第48話 変化

 「まき、はらさん?」


 まったく予想していなかった人の名前が突然飛び出し、美零の頭は真っ白になった。


 「ああ。俺もあまり詳しくは聞かなかったんだが、大翔はそういってたな。」


 確かに、私がモデルだということをどう大翔君が知ったのかは気になってはいたが、最近はそれどころではなかったので、あまり考えてはいなかった。


 私も少しづつだけど最近は大きな仕事をもらえるようになってきたから、どこかの雑誌で大翔君が見つけたんじゃないかと思っていた。


 だが、その考えは違っていたようだった。あまりにも意外な答えだった。


 「何でも、大層な美人だったらしいけど、もしかして天音の知り合いだったか?」


 「ぃ、、いえ。私は知りません。」


 「・・・そうか。まあなんだ。また何か困ったことがあったら相談でもなんでも乗るから、いつでもこい。」


 「はい。今日はありがとうございました。」


 そう言って学校を後にした。だが、学校からの帰り道も頭の中は先ほどのことでいっぱいだった。


 なんで牧原さんが、何のために、どうしてそんなことを?


 年が明けてからも牧原さんには何度か会った。だけどそんなことは聞かされなかった。それに牧原さんからもそんな素振りは見られなかった。


 牧原さんの行動に対しての疑問が止まらない。早く問い詰めたい。早く牧原さんに会って直接話したい。


 帰り道の途中、川崎東高校の制服を着た生徒たちが美零の方を見ながらひそひそと何かを話していた。いつもの美零ならその視線に耐えられないだろう。だが、今はそんなこと、どうでもよかった。


 そんなことが気にならないほど牧原さんへの疑問が止まらなかった。その思いが何なのかは美零にはわからなかった。


 牧原さんに会えるのは3日後の仕事の日。本当なら今すぐにでも会って話をしたいが、こればっかりはしょうがない。


 こんなこと知らなければ、明日にでも大翔君に会いに病院に行こうと思ってた。だけどそれは今じゃない。


 この心のうちのモヤモヤを消さない限り、大翔君には会えない。黙って3日後の仕事を待とう。


―――いや、違う!


 今までの美零なら何も行動できずに3日待っていただろう。


 だが、優佳や山内先生に勇気をもらった今の美零は今までとは違う。


 待ってなんていられない。自分から行動しないと何もかも手遅れになってしまう。もう後悔はしない。


 美零は携帯を取り出し、迷いなく電話を掛けた。もちろん、牧原さんに。


 電話をかけてから10秒ほど、牧原さんが電話に出た。


 「こんな時間にすいません。天音です。」


 『お気になさらず。天音さんが私に電話何て珍しいですね。どうかしたんですか?』


 「牧原さんにちょっと聞きたいことがあったので、これから会えませんか?」


 『これから、ですか?』


 「はい。これからです。」


 電話越しなので詳しくはわからないが、いつもは淡々と話す牧原さんが一瞬言葉に詰まっているような気がした。


 やはり、何か心当たりがあるのだろう。


 『電話越しではダメなんですか?』


 「はい。牧原さんと直接会って話がしたいです。」


 『・・・わかりました。天音さんがそこまで言うならきっと大切な用事なんでしょう。わかりました。』


 「ありがとうございます。」


 そこから適当に集合場所と時間を決め、美零は駅に向かった。


 電車に乗り込んでから20分ほどで、牧原さんと約束した場所の最寄り駅に到着した。


 電車に乗っている間も、美零はずっと牧原さんのことを考えていた。


 会ってから何を話すのか、どんな顔をして会えばいいのか、そんなこと今までは気にしたことはなかったが、どう接すればいいのかが分からなくなり、少し緊張してしまっている。


 集合場所へは10分ほど早く着いてしまったので、まだ牧原さんの姿はなかった。


 美零は牧原さんが来るまでの間なにを、どの順番で話すのかを考えていた。


 「遅れてすみません。天音さん。」


 考え始めてから3分ほどたったころだろうか、聞きなれた声に名前を呼ばれ、顔を上げる。


 「いえ。私の方こそこんな時間に呼び出しちゃってすいません。」


 顔を上げるとそこにはスーツを着た牧原さんがいた。


 ただのスーツのはずが、牧原さんのようなスタイルがよく、整った顔立ちをしている人が着ると、ものすごくかっこよく見えた。


 「それで、今日はどのような要件ですか?」


 いつも通りの冷淡な口調。最近ではもうすっかり慣れたはずなのに、なぜか緊張してしまう。


 「ここで話すのもあれですから、どこかレストランでも入りませんか?私のおすすめなお店がこの近くにあるんですよ。そこに行きましょう。」


 そう言って半ば強引に牧原さんを連れ出した。そして、話に集中できるよう、美零が知っている中で一番落ち着いた雰囲気の店に向かった。


 高校生には少し高級なお店だったが、モデルの仕事をしている美零には入れないほどではない。


 店に着くなり、店員の誘導に従って後ろをついていくと、店の一番端の個室に連れていかれた。


 ソファに腰を掛け、メニュー表を見て適当に注文した。


 「それで、私と話したいとは何のことでしょうか。」


 こちらの目をしっかりと見て問いかけてくる。ただの質問のはずなのに牧原さんから何か凄みを感じる。


 だが、ここでビビってはいられない。先ほども決めたはずだ。


 話すなら今しかない。さっきもあんなに予行演習したんだからきっと大丈夫だよね。


 そう自分に言い聞かせる。練習通りに話しかける。簡単なことだ。


 牧原さんに話しかけようとする。だが、牧原さんの目を見た瞬間に、何を話そうとしていたのか、一瞬で忘れてしまった。


 日本人にしては珍しい綺麗な琥珀色の瞳。初めて会ったときはその瞳に目を奪われた。だが、それも最近は見慣れてきていたはずだった。


 え、、、あれ?わたし、なにを話そうとしてたんだっけ?


 どうしよう。どうしよう。あんなに練習したのに何でなにも言葉が出てこないの?


 牧原さんの目を見てから動揺してしまい、余計に混乱してしまう。


 その間も、牧原さんはじっと美零の目を見たままだった。


 「どうかしましたか?」


 相変わらず冷淡な口調の牧原さんに声を掛けられる。


 「まき、はらさん。」


 まだ何を話すのか、次に何を言えばいいのか、何も決まっていなかったが、ここで黙っていたら以前と何も変わらない。


 ―――私は変わるんだ!!!


 優佳に励まされ、山内先生には応援された。こんなところで止まってられない。私は強くなる。そう決めたんだ。


 練習通りにいかないなんて当たり前だ。そんなことでうろたえてなんていられない。


 遠回りなんてしなくていい、次に何を言えばいいのかわからないなら、一番大切なことを言えばいいんだ。


 私はもう逃げない。


 「牧原さん。私の秘密を大翔君に言ったのはなぜですか?」



【あとがき】

毎度のことながら投稿が遅れてしまってすいません。(今回は特に)


今回は久しぶりに牧原さんが登場しました。大翔と美零が会えそうだったのに遠回りさせんな!って思っている人がいたらごめんなさい。


牧原さんのようなクールな感じの女性を表現するのは少し苦手なので、何かおかしなところがあったらコメントください。


コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る