第40話 返信

 「はぁ、どんな顔して大翔君に会えばいいんだろう。」


 家から駅までの道のりで、昨日の病院での自分の発言を思い返し、今更ながら顔が恥ずかしさのあまり赤くなってきた。


 まだ2月中旬なので外はとても寒く、コートを着てきたのだが、それを後悔するほどに、体温が上昇してきた気がする。


 そんなことを考えながら駅までの道を歩いていると、気が付いた頃には駅についていた。


 今日の美零のスケジュールは、朝の10時から正午過ぎまで撮影の予定となっている。


 改札を抜け、ホームへ行くとすぐに電車がやってきた。


 電車に乗り込み周りを見渡すと、運よく空席が1つあったのでそこに座る。


 降りる駅までは少し時間があるためスマホを取り出すして、時間をつぶそうとすると、何通か通知が来ていることに気が付いた。


 その通知は、マネージャーからの事務的な連絡が少しと、残りのほとんどが優佳からのものだった。


 「っふふ。朝から優佳は元気だなぁ。」


 まだ少し眠気が抜けきっていなかった美零だったが、文面から溢れてくる優佳の元気に美零の眠気もどこかへ飛んで行った。


 (あ、そうだ。今日はいつもより少し遅くなりそうだから大翔君にLINEしとこー。)


 優佳やマネージャーに返信をした後、大翔に『今日は少し遅くなりそうだ』という内容のLINEを送る。


 その後は、音楽を聴きながら今日の仕事について考えていると、すぐに目的の駅に到着した。


 駅から出て、撮影場所のスタジオまで歩いている途中、美零のよく知る人物に似た後ろ姿が見えた。


 少し早歩きをして近づいてみると、その後ろ姿はやはり美零のよく知る人物のものだった。


 「おはようございます。牧原さん。」


 美零のである牧原さんに挨拶をすると、牧原さんは突然後ろから声を掛けられたことに少し驚いたようだった。


 いつものことだが、スーツを着た牧原さんは、その美人な顔立ちと相まってとてもかっこよく見える。


 「おはようご、、、天音さん。この時期は常にマスクをしてださいと前にも言っいましたよね。モデルなら自分の体は大切に。」


 「あはは。すいません。」


 朝一で説教を受けてしまったが、これもすでに習慣のようになってきている。


 そこから現場まで、今日の撮影のことや他愛のない会話をして一緒に歩いた。だが、その間も牧原さんはほとんど無表情だった。


 それと、仕事以外のことを牧原さんから話しかけてくることはほとんどなかったが。


 (相変わらず冷たい。まぁそれももう慣れたけど。)


 そこそこ長い付き合いになるのだが、いまだに牧原さんとの間にはかなり分厚い壁がある気がする。


 今でも、美零は牧原さんのことをあまりよく知らない。仕事以外で会ったことはないし、牧原さんの笑った顔もほとんど見たことがない。


 その為、美零が牧原さんと初めて会い、この人がマネージャーだと分かったときはうまくやっていけるだろうかと、かなり不安だった。


 だが、しばらく一緒にいるうちに少し冷たい気もするが、それもすべて美零のことを思ってのことで、本当は牧原さんがとても優しい人だということを今でしっかりわかっている。


 なので、牧原さんからの返事が『ああ』や『はい』ばかりだとしても特に落ち込んだりはしない。



 ―――目的地に着き、スタッフやほかのモデルに挨拶を済ませた後、着替えやメイクなどを終わらせ、そこからはいつも通り監督の指示に従って撮影をしていった。


 撮影の大部分が終わり少し遅めのお昼休憩の時間になったので、配られたお弁当を食べ始めた。


 お腹がすいていたこともあり、お弁当をすぐに食べ終えてしまった。


 仕事の再開までしばらく時間があったので、その間にまたも優佳からLINEが来ていたため、それに返信をしていると、あることに気が付いた。


 (あれ、そういえば大翔君の反応がないな。いつもだったらすぐに返信してくれるのにどうしたんだろう。)


 大翔になにかあったのかと少し気になり、電話でもしてみようかと考えてみたが、たらたらとしているうちに仕事が再開してしまった。


 

 

―――――「お疲れさまでしたー。」

 

 お昼休憩からさらに3時間ほどが経った頃、今日の仕事が終わった。


 挨拶や着替えを済ませた後、すぐにでもお見舞いに行きたいところだったが、次の仕事の話があると牧原さんに言われたので仕方なく、指定された場所で待っていた。


 (そういえばまだ大翔君から返信が来てないな。さすがに心配になってきた。)


 いまだ既読すらついていないトーク画面を見ながら待っていると、そこへ牧原さんがやってきた。


 「あ、お疲れ様です。」


 「今日はお疲れさまでした。それで、次の仕事の件なんですが、、、」


 そこからは特に変わったことはなく、いつも通り無駄のない淡々とした仕事の打ち合わせだった。


 「―――という感じです。」


 「わかりました。それじゃあ私は用事があるので、また今度。」


 予想していた時間よりも遅くなってしまい、早くしなければ面会時間外になってしまうので、少し足早にその場を去ろうとした。


 「また内田さんのお見舞いですか。」


 「え?あぁ。はい。そのつもりですけどどうかしたんですか?」


 「いえ。なんでもないです、、、日も落ちてきたので気を付けてくださいね。」


 「わかってますよー。牧原さんも気を付けてくださいね。」


 駅に向かって歩いていく。その途中、先程の牧原さんに感じたが何だったのかを考えていた。


 (さっき明らかに何か言おうとしてたけど、なんて言おうとしてたんだろう?)


 牧原さんは言うべきことはしっかりと言う人なので、普段との違いに美零は違和感を感じた。


 これでも牧原さんとの付き合いは長いので、牧原さんの異変にはすぐに気が付いた。


 それと、もう一つ気になることが。


 美零が牧原さんに違和感を感じたとき、普段はほとんど笑わない牧原さんが笑っていたように見えた。


 逆光でよく見えなかったので気のせいかもしれないが、美零にはそう見えた。


 (まぁ笑わない人なんていないもんね。きっと牧原さんに何かいいことがあったんだろうな。)


 わからないことを考えても仕方がないと、牧原さんのことはいったん忘れて、電車に乗り込んだ。



 「やっと見つけた。藤咲さん。ちょっといいですか?」


 「あれ、大翔君こんなところでどうしたの?大翔君から私に会いに来るなんて珍しいね。そんなに私に会いたかったのかな?」


 「なんでそんなにテンション高いんですか。ただ少し聞きたいことっていうか、お願いがあって来ただけです。」


 確かに、大翔の方から藤咲さんに会いに行くのは今までリハビリの時以外にほとんどなかったが、そんなに驚くことだろうか。


 藤咲さんに話しかけたことを少し後悔したが、他の看護師や先生にあまり話せる人がいないので仕方がない。


 「お願い?どんなこと?」


 「えっと、――――――――――。」




【あとがき】

 だいぶ久しぶりの投稿になってしまい、本当にすいません。

今は夏休みなのですが、夏期講習や最後の大会に向けて部活が忙しかったりと、小説を書いている時間がほとんどありませんでした。


 今年は大学受験も控えているので、これからも1話1話投稿するのに時間がかかってしまうかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです。


 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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