第50話 優しさ

 「天音さんがなんと―――」 


 「もういいです。いい加減本当のことを話してください」


 牧原さんの言葉を遮り、これ以上余計な言葉はいらないと、語気を強めた。


 その時私は、冷徹に、鋭い視線で牧原さんをにらんだ。普段の私では絶対にしないような表情を見たからか、牧原さんの体が一瞬こわばったような気がした。


 「天音さんの意志が固いことはわかりました。ですが、先ほど言ったこと以外のことはほとんど何もしていませんよ」


 「ほとんど、ですか」


 「はい。ほとんどです」


 「何でもいいです。どんな些細なことでも、あなたが大翔君にしたことを話してください」


 やっとすべてを話す気になったようだ。それに、やっぱり私の考えは正しかった。牧原さんは何かを隠している。そして、それがなんなのかをこれから知ることができる。そこに大翔君が私を避けている理由があるはずだ。


 「先ほどは私が内田さんに、天音さんがモデルの仕事をしている、ということを伝えた。と言いましたが、厳密にいえば、私から直接そのことを言ってはいません」


 「牧原さんが言ってないっていうなら、どうして大翔君がそのことを知っているんですか?直接言っていないというのは、どういう意味ですか」


 ならどうして?大翔君が私が載っている雑誌を偶然見たということもなくはないけど、大翔君が興味を持ちそうな雑誌に、私がいるとは思えない。


 「私が内田さんにしたことは二つです。一つは、雑誌を渡したこと。二つ目は、私の電話番号を内田さんに教えたこと。これだけです」


 「雑誌?それは何の雑誌ですか」


 「天音さんが載っているものです。ただ、それだけです。なにかを書き込んだりとか、そういうことは何もしていません」


 直接は言っていないとはそういうことか。確かに、牧原さんから直接はいってない。それに、それなら私がモデルの仕事をしていることに、気が付くだろう。というか、それは直接言うことと変わらないのでは?


 そこからの大翔君の行動は、なんとなく予想ができる。他の雑誌や、インターネットから、私のことを調べたんだろう。私が大翔君の立場なら、そうしている。


 でも、その雑誌をみて、大翔君が私のことを嫌いになった。ということでは山内先生の言葉からして、ないのだろう。


 ということは、牧原さんの電話番号を教えたことに、私が知りたいことのすべてが、詰まっているに違いない。


 「そうですか、わかりました。なら、二つ目、牧原さんの電話番号を伝えた。と言っていましてが、その後、大翔君から電話がかかってきたことはありましたか」


 「ええ。一度だけ。そして、こう言われました。あなたが伝えたかったことは、。ということですか?と。そして私はその問いかけに対して、はい。と答えました」


 「・・・そういうこと、ですか」


 すべてが繋がった。大翔君は牧原さんから雑誌を渡され、そのことから、正確に牧原さんからのメッセージを受け取った。


 そして、牧原さんは大翔君の問いに対して、はい。と答えた。


 どうして何も書き込んだりしていない雑誌から、大翔君が牧原さんからのメッセージを正確に受け取ったのかはわからない。


 もしかしたら、牧原さんはまだ何かを隠しているのかもしれない。だけど、そんなこと、今はどうでもいい。


 そして、優しい大翔君のことだから、山内先生の言ったように、、もう二度と会わないと決めたのだろう。


 部屋を変えたのも、私からのメールに全て反応しなかったのもそのせいだろう。確かに、そんな反応をされたなら、普通は諦めてしまうだろう。


 だけど、そうはならなかった。私は大翔君から拒まれていると知っても、私は毎日のように病院に通い詰めた。山内先生の言っていた、私が思ったよりもしつこくて大翔君が困っていた。とはそういうことだろう。


 結果的に、大翔君と牧原さんの思い通りにはいかなかった。


 だけど、それでもまだ、大翔君が私に会うことを拒んでいるのは、私が諦めるのを諦めていないのか、一度こんなことをしてしまった手前、後戻りはできなくなった。そんな理由で、今も同じような状況が続いているのだろう。


 もし、大翔君が私を拒んでいるのが二つ目の理由だとしたら、仕方がないのかもしれない。


 私が大翔君の立場でも、引き返すことができないと分かったとき、元の関係に戻りたいと思っても、自分の行動の結果だから、その責任を取らないといけないと思い、自分から会いに行くことは絶対にないだろう。そして、優しい大翔君のことだから、余計にそうなってしまうだろう。


 大翔君の優しさが原因でこうなってしまったのかもしれない。でも、誰も彼のことを責めることはできない。


 「それ以外に、大翔君と何を話したんですか」


 「それ以外のことは特に何も話していません」


 「そうですか」


 真実を知ったいま、私がどうすればいいのかが分からなくなってしまった。


 それまでは、大翔君に会う。そのことばかり考えていた。でも、今は私が大翔君にあっていいのかが分からなくなった。


 大翔君が私を拒んでいる理由が、私が諦めるのを待っている。ということなら、大翔君に会うことはできないと思う。


 後戻りできなくなったという理由だったとしたら、私が強引に大翔君の部屋に行き、再開した時、大翔君は、今までの自分の行動で、私を傷つけたと思い。自分のことを責めて、逆に彼の方が傷ついてしまうかもしれない。


 本当に私が大翔君に会うことは正しいの?


 

【あとがき】

 今まで以上に間が空いてしまい、本当にすいませんでした。


 物語も、だんだんと終わりに近づいてきました...たぶん。最初にこの小説を投稿した時から、終わりまでほとんど考えていたんですけど、今までも、その途中で何度も寄り道をしてきたので、自分でも最終回まであとどれくらいなのかが分かりません(笑) 


 ですので、最後まで温かく見守ってくれると嬉しいです。


コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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