第32話 朗報

 「・・・って、なんで藤咲さんついてくるんですか。」


 眠ろうとする大翔の視界に入り込むのは、椅子に座りながらこちらをじっと見てくる藤咲さんだった。


 「ただの休憩中だよ。私のことは気にしないで寝てなよ。」


 「いや、おかしいでしょ。ここは休憩所じゃないですし、そんなにこっち見てたら気になって寝れません。」


 「大翔君は意外と神経質なんだね。それに、私がここにいるのは、君が心配だからっていうのもあるんだよ。」


 「心配って何がですか。」


 正直、藤咲さんに心配されるようなことは特に何もないと思う。


 「初めてのメニューに疲れちゃって、足に力が入らなくなったりしたら大変だからね。」


 「そんなわけないじゃないですか。今日は松葉杖の使い方を教わっただけだから、余計な心配です。」


 「そういう油断がいけないんだよ。まあ気にしないで、10分くらいしたら仕事に戻るから。」


 本当にそんなことがあるのかはわからないが、心配してくれているということは嘘ではないみたいなので、少しの間、藤咲さんの話し相手になることにした。



―――10分後

 藤咲さんと何ともない、いつも通りの会話をしていると、藤咲さんにしては珍しく時間通りに仕事に戻っていった。


 藤咲さんがいなくなった後、今度こそ眠りに着こうとすると、スマホから着信音が鳴りだした。


 2度目の妨害に少し萎え気味の大翔が着信先を見てみると、蒼汰からのものだった。


 クリスマスの一件からあまり連絡を取っていなかったので、どんな用事かとすぐに電話に出た。


 「もしもし。」


 『もしもし。大翔?先生から聞いたんだけど、お前車いすじゃなくなったんだって?』


 「ああ、ついさっき松葉杖デビューしたよ。」


 昨日先生出されてた課題の答案をメールで送ったときに、今日から松葉杖になるということも伝えていた。


 『ほんとか?じゃあ今度の大会来れる?』


 「今度っていつ?ていうか、そんなすぐ外出許可出るかわかんねーよ。」


 『川崎東で土曜日1時キックオフ。あ、先輩たちはほかの試合行ってるからいないよ。』


 「土曜!?そんな急に言われても行けるかわかんないって。」


 今日は水曜日なのであと3日しかない。そんな急に言われたところで今まで外出許可をもらったことのない大翔には何もわからない。


 『まあそういうことだからよろしくー。絶対来いよなー。』


 そういって大翔は一方的に電話を切られてしまった。


 正直試合はかなり見たい。それに、最後に部活の仲間に会ったのもかなり前のことなので、久しぶりに会いたい気持ちもある。

 

 (これは藤咲さんに頼むしかないかー。)


 考えたところで特に何も変わるわけではないので、次に会ったときに藤咲さんに聞くことにして、今日の所は眠ることにした。



―――翌日の朝

 いつも通り藤咲さんが朝食を持ってきてくれたので、外出許可が下りるのか聞いてみることにした。


 「あのー藤咲さん?急な話なんですけど、明後日の土曜日。部活の試合見に行きたいんですけど、外出ってもうできますかね。」


 「試合ってサッカーの?」


 「はい。同じ学年の仲間主体の試合があるみたいなんですけど、、、」


 藤咲さんが少し考え込むように黙ってしまった。大翔はその沈黙の時間の長さだけ、緊張が増していってる気がした。


 「うーん。どうかなー。私からは何とも言えないけど、保護者が付いてくれるんだったら多分大丈夫だと思うよ。」


 「ほんとですか!?」


 思っていたよりもいい返事が返ってきたので、思わず大きな声を出してしまった。


 「いや、待って!決めるのは先生だし、まだ確実じゃないからそんなに喜ばれるとちょっと、、、」


 「あ、そうですよね。つい喜びすぎちゃいました。」


 「まだ何とも言えなくてごめんね。そのことはあとで私から先生に聞いとくよ。」


 「お願いします。」


 あまり喜びすぎると、もしもダメだった時に藤咲さんが罪悪感を感じてしまうと思い、今は先生からの言葉を静かに待つことにする。


 「あーでも、昨日の大翔君を見ていた感じだと、そんなに心配はないと思うから先生にもそう私から言っとくよ。」


 「ありがとうございます!」


 少しシュンとした大翔を見てか、藤咲さんが気を使ってそんなことを言ってくれたのがとてもうれしかった。


 「じゃあ私はもう行くね。あ、それと今日のリハビリはきついから覚悟しとけけ~。」


 「はい。また後で。」


 藤咲さんが部屋から出て行ったあと、大翔は心の中で外出許可を祈りながら、ご飯を食べた。


 そして、リハビリの時間。大翔がドキドキしながら藤咲さんのもとへ行くと、藤咲さんの口から、昨日から待ちに待った朗報が飛び込んできた。


 「よっしゃー!!!」


 

【あとがき】

 ついに、応援数が300を突破しました!!!

 これまで応援してくださった皆様には本当に感謝しかないです。これからも、読者の方々の期待に応えられるように頑張っていきたいです。


 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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