第5話


「…………」


 黒井本人は『大丈夫』と言っていたが、どう考えても「大丈夫」という感じではなかったようだ。


「ここ一週間ずっとか……」


 いつも体育の授業は男女別だ。しかも、いつもはクラスごとに行っている。


 しかし、ここ最近の授業はクラスごとではなく学年ごとで行われていた。だから、授業が一緒になることが多かった。


 俺たちが通っている学校は一学年五クラスだ。その上、体育館は二つある。だからこそ、学年ごとかつ男女別に授業が出来るのだが……。


 なぜか、その授業で黒井の姿を見たことが一度もない。


 不思議に思い、誰かが話していた話を聞いたところによると、どうやら体調不良らしい……。


「一週間ずっとっていう上に『体育の授業のみ』っていうのがまた……」


 ワザとねらって体育の授業だけを休んでいるように思えてならない。


「……おい、どうしたんだ市ノ瀬は」

「さっ、さぁ? さっきからなんかブツブツ言っているけど」


「まぁ、ちゃんとしてくれているし」

「……だな。おっ!」


 いや、本当に体調不良なのかも知れないが……。


 ただ体育の授業以外の他の授業には、何事もなかったかのように出席しているようだ。そうなると、やはりねらっている様に思えてしまう。


「おーい、市ノ瀬ー! そっち行ったぞー!」

「おお! 分かった!」


 しかし、俺も人のことばかり気にかけているワケにはいかない。俺は目の前からドリブルをして走ってくる相手と対面した。


「……!」


 器用に足を使ってボールを追っている俺の目を惑わせようとしてくる敵に注意を向けながらも、俺は思いっきりけられたボールを右手ではじき、左手で抱きかかえるように持った。


「ああ! クソ!」

「今のも止めるのかよ」


 まさか俺が『はじく』だけでなく『止める』とは思っていなかったらしく、驚きの声を上げた。


「市ノ瀬ナイスー!」

「おお」


 クラスメイトが近寄って来たところで、ボールを転がした。


「……」


 危ないところだった。今のはクラスメイトの人が声をかけてくれたから気がつけたが、このまま考え事をしていると、ケガをしてしまいそうだ。


 どうやら、今考え事をしているヒマはなさそうだ……と、俺は気を引き締めた。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「……さてと」


 休日。俺は、いつも行っている図書館とは違う少し離れた図書館に来ていた。


 この図書館にはいつも行っている図書館よりも大きく、新しい本も入っている事がある。


 しかも、本だけではなく『マンガ』も置いてあるから学生もけっこう来ている様だ。


 もちろん、それだけが理由ではないと思うが……。そして、俺もたまにここに来る。ただ欠点があるとすれば……。


「ちょっとが遠いんだよな。ここ」


 もう少し近ければ自転車で来ようと思うのだが、自転車で行くには少しが遠く坂も多い。


 だから、ここに来ようと思ったら毎回電車を使わなくてはいけない。それが面倒と言えば、そうなのだが……。


「まぁ、悪い事ばかりでもない……か」


 空を見上げると、どうやら今日は天気が良さそうだ。


「ん? ボールの音?」


 そういえば、この図書館の近くには少し小さい体育館があるらしい。


 大体は、何かのスポーツ少年団とか地区の人たちが集まってスポーツをするために使われている様だが……。


「それにしては……ボールの音が小さい?」


 しかし、スポーツ少年団だとしても地区の人たちが集まっているにしても、このボールの音は小さすぎる。


 それこそ『一人』でしているような……。


 その体育館から何も見えなければ、そのまま帰ればいいか……と思い俺、は思わずその体育館をのぞき込んだ。


「あっ」


 どうやら、入り口が少し開いている様だ。


 ただ、どうしてこの時の俺はそこまで気になっていたのか……その理由は自分でもよく分からない。


 ただ、そうして見た体育館の中にいたのは……。


「くっ、黒井!?」


 俺は、思わず体育館の中に響くほどの大声でその体育館にいる人物の名前を呼んでしまったのだった。

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