第30話 前進

 優佳さんが初めて来た日から数日が経った。あの日から、美零さんと一緒に優佳さんも時々お見舞いに来てくれるようになった。


 最近では優佳さんの元気な性格もあって、話すことにもだいぶ慣れてきた。今では普通に仲の良い友達のようになってきている。


 (まぁ、いまだに優佳さんから恋バナを聞き出すのはできないんだけどね。)


 あちらから聞き出してきたこととはいえ、さすがの大翔も女の人から恋愛の話を聞き出せるほど図太くはなかった。


 「ひろとくーん。入りますよ。」


 ドアをノックする音とともに、今ではすっかり聞きなれた声が聞こえてきた。


 「はい。いいですよ。」


 部屋に入ってきたのは、最近になってようやく部屋に入る時はノックをするということを覚えたらしい藤咲さんだった。


 「今日は検査の日だよ。ささ、どうぞこちらに。」


 「は、はぁ。」


 部屋に入ってくるなり、藤咲さんは普段からは考えられないほどてきぱきと仕事を始めだした。


 「よーし。じゃあさっそく行きますか。」


 「あ、ありがとうございます。」


 いつも通り藤咲さんに、先生のいる部屋まで押して行ってもらっているだけで何も変わらないはずだが、今日の藤咲さんは謎にテンションが高い。


 「あのー、藤咲さん?」


 「ん?どうしたの?」


 聞いてはいけないことなのかもしれないと思い、大翔の中で聞くべきか聞かないべきかとても悩んだ。


 だが最終的に、大翔の好奇心の方が勝ち、大翔的には少し緊張して質問をしてみることにした。


 「今日はいつもよりテンションが高いみたいですけど、なんかあったんですか。」


 「いやー。大翔君にはそう見えちゃうかな。」


 こんなに楽しそうな藤咲さんは、クリスマスの時の大翔の失言をネタにしてからかってくる時くらいしか見たことがない。


 「多分誰が見てもわかると思いますよ...あ、もしかして念願の彼氏ができたとか?」


 「違うよ!っていうかなんで大翔君の中で私に彼氏がいないことになってるのさ!?」


 「え、違ったんですか?てっきり藤咲さんは俺の仲間だと思ってました。」


 「ま、まあ実際いないんですけど...あ、でも勘違いしないでね、私が彼氏を作らないのは仕事を優先するためなんだからね!」


 藤咲さんの言葉からなにかすごい圧を感じる。だが残念なことに、藤咲さんの言っていることは完全な負け惜しみだった。


 「わかりましたから、そんなに大声出さないでください。」


 「いいや。これは乙女的にはっきりさせとかないといけない問題だよ。いい⁉私は、あ・え・て‼彼氏を作らないんだからね!」


 静かにしてくれと言ったはずが、藤咲さんには逆効果だったらしく、かえってうるさくなってしまった。


 「わかりましたから。ていうかなんですかその言い方は、作ろうと思えばいつでも彼氏ができるみたいな。」


 「そりゃあもちろん。生徒会室には毎週のように手紙が届いてたからね。」


 「わーすごい。さすが副会長さんだー(棒)」


 (過去の栄光、なんて言ったら怒られるんだろうなー。ここは適当に流しとこう。)


 「ふふん。感情が全くこもってないみたいだけど、今日の私は寛大だから許してあげましょう。」


 「あ、そうだった。それで、今日はなんでそんなに元気なんですか?」


 藤咲さんのせいで完全に当初の目的を見失っていた。


 「っふふ。それはねー。やっぱり教えてあげなーい。」


 「は?なんですかそれは。こんなに伸ばしといて教えないってどういうことですか。さすがにちょっとイラっと来ました。」


 「まぁまぁ落ち着いてよ大翔君。私から言うべきことじゃないってこと。というか、すぐにわかることだよ。」


 「ほんと、今日の藤咲さんはどうしたんですか。」


 すぐにわかると言われたので、これ以上聞いても無駄だろうと、黙っていることにした。


 先生の待っている部屋に行き、診察を受ける。


 そして、その診断結果を聞いていると、大翔にとって、すごくいい報告があった。


 その後、少し浮かれた気分のまま、藤咲さんに再び部屋まで送ってもらう。


 「藤咲さん聞いてくださいよ!明日から俺もついに松葉杖デビューです。これで退院にまた一歩近づきました。」


 「ふふん。だから言ったでしょ?すぐにわかるって。それが私の気分がいい理由だよ。」


 「え?俺の松葉杖デビューと藤咲さんに関係があるんですか?」


 大翔にとってはかなりうれしいことだったが、まさかこれが藤咲さんのテンションが高い理由だとは思っていなかった。


 「それはもちろん。だってこれからは大翔君を車いすで運ぶ必要がなくなるからね。」


 「はぁ!?」


 何を言っているんだこの人は。そういうことは思っていても言ってはいけないことなのではないか?


 「どういうことですかそれ?申し訳ないとは思ってたけど、さすがに今のは傷つきましたよ。かなり!」


 「そんなに怒んないでよ。それに、私にいいことがあるしね。というか車いすはおまけみたいなものだし。」


 「おまけとか関係ないです!もういいですよ!どうせろくな理由じゃないだろうし、俺はこれ以上傷つきたくないんで聞きません。」


 メンタルは部活でかなり鍛えられたと思っていたのだが、藤咲さんの発言は大翔にかなりのダメージを負わせた。


 「っふふ。そんなに怒んないでよ。」


 「怒ってないです。はい。もう着いたんで大丈夫です。やりたくない仕事を今までやらせててすいませんでしたね!」


 部屋についてすぐに藤咲さんのもとから離れ、自力で部屋の中に入った後、思いっきりドアを閉めた。


 (あー!なんだよ藤咲さんのバカ!なんだかんだ言って優しい人だと思ってたのに!)


 藤咲さんに心に大きなダメージを負わせられた大翔は、ふて寝をすることにした。



【あとがき】

 この作品も気が付けば30話目に突入しました!ここまで続けてこれたのは、いつも暖かく見守ってくださる読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます!この調子でこれからも頑張っていきます!


コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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