第2話 決戦の地

「くっ、まさか魔王がこんなに強かったなんて……」


 ボロボロになった俺は地面に突っ伏す。

 体中は傷だらけで、服は破れに敗れて素っ裸だ。

 

(くそっ。こんな時に破れない服があれば……)


 絵本の英雄達のように、ドラゴンの炎を浴びても燃えず破れず。

 所有者が死にそうでも決して、大事なところを死守する、伝説の装備。

 

 あれさえ、あれば。

 

「ぐわーはっはっはっ。どうした小僧。威勢のいいのは最初だけだけだったな」


 魔王が大声で俺を笑う。

 頭に角が生えて、実に魔王らしい魔王だ。

 

「お前が、……じゃなければ」


 腕で身体を隠して、俺は必死に魔王の攻撃から身を守る。

 

「ほらほら、どうした? 我が四天王を破った実力はそんなものか?」


 ビュンビュンビュン。

 バシバシバシバシバシ。

 

「ぐわああああ」


 魔王の攻撃によって、俺は吹き飛ばされてしまう。

 

「くくく、さあ止めだ」


 魔王が、その右手に持つオリハルコンの鞭で、バシンと地面を叩く。

 

「……仕方ない」

「ん?」

「俺も、覚悟を決めよう」


 最後の力を振絞って立ち上がる。

 

「戦刃竜気……最大解放!!」


 俺から莫大な黄金の力が噴き上がる。

 

「な、何だと!?」


 竜族のみが使える戦刃竜気は、本来ならば人間が使えるものではない。

 適正と、そしてあまりにも過酷な、過酷すぎる試練を乗り越えた者にしか使う事はできないのだ。

 

 もし、ただの人間が戦刃竜気を使えば、死ぬ。

 

「決着だ、魔王」


 防御に使っていた腕を広げ、攻撃の構えを取る。

 

「な、何だそれは!! そんな巨大なものを、お前は隠していたというのか」


 頬を赤らめ、左手で顔を隠す魔王。

 

 こうなる事は、解っていた。

 

「しまえ、頼むからしまってくれ!!」

「魔王、俺は着替えを持っていない」


 戦刃竜気と共にそそり立つ、俺自身。

 

 魔王がまさか女性だとは思わなかった。

 何で美人のお姉さんが魔王なんだ、と出会ったときに思った。

 

 しかし。

 

「魔王。お前は無辜むこの民を殺し過ぎた」


 そう、魔王は多くの人々を殺したのだ。

 だから、この拳を下すわけには行かない。

 家族を失った、人々に、俺は頼まれたのだ。

 

「ふん、弱き者は強き者の為に死ぬ。命を玩具にしても、そいつが弱かった事が悪いのだ」

「そうか」


 魔王も自分の言葉で覚悟を決めたのだろう。

 顔を隠していた左手に、巨大な炎の塊を生み出す。

 右手の鞭は、禍々しい輝きを放つ。

 

「俺はお前を倒すぞ」

「貴様を殺して、その魂、私が食べてやる」


 そして、俺と魔王の、お互いの全力を込めた攻撃が激突した。

 

 ……。

 

 俺は魔王に勝った。

 俺に敗れた魔王の死顔は、何故か安らかなものだった。

 

「魔王軍、そして魔王」


 魔王城に向かい、両手の掌を向ける。

 そこへ、俺の戦刃竜気を収束させる。

 

「さらばだ」


 膨大な戦刃竜気の波動を魔王城へと放つ。

 巨大な爆発が起こり、キノコ雲が空へと昇る。

 

 それを背にして、俺は太陽の昇る場所へと歩き出した。

 

 朝日が全裸の俺を照らし、俺自身がぶるぶると揺れる。

 

「そうだな。まずは服を買いに行こうか」


 平和を取り戻した世界に想いを馳せる。

 

 俺はエディスに会いに行かなければならない。

 そして彼女に告げなければならない。

 

 道に迷って魔王城に着いてしまい、先に魔王を倒してしまった。

 ホントごめん、と。

 

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