口を閉ざしている。


 さすがにあんな現場を見て首を突っ込まずにはいられないし、何より最後の頼まれごとがとても気になるのだ......なぜそこ? と


 ユノは一つ軽く息を吐くとトロ子に聞いた。


「まずは自己紹介をしましょうか。私がこのパーティで一番の常識人であるユノ。そして、右隣が一見見た目は文学少女的だけど中身が淫乱ドピンクのメルト」


「急にしゃべり始めたと思ったら随分なぶっこみだね」


「そして、左隣がある意味意中の相手を落とそうとしているストーカー」


「もしキャラ付けでわかりやすく言っているのなら、自分だけプラスしか言っていないのが解せない」


「それであなたは?」


「わ、私はルルと言います。はい、ごめんなさい......」


「ちょっと、何を謝っているのかわからないですけど、さっきの頼まれごとなんだけど――――――」


「あ、さっきのはおかしかったですよね! 気持ち悪かったですよね! 変なこと言ってごめんなさい! 私みたいなのがごめんなさい!」


「おっとー、すこーし落ち着こうか。これじゃあ、私がさっきの人達と同じみたいですよ」


「ご、ごめんなさい......」


 そう言ってルルは縮んで存在感を小さくしていく。随分立派なものを主張してくれているくせに気は対照的に小さいらしい。

 そして、どうやら謝る言葉が口癖みたいのようだ。それはあの連中に絡まれたせいなのか、はたまたもともとなのか。


「それで咄嗟とはいえ、あなたが口走ったあの言葉は本気のように思えました。あなたの本心は『モテたい』と思っているんですね?」


「は、はい......私は昔っからどんくさくて、小さい頃からよくからかわれてて......だ、だから、大人しくしようと思っていたのですが、家の事情で私が頑張らないといけなくなって......」


「家の事情って?」


「わ、私が一番上のお姉さんなので、弟や妹たちのためにお金を稼がないといけなくって。その子達は私のどんくささを知っていて止めてくれたんですけど、『大丈夫だから』って冒険者になったもののこのざまで......あ、不快な思いをさせてしまったならごめんなさい」


「別にそんなことないですよ。むしろ、感心しました。立派じゃないですか。家族のために頑張れるのって」


「それでどうしてそんな気持ちを抱くようになったの?」


「そ、その......あるクエストでモンスターに襲われたときに助けてくれた人がいて」


「それで惚れた。しかし、その男に惚れているのが他にもいてそれがあの3人組」


「!......そ、そうなんです。私が助けられた時にたまたま距離が近かったことを根に持って......それで......でも、物語に出てくる王子様みたいでカッコ良かったんです。だから、ふとそう思ってしまって......で、でも、そんな気持ちいけませんよね。私は家族のために稼いでいるっていうのに、こんな色恋にうつつを抜かしちゃ」


「別にいいんじゃないですか? 家族のために頑張っているんですし、その見返りがあったっていいはずです。たまには自分にご褒美を与える機会があったっていいはずです。となると、ルルさんはずばりその意中の男性とお近づきになりたいわけです?」


「つまり。ピ―――――――――だね」


「こら、なんでそんなにハッキリというんですか!? この子は全く......ストレートに言っていいことと悪いことありますよ!」


「そうね。今のはさすがにストレートすぎ、“あなたの聖剣を私の鞘に納めて抜き差しして欲しい”ぐらいが丁度いい」


「表現変えただけじゃないですか!? 何ちょっと言葉巧みに使ってるんですか!? 完全にオブラートの膜を破って漏れ出てるじゃないですか!?」


「でも、結局そうなるよね。最初は純然たる気持ちで付き合いたいと思っても、所詮は男と女。いや、オスとメス。行きつく場所はそこだと思うよ。なら、ゴールもそこでよくない? 的な」


「裏に隠しときなさいよ、その気持ちは! 確かにそういうのはあるかもしれないけれど、否定はしないけれど、そういうのってさ! もっとこう互いの気持ちが縮まってようやく踏み出せるステップでしょ!? それをストレートに......少しは何かで割ってください!」


「う~ん、蛇のように絡み合わないとか?」


「いっそのことつり橋効果を狙ってみるとか。ヤらないと死にますよ的な」


「あ~、この二人がいる状況で聞くのがバカでした。いや、バカはこいつらか。それに掘り下げてないので。すみませんね、こんな下世話な会話で―――――」


「野獣のような突きを体験させてくださいとかどうでしょう!」


「「いいね、それ」」


「いや、ルルさんもそっち側!? まさかの掘り下げる方なの!? それになんか今まで詰まり詰まりで話してたのになんかやたらと流暢なんですけど!?」


「あ、ごめんなさい。全く興味がないわけじゃないので......というか、むしろ強い方なので、い、淫乱でごめんなさい!」


「そんなことを大声で謝らないで! なんかこっちが恥ずかしいから! 見た目大人しそうなんだからもう少しこっちに気を遣って! まるで言わせたみたいになってるから! あと、マユラそこシンパシーを感じた目を向けるのはやめなさい」


 ユノは怒涛のボケのラッシュにやや息切れる。どうして自分がこんな立場を背負わなければいけないのか全く分からない。

 ただ言えることはこのままツッコミ不在警報を発令させるのは不味いということ。誰かが止めねばならぬのだ......ほら、やっぱり常識人じゃん自分。


「ともかく、ルルさんが惚れた理由も頑張りたい理由もわかりました。とはいえ、そのためには解決しないといけないことが山積みですね」


「そうだね。まずは性に対する協調性をもう少し―――――」


「それは十分です。恐らくもうカンストしてますから。それよりも、その卑屈な姿勢ですね。何を始めるにも後ろ向きな考えでは前にも進むことが出来なければ、スタートラインにすら立つことなんてできません。なので、まずはその気持ちを直しましょう」


「直すってどのようにですか......?」


「一先ずはあの謝る口癖でいい」


「そうですね。しっかりと言葉を伝えるのならそれがまず一番でしょう。しゃべることはしっかりしゃべれるんですから。あんまりにも謝ってると人によってはイライラさせてしまいますからね」


「そうなんですか!? ごめんなさい、私......!?」


「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいです。まずは回数を減らすことから」


「ごめ......わかりました」


 ルルは思わず口から漏れ出そうになった言葉を飲み込むと頷きながらそう告げた。案外根っこは深そうだ。戻すのには時間がかかると見ていい。


 そう思ったユノはルルに自分でも言っていた「どんくささ」というものがどんななのか聞いてみた。とはいえ、運んでいたものを躓いてこぼしたり、何もないところで転んだりとかだろうけど。


「それでどんくさいって言うとどんななんですか?」


「そ、そうですね。一番多いことだと―――――」


 そう言ってルルはおもむろに机の端を掴み始めた。その瞬間―――――


―――――――バキッ


「「「!?」」」


 机全体に亀裂が走っていく。その力は明らかに少女が出せるものではなく、なんなら握力で机を破壊するとかありえない。


「わ、私、どうにも力が強いみたいで......つい力が入るとこんな風に良くものを壊してしまうんです」


「「「(いや、どんなどんくささ!?)」」」


 この時三人の気持ちは初めて一つになった。そう、それはどんくさいではない。ただの破壊神だと。

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