第45話 記憶
✤
―――「大変だったね、美零。よく頑張ったね。」
先ほどまで泣いていたせいで、少し目が赤くなっている美零を、優佳は優しく慰めてくれた。
あれから美零は、これまでにあったことを包み隠さず優佳に話した。
話している途中も、その時のことを思い出してしまい、何度か泣いてしまったが、その度に優佳が慰めてくれた。
「ごめんね優佳。いっぱい泣いちゃって。」
「いいんだよ。これまで頑張ってきたんだから。」
先ほどから握ったままの手の上に、さらに逆側の手ものせて、優しく言いかけてくれる優佳に心が安らぐ。
「そっか、そんなことがあったんだね。でも、あの大翔君が何も言わずにそんなことをするなんてね...」
「そうなんだよね。最後に会った時もいつも通りで、変わったところはなかったと思うんだよね。」
「うーん。なんでだろう。大翔君がなんの理由もなくそんなことをするとは思えないんだけどな。」
優佳の言う通り、大翔が急に美零との距離を開けた理由が分からない。
初めは、大翔の身になにか起こったのかもしれないと思ったが、もしそうなら、美零に何かしらの報告があるはずだ。そもそも、入院している大翔の身に危険が迫ることなどまずないだろう。
リハビリも順調だと言っていたので、もう一度手術をするなんてこともないだろう。
やはり、何度考えても美零にはそれ以上のことは思いつかなかった。
「美零もほとんど毎日病院に通ってたんだよね。」
「うん。それでも大翔君に関する情報は何も...」
「そうだ!美零、大翔君のご両親に直接聞いてみるのは?」
「それも考えたんだけど、病院でも会えなかったし、住所も電話番号も知らないんだよね。」
初めて会ったときに電話番号くらい聞いとけばよかったと、今更ながらに悔やまれる。
「そういえば、看護師の藤咲さんだっけ?あの人なら何か知ってるんじゃないの?」
「何回か会って聞こうと思ったんだけど、一応個人情報だから言えないって毎回断られるんだよね。」
「個人情報って言われたらそれ以上どうしようもないかー。」
そう。看護師なら何かを知っているかもしれないと思い、話しかけてみても、毎回断られてしまうだ。
何回か藤咲さんのあとを軽くつけてみたが、大翔に接触している様子はなかった。
そのせいか、最近、藤咲さんから避けられているような気もする。
これは気のせいかもしれないが、断る時の藤咲さんはどこか申し訳なさそうな、悲しそうな顔をしているように見えた。
藤咲さんは確実になにかを知っている。だが、あの様子だと、どれだけ美零が粘ろうと、口を開くことはないだろう。
藤咲さんの口が堅いのは美零もよく知っている。実際に、美零との約束も守ってくれている。
「大翔君のご両親と藤咲さん以外に大翔君と美零のことを知ってる人はいないの?」
「藤咲さん以外は、、、あー!いる!いるよ!!私と大翔君のことを知ってる人たち!」
「ほんと!?誰?ていうか、人たちってそんなにいるの?」
なぜこんな簡単なことにも気が付けなかったのか。少し冷静になって考えてみれば気が付けたはずだ。
大翔に直接会うことが無理ならば、大翔について何かを知っていそうな人で、美零のことも知っている人。その人から情報を得ようと思った。
その時に美零の頭に思い浮かんだ人物は、大翔の両親と、看護師の藤咲さんだけだった。
その二つの選択肢しか思い浮かばなかったのは、大翔と会えなくなってから、美零の精神が弱ってきて頭が回らなかったのだろうか。
だが、優佳に話したおかげで少し心が軽くなった今の美零には、思い出すことができた。
こんなにもたくさんいたというのに、今まで気づけなかった自分が情けなくて仕方がない。
「山内先生と、大翔君の部活仲間の人たち!」
【あとがき】
キリがいいところで終わらせた結果、こんなに短くなってしまってすいません。
毎度のことながら、投稿が遅くなってしまい、すいません。今のところほとんど週一ペースになっていますが、最低でも週一で投稿できるように頑張ります。
コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます