第3話 邂逅

 魔王を倒して服を買った俺。

 そもそもの旅の目的は、勇者に選ばれてしまい王都へ行った幼馴染のエディスに会う事だった。

 

 勢いに任せて故郷の村を出て。

 勢いに任せて道を走り山を越え海を越えて。

 勢いで魔王軍と戦って。

 

 そして勢いで魔王を倒してしまった。

 

 ここまで二か月。

 

 そして彷徨う事、二か月。

 

 俺は、まだ真の王都が何処にあるのかを知らない。

 

「やっべ。故郷にも帰れん」


 ホントやばい。

 最近は両親とか弟とか、家の畑とかそういえば裏の柵が壊れていたなとか、そんな事ばかり考えてしまう。

 

 どっかの町の山の中で、丸太で作ったログハウスで雨露を凌いでいる、ナウ。

 

「ここは何処だ――――――ッ!!」


 村人でさえ村の名前を知らないド辺境の地。

 地図?

 そんなものはありません。

 

 方角さえ分かればいつか故郷に帰れる?

 太陽の方に向かって進んだ結果が今だよ!!

 

「ああああああああ」


 ツルッツルのフローリングを転がり回る。

 丹念に磨き上げ、ロウを塗って仕上げた自慢の床だ。

 

「ああああああああ」


「うっさいぞバカ!!」


 バンッと玄関のドアを開けて一人の男が姿を現した。

 マッチョでムキムキな彼の名はシャーンドル。

 金髪碧眼のナイスガイで、ここら辺一帯の土地の地主さん。

 

「うぅ、すまん」

「全く、お前の声は山一帯に響くんだ。おかげで寝付いた娘が起きちまった」

「本当にすまん」

「何度も言ってるが、故郷に帰りたいなら俺が乗せて行ってやるぞ」


 シャーンドルの正体は黄金の鱗を持つ巨大なドラゴンだ。

 地理に明るい彼に頼めば、開けた場所にある町まですぐだろう。

 

 しかし。

 

「すまん」

「はあ。何でそんなに強いのに、ドラゴンがダメなんだ?」

「すまん」


 ぶっちゃけシャーンドルより俺の方が強い。

 しかし、俺はドラゴンにトラウマを持っているのだ。

 この、戦刃竜気を得たときに、刻み込まれたトラウマヲ……。

 

「ほらほら震えるなっての。まあ静かにしてくれたらそれで良い。じゃあな」

「ああ、すまんかった」


 ドアを閉めてシャーンドルが去って行った。

 人の姿をしてくれているからこそ、彼とも普通に接することができる。

 

「悪を滅ぼした英雄達は、みんな人の世から去って行くというけど……」


 床に転がり、手足を広げて天井を眺める。

 

「これも、俺の運命なんだろうか」


 かなりネガティブ。

 

 ねよ。

 

 ……。

 ……。

 

 身体が震える。

 

「何だっ!? この強大な魔力は!?」


 魔王と対峙しても、このような事は無かった。

 身体の芯から、恐怖が沸き起こって来る。

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

「戦刃竜気、全開!!」


 俺の全パワーを全力解放。

 そして俺の服は破れ散り、ログハウスは吹っ飛び、俺を中心とした巨大なクレーターが生まれる。

 

 莫大な戦刃竜気の嵐。

 

 魔力の主が、俺へと近づいて来る。

 

 予感はあった。

 

「久しぶり」


 静かな声が俺へと放たれる。

 

 黄金の鱗を持つ、巨大なドラゴン。

 俺に、消えることの無いトラウマを刻み付けた、最悪の存在。

 

「ああ。十年ぶりだな」


 初めて会ったのは、俺が七歳の時だった。

 

「久しぶりだ。光竜ルユザ」

 

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