第44話 親友

 「美零。大翔君と何があったの?」


 「......え?」


 優佳の急な真剣な表情と、いつもより少しトーンの低い真面目な声で話しかけられ、美零の頭は真っ白になった。


 (どうして優佳がそれを?大翔君のことは誰にも言ってないのに。)


 「どうして私がそれを?って顔してるけどね、私は美零のことなら何でも知ってるんだからね。」


 「あはは。そこまでお見通しなんだね。でもどうして私と大翔君との間になにかあったと思ったの?」


 美零の考えは優佳にはお見通しらしい。つい、乾いた笑いが浮かんでしまう。


 「だからさっきも言ったじゃん。美零のことならなんでもお見通しだって。」


 「・・・」


 「はぁ。わかったよ。真面目に言うって。」


 美零が何も言わずにじっと優佳を見ていると、無言の圧力に優佳は負けたらしい。


 「最近大翔君の話を聞かなくなった。」


 「・・・それだけ?」


 「うん。それだけ。」


 どんな理由かと少し身構えたが、拍子抜けしてしまうほど簡単な理由だった。


 「だって今までの美零は口を開けば7割大翔君の話をしてたからねー。」


 「嘘でしょ?そんなに?」


 確かに、大翔の話をできる人は優佳くらいしかいないので、大翔の話をすることはあった。


 あまり自覚はなかったが、美零の思っている以上に大翔の話をしていたらしい。


 「まぁ、ちょっと盛ったけどね。大翔君の話を聞かなくなった頃から美零の元気が無くなってきたからそれが原因かなって。」


 美零の元気が無くなっていたと簡単に優佳は言ったが、人に会うときは誰にも悟られないように、いつも通りの美零を演じていたつもりだった。


 実際に、優佳以外の人には特に何も言われることはなかった。


 それを電話やメール越しで見抜いてしまう優佳はやはりすごい。


 「あとは勘だね。」


 「勘か...。」


 「そうそう。勘を馬鹿にしちゃいけないよ。あ!来た来た。おいしそ~。」


 「ちょっと、優佳。」


 注文した料理が運ばれてきたことで、それまでの真面目だった優佳から一転し、いつもの優佳に戻ってしまった。


 あまりの切り替えの早さに尊敬すらしてしまう。さすがモデルだ。


 「まぁまぁ。冷める前に食べよ。それに、そんな顔してたらせっかくの料理がおいしくなくなっちゃうよ。」


 「・・・それもそうだね。」


 それから2人は、それまでのことは一度忘れ、いつも通り楽しくご飯を食べることにした。



―――「美味しかったー。」


 「優佳の言った通りすごく良いお店だったね。」


 「ふふーん。だから言ったでしょ。」


 楽しいお食事会が終わり、店を後にした2人は夜風にあたりながら、歩くことにした。


 ドヤ顔の優佳と特に目的地を決めずに歩いていると、いつの間にか海岸沿いに来ていた。


 時々車や歩行者が通るが、人影はほとんどなかった。


 「さすがに海の近くは寒いね。」


 「そうだね。」


 「あ、ちょうどいいや。あそこのベンチに座って少し話さない?」


 「...うん。」


 ベンチに座ると、そこから2人はしばらくに間、何も言わずにただ海を見つめていた。


 波の音が心地よい。嫌なことなどすべて忘れてしまいそうになる。


 それからさらに数分後、優佳の方から話し始めてきた。


 「美零。さっきのことだけどさ、私は2人の間に何があったのか無理に聞き出すようなことはしないよ。」


 いつもの元気な優佳とも、先程のような真面目な優佳とも違い、今までに聞いたことのない優しく、落ち着いた声。


 優佳の方を横目で見てみると、まっすぐ海を見つめたままだったが、その表情はとてもやさしかった。そんな優佳に美零は見惚れていた。


 「誰にだって隠し事の一つや二つあるだろうから、言いたくないことは言わなくていい。」

 

 「美零が自分で決めたことなら、それがどんな決断だったとしても私はその気持ちを尊重したい。」


 「でもね、その決断をした結果が美零の後悔につながるようなら、私は美零に嫌われてでも美零を止める。」


 「それが私の親友のためになるって信じてるから。」


 それまでずっと海を眺めていた優佳が突然こちらに振り向き、飛び切りの笑顔で言う優佳の言葉を聞いて涙がこみ上げて来る。


 「うっ……ううっ…うぅぅ。」


 何か言葉を返そうとするが、涙のせいでうまく言葉が出ない。


 しかし、優佳はそんな美零の手を握り『大丈夫』と言って、美零を元気づけてくれた。


 「それとね、これだけは覚えてて、私はここにいるよ。ずっと、美零のそばに。」


 再び優佳は、見惚れてしまうほどやさしい笑顔で言った。


 「美零が助けを求めてきたなら私は協力するよ。遠慮なんてしなくていい、どんな相談でも私は全力で美零の助けになる。」


 「だからね、美零。辛いときは私を頼って。」


 どこまでも優しい優佳の言葉に、美零の目からは今まで以上に涙があふれだした。


 今まで言えなかった。どれだけ辛く、苦しくても一人で抱え込んできた。


 突然大翔と会えなくなり、連絡も取れなくなってから今まで、何度も一人で泣いてきた。


 自分が気が付かないうちに、大翔のことを傷つけていたのかもしれない。大翔に嫌われてしまったのかもしれない。


 頭をよぎるのはそんなことばかりだった。それでも、こんな終わり方は嫌だと、もう一度彼に会いたいと、諦めずに行動した。


 しかし、どれだけ頑張ろうと何一つ状況は変わらなかった。


 こちらからどれだけメールを送ろうと、返ってくることはないとわかっていながらも、震える指でメールを送った。何度病院に行こうと、会えないことはわかりながらも、震える足に活を入れて病院に通い続けた。


 もう一度彼に会うため。その一心でこれまであきらめずに頑張ってこれた。


 しかし、美零にも限界が来ていた。この3週間の自分の行動がすべて無駄だったと思うと、嫌なことばかり考えてしまう。


 それでも誰にも言えなかった。一人で抱え込むしかなかった。


 そんな美零に優佳の言葉が響く。今までずっと我慢していた感情が込み上げてくる。


 優佳は美零が泣きながら何かを伝えようとしている間もずっと、手を握り微笑みかけてくれた。


 「私は美零のことが大好きだから、大切な親友だから、美零には笑っていてほしいな。」


 そういって優佳は美零を優しく抱きしめた。その優しさが、優佳の温かさが美零には嬉しかった。 


 「...ぁ、ありがと...う。」


 それから優佳は、泣きながら話す美零のことをずっと抱きしめてくれた。




【あとがき】

 今回は美零が泣きながら話すという場面がいくつかあったのですが、今までそういう場面がなかったので、なにかおかしなところがあったら指摘してくれると嬉しいです。


 いつものことなんですが、次の投稿までに時間がかかってしまうかもしれませんが、待っててくれると嬉しいです。


 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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