第4章 予想外なプレゼント

第1話


 何事もなく『球技祭』は終わった。


 いや、何事もないのはむしろいいことだ。今年は去年の様に保健室に生徒が運ばれる事も、救急車が来ることもなかった。


 そこは非常に良いことである。


 その時本当、恋と話が出来たらなぁ……と思っていた。そして、良ければ応援とかして欲しい……なんて事も考えていた。


 しかし、なぜかそういった会話をするチャンスが全くと言っていいほどなかった。


 それはなぜか……。


 多分、俺がいる場所に恋の姿がなかった事が原因だろう。俺はそもそも『恋に想いをよせている』なんて話を自分からはしていない。


 それでもバレた原因は上木や黒井いわく『雰囲気』らしい。


 だが、それは生徒会で俺を見ていて分かるくらいのモノで、他の生徒には気づかれていない。だからこそ、バレる様な行動はさけたかった。


 その結果、何もない『球技祭』になってしまったのだ。


「……」


 今にして思うと……恋は自分のファンクラブの人たちに連れて行かれたのかも知れないと思う事も出来る。


 ――いや、そう思う事にしよう。


 そして、二月に入ってまだ最初の週。学校内では『あるイベント』の話が話題になっていた。


「はぁ、今年の『バレンタイン』どうする?」


 俺の席から二つくらい離れた席から、何やら女子たちが話している声が聞こえた。どうやら、彼女たちは俺が聞き耳を立てているとは夢にも思っていないようだ。


「……」


 そう、二月の十四日は『バレンタインデー』がある。


 この日は女子が男子に『チョコレート』もしくは『プレゼント』さらには『手紙』を渡す事もあるという『恋愛イベント』の一つだ。


「うーん。今年は部活のみんなで色々持ってきてチョコレートパーティーでもしようかな」


 しかし、この『バレンタインデー』もここ最近では『女子が好きな男子に告白をしたりチョコレートをあげたりする日』から『友チョコ』と呼ばれるチョコレートを友人同士で渡し合うという形に変わりつつある。


 その他にも色々と変わってきている様に思うが、それでも……。


「そっーか」

「……というか、あなたはどうするの?」


「なっ、何が?」

「確かあなた去年は『私。この日に告白する!』とか言っていたじゃない。今年は違うの?」


 そういう女子も当然いる。


 たとえ形が変わりつつあろうとも『バレンタインデー』というだけで、女子がちょっと勇気を出せる日でもあるのだ。


「まぁ、俺にはあまり関係ないんスけどね」


 だが、こういった『イベント』にあまり関心を見せない人もいる。俺の周りでいうと『上木かみき理想りそう』が当てはまるだろう。


 元々面倒な事はきらいなだけでなく、そもそもこういった人が喜んだり悲しんだりする『イベント』自体をきらっているように思えてしまうほどだ。


「うーん、去年告白して失敗しちゃったからなぁ」

「そうだったね。ごめん、思い出させちゃって」


「ああ、いいって。まぁ、あの人とは結局友達のままでもいられなくなっちゃったけど、良い経験をしたってワケでさ」

「……そっか」


 上木本人が言うには「感情を見せるだけならまだいいんスけど、その後に人間関係がほしいッスよね」との事らしい。


「…………」


 その気持ちは分かるし、俺もその通りだとも思う。どんな理由があるにしろ、周りの人を巻き込むのはよくない。


 元々俺はそういった考えを持っている人間だ。だからこそ『冷たい』だの『こわい』だの言われてしまうのだが……。


 しかし、そんな俺でも今年は違う。


 今年は恋がいる。去年はそもそも恋が学校にいなかった。しかも、ほとんど関わりがなかった。


 だが、今年は同じ『生徒会のメンバー』である。


 それを考えると……もらえる可能性は高いと思っている。それに、クリスマスではプレゼント交換とは別に『マフラー』をもらった。


 まぁ、コレは全校集会の時の『おわび』としての品らしいが……。


 でも、そこら辺の真面目さは相変わらずだと思う。それに、こういった『真面目過ぎるくらい真面目』なところが好きなのだが……。


「…………」


 ただ、そんなイベントがある大事なここ最近、俺には一つ『気になる事』があった。

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