第3話
「はぁ、でも。出るだけで出来はともかく体育の成績につけられるみたいッスからねぇ」
「風邪とか仕方がなく出られなかったのなら、まだ先生も考えるだろうがな……」
ただ、それがウソでただのサボりだった場合。
本人としては『絶対バレない。大丈夫』と思っていても、意外なところからバレてしまうモノだ。
そして、そうなれば当然……。
「そのまま補習になる可能性もあるって事ッスよねぇ」
「まぁ、三学期は短いからな。それに、国語とかで補習を受けている人は見た事がある。後は……マラソン大会で設定時間内にゴール出来なくて校庭を走っているのを見た事はあるくらいか」
そもそも、補習を受けている人自体ほとんど見た事がない。
「それ以外で体育の補習をしているのを見た事がない」
「つまり……」
「かなり目立つだろうな」
「それはいやッスねぇ」
「三学期の体育は基本的に『球技』だからな。多分、屋内になる。つまり、補習をしている姿をほとんどの生徒に見られるってワケだ」
まぁ、上木が補習を受けると決まったワケではない。ただ、仮にそうなった場合の事を考えると……こうなるだろうというだけの話である。
「はぁ……いやッスねぇ」
「だから最初からあきらめろって言っているんだ。どうあがいても出なくちゃいけないし、休まれても困る。いい加減覚悟を決めろ」
「うぅ……」
「もっ、もし良かったら私。練習、付き合うよ 」
突然、恋はそう言ってきた。
「え」
今までの話は全て聞いていたから、話の流れは分かる。それに、そもそも二人は同じクラスだ。
「……??」
ただ、一瞬。何やらもやっとした気持ちになった。別に出来ないなら出来る様に特訓するのは、良いことだと頭では思うのに……。
どうしてそんな風に思ってしまったのだろうか。
「いっ、いやぁ。お気持ちだけありがたくちょうだいします」
「……なんで敬語なんだ」
俺がそう聞くと、上木は「いやぁ、なんとなく……ッスかねぇ」と言いつつ俺から視線をそらした。
一体どういう事だというのだろうか。
「それに、男女で種目も違ったッスよね?」
「ん? ああ、男子がフットサルとドッジボールで女子はバスケットボールとバレーボールだな」
「二本木には自分の練習をしてもらって活躍してもらわないといけないッスから」
「それは……そうだけど」
それでも上木の事は放っておけないのだろう。
「…………」
よくは分からないがここは上木のために助け船を出してやった方が良さそうだ。
「まぁ、女子の場合。両方の種目が『チームプレー』が大事だからな。練習も出来れば全員でした方がいい。そうなると、上木の世話をやいている時間はないだろう」
「そうそう、俺の事は心配しなくていいッスから!」
この言葉でようやく納得したのか、恋は「分かった」とうなずいた。その言葉を聞いて、俺はなぜかホッと胸をなで下ろした。
「……ちなみに、男子のフットサルは一つのチームにサッカー部は二人まで、っていうルールで
「つまり、一つのクラスにたくさんサッカー部がいても全員は出られないってワケッスね?」
「ああ、女子の方もバスケ部やバレー部が試合に出られる人数の制限はある。その他の試合時間なども今まで通りの予定をしているのだが……」
「私はそれでいいと思います」
「いきなり帰られても困ると思うッスから、俺もいいと思います」
二人は俺の問いかけに答えてくれたが……。
「……」
なぜか、黒井はプリントをジーッと見つめて浮かない表情のままだ。しかも、俺たちの会話すら聞こえていない様だ。
「黒井もいいか?」
「えっ、あっ……ええ。いいと思うわ」
「……本当に聞いていたのか?」
「きっ、聞いていたわよ。ルールとか試合時間とか種目になっている部活に所属している人たちの制限とかの話よね?」
「……聞いていたならいい」
「来週は体育委員会も含めて最初のリーグ戦の抽選を行って、各リーグの上位でトーナメントって事でいいんだよね?」
「ああ。その時に各チームの選手の名簿ももらう予定だ。俺たちの最初の仕事は、その名簿に抜けているところがないか……っていう確認だな」
「ふと思ったんスけど、この『種目になっている部活に所属している人』って、三年生の先輩はどうなるんスかね?」
「……」
こういう時、上木はなぜこういうところに気がつくのだろうか。いや、細かいところが気になってしまう性格なのかも知れない。
「ああ。そこはいつももめるところだ。だから、この『種目になっている部活に所属している人』の部分を自分たちに都合良く考える人もいる。その結果……」
三年のチーム全員が『元』その種目になっている部活に所属している人になる場合がある。
「そんな反則ワザみたいな」
「なんか、そこまでして勝ちたいのかって言いたいんッスけど……」
「そこまでして勝ちたいんだろ。人によっては学生生活最後の行事になるからな」
この場合。一応、ルール上は禁止されていない。要するに勝てば良いだけの話になってしまうからだ。
「なんにせよ。怪我だけはしないようにってところだな」
「はい」
「そうッスね」
俺たちがそう言って少し間を置いて「そうね」と言う黒井の声が聞こえた。
一応、話は聞いていたようだ。ただ……この話をしている間。ずっと黒井の表情は暗いままだった。
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