第47話 真実

 「その反応。やっぱりそうなんだな、、、はぁ。本当は大翔に止められているんだが、仕方ないか。」 


 ため息をついた山内先生は、仕方なくと言っていたが、美零には、先生が隠し通そうとしているようには見えなかった。


 「天音。お前ほとんど毎日大翔の所に行ってたんだってな。」


 「はい...でも、大翔君には1カ月近く会えてないんです。先生、先生は大翔君の居場所を知っているんですよね?大翔君は今どこにいるんですか?」


 「ああ。知ってるぞ。単刀直入に言うと、大翔は今もあの病院にいる。」


 (え?)


 一瞬、山内先生が嘘をついているのかと思ったが、先生の真剣な表情を見て、嘘ではないことが分かった。


 正直、すでにあの病院に大翔はいないと思っていた。


 あれだけ病院に通っても一度も会えなかったのは、大翔がほかの病院に移ったからではないかと考えていた。


 だが、それでも、通い続けていたら大翔に会えるかもしれない、大翔に関する情報が得られるかもしれないと思い、諦めることができなかった。


 「大翔がな、ある日突然部屋を移したいって言いだしたらしい。」


 「部屋を移したい?」


 「ああ。わざわざ自分の親や病院の先生に頼んでな。」


 わざわざ病院の先生に頼んで?あまり詳しくは知らないけど、簡単に部屋の移動などできないはずだ。


 それに、美零には部屋を移動する理由が分からない。


 「それはどうしてですか?」


 「全部だ。あいつはお前のことを思って行動した。」


 「わたしの、、、ため?」


 意味が分からない。どうして私のために大翔君がそんなことをするのか。どうして部屋を移動することが美零のためになるのか。そして、なぜそのことを美零に告げないのか。


 山内先生は大翔の行動はすべて美零のことを思ってのことだと言っていたが、美零にはその行動のどれも理解することができなかった。


 「私のためっていうのはどういうことですか?」


 「それはな、大翔がお前の嘘に気が付いたからだ。あいつはお前がモデルだってことを知っていた。」


 「そう、ですか・・・」


 (やっぱりそうだったんだ。)


 なんとなく予想はしていた。大翔君の態度が急に変わる理由なんてそれくらいしか思いつかった。


 昨日、優佳と別れてからもう一度考えてみたが、それしか考えられなかった。大翔君にバレるようなミスをした覚えはないが、どこかで美零がモデルだということを知ってしまう可能性がないとは言い切れない。


 一度その可能性を考えてみると、それ以外考えられなくなった。


 しかし、美零もいつか嘘がばれる日が来ることをわかっていた。そして、それを美零なりに受け入れていたはずだった。


 嘘がばれたとき、大翔君は怒るだろう。


 ずっと嘘をついてきた。その時、美零は大翔君の気持ちを、たとえそれが怒りでも、悲しみでも、どんな気持も受け入れなければならない。その義務が美零にはある。

 

 だから、大翔との関係は大翔が退院するまでの間だけと決めていた。


 だが、大翔の行動は美零の予想のどれとも違っていた。


 美零に何も告げずに関係を断った。そして、それは怒りでも、悲しみでもなく、美零のことを思っての行動だという。


 美零にはわからなかった。

 

 「やっぱりモデルってことを隠して、今まで嘘をついてきたことが原因で、、、」


 「いや、それは違う。少なくともあいつは、お前がモデルってことを隠してたことについて怒ってなかった。」


 「え⁉ほんとですか?ならどうして大翔君は。」


 「嘘なんかつかないって。なんならあいつお前のこと応援してるって言ってたぞ。」


 「ぇ、えっとー、それは本当ですか?」


 「だから嘘じゃないって。」


 本当はそれどころではないのに、大翔君が応援してくれているということを聞いて、シンプルに喜んでしまった。


 美零がモデルであることを隠していたことに、大翔君は怒っていないということが分かったことは、かなりの収穫だ。


 しかし、それが原因でないとすれば、どうしてこうなってしまったのかが、余計にわからなくなってしまった。


 「ならどうして大翔君は部屋移動なんて、、、それに、部屋を移動したくらいで、私と一度も会わなかったのはおかしいと思うんです。本当に大翔君はあの病院にいるんですか?」


 「さっきも言っただろ。お前のためだって。大翔はお前を応援してるから、お前の邪魔はしたくないんだと。あと、お前が会えなかったのは多分、あいつがお前に合わないようにいろいろやってたからだと思う。」


 「いろいろ?」


 「俺も詳しくは知らないが、仲のいい看護師がいるらしくて、その人に頼んでお前がお見舞いに来たら知らせてもらってたらしい。」


 山内先生の言った、仲のいい看護師とは藤咲さんのことだろう。


 どうやって大翔君に伝えていたかはわからないが、美零も大翔君に病院に行く時間を毎日連絡していたから、できないことはないだろう。


 「そうやって、私を避けていたってことですか。」


 「らしいな。まあ、天音が思ったよりもしつこくてあいつも困ってたけどな。」


 「あはは。そうですか。」


 わかってはいたが、大翔君から避けられていたという事実に、今にも泣きだしてしまいそうになる。


 少しずつ目に涙がたまってきて、これ以上この場にいたら、山内先生に迷惑をかけてしまうと思い、新しい部屋の番号を聞いて、帰ることにした。


 「じゃあ先生。そろそろ帰りますね。今日はありがとうございました。」


 震える足に力をこめて、今の美零の表情を山内先生に見られないよう、その場から足早に立ち去ろうとする。


 「天音。何度も言ったが、大翔の行動はお前を大切に思ってるからだ。今は辛いかもしれないが、いつかまた、前のような関係に戻れるって俺は信じてる。」


 「そうですか。私もそうなれるように頑張りますね。」


 「俺が天音に伝えられるのはこれくらいだが、お前たちは俺の大切な教え子だ。俺にできることがあればいつでも俺を頼ってくれ。」


 山内先生に背中を向けたまま、『また今度』と言い残し、部屋を後にする。


 収穫はあった。確実に前進している。真実を知り、少し複雑ではあるが、山内先生を頼ってよかったと思う。


 山内先生に優佳、今の自分にはこんなにも頼れる人がいる。そう知ることができただけでもうれしかった。


 明日のスケジュールは決まった。朝から夕方まで仕事を終えた後、山内先生から聞いた新しい部屋に行こく。


 明日は大翔君に会えるかもしれない。そう思うと、少し怖い気もするが、流れる涙も、震える足も、だんだんと和らいでいく。


 (よし!明日からは今まで以上に頑張ろう!)


 真実を受け入れ、そのうえで大翔君と向き合う。その覚悟を決めた。


 「天音!言い忘れてたことがあった。」


 「言い忘れたこと?」


 靴を履き、外に出ようとしたところを、ここまで走って来たのか、少し息切れしている山内先生に呼び止められる。


 「お前がモデルだってことを大翔に言ったやつがいるんだ。」


 「え?大翔君に?」


 まさか藤咲さんが?と思ったが、何度か話した感じ、その可能性は少ないだろう。


 藤咲さんではないとすれば誰なのか、美零には予想が付かなかった。


 「それは、誰ですか?」


 「名前は忘れたんだが、確か、、、えーっと、だったか?」


 「まき、はらさん?」


 予想外の人の名前が山内先生の口から飛び出し、美零の頭は真っ白になった。



【あとがき】

毎度のことながら、遅れてしまってすいませんでした。もう少し投稿頻度を上げられるように努力します。


これからもどんどん作品が動いていくので、楽しみにしていただけると嬉しいです。


コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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