第29話 もう一度

 「大変だった。」


 2人が帰った後、部屋で1人寂しくため息をつく。


 美零さんたちが帰ってから5分ほどたった今でも、先ほどまでの疲れが全く取れる気がしない。


 優佳さんとの恋バナ、というよりも尋問のという方が近いか。


 大翔がいくら隠そうとしても、いろいろな技を使って優佳さんは聞きだしてきた。


 美零さんに助けを求めようとしたが、『頑張って耐えて。』と言われただけで、美零さんにも本当にどうしようもないようだった。


 今更だが、本当に危なかったと思う。


 もし、美零さんのことが好きとでも言っていれば、もっと大変なことになっていただろう。


 大翔の恋愛体験は特に面白いところがなく、どちらかといえばつまらない話だったと思う。


 だが、そんな話でも優佳さんはもちろん。美零さんですら楽しそうに、キャーキャー言いながら大翔の話を聞いていた。


 (女の人が恋バナ好きっていうのは本当だったんだな。)


 先ほどまでのことを思い出しただけで頭が痛くなってくる。


 いろいろなことを聞きだされたせいで、精神的に疲れが来ていいたのか、とても眠くなっていたので、少しの間眠ることにした。


 (今度優佳さんが来ることがあったら、俺の方から優佳さんの恋バナを聞き出してやる!)


 大翔は、優佳さんから話を聞き出す方法を考えながら眠ることにした。




 「いやー。楽しかったね美零!」


 「それはいいことだけど、あんまり大翔君を困らせちゃダメって言ったよね。」


 「あれ?そうだっけ?」


 「そうだっけ?じゃないよ!」


 今は病院からの帰り道、優佳と2人で駅に向かっている途中だ。


 「でも美零だって大翔君の恋バナを聞いてるときは楽しそうだったじゃん。」


 「あ、あれは仕方ないでしょ。そもそも私が止めようとしても優佳が止まらないでしょ。」


 「まぁまぁ。そんなに怒んないでもいいじゃん。素直にいいなよ。楽しかったんでしょ?」


 「む、なんかそういわれると余計言いたくなくなる。」


 なんだかんだ言って、優佳にはいつも丸め込まれてしまっている気がする。それが美零には腑に落ちない。


 「はー。それにしても楽しかったなー。美零の言ってた通り大翔君いい子だったし。こんなに仲良くなれると思わなかったよ。」


 「あれを仲良くなったっていうの?最後の方大翔君おびえてなかった?」


 実際、美零に助けを求めてくる大翔の目はかなりガチだった。


 「そんなことないよー。もう!美零はやきもち焼きだな~。」


 「な!?違うって言ってるでしょ!それに、大翔君の前でもそんなようなこと言ってたよね。」


 「本当のことだからいいじゃんか。私はやきもち焼きな美零も可愛いと思うよ。」


 「そういうことじゃないってばー。」


 やはり、優佳と真面目に話すことは美零にはまだ難しいらしい。


 優佳の言動を真面目に追及しているこちらが馬鹿のような気がしてきて、疲れてきた。


 「まあでも、楽しかったっていうのは本当だよ?そうだ、今度から私も行っていい?」


 「え、今度からってどういうこと?」


 「そのままの意味だよ。まぁさすがに美零みたいに毎日は行けないけど。」


 「ど、どれくらい来るつもりなの?」


 美零から見ても優佳はかなり病室での時間を楽しんでいたように思えるが、まさかこんなことを言い出すまでとは思っていなかったので、かなり驚いた。


 「あ、心配しないでも大丈夫だよ。私は行けたとしても週に3,4日だから。」


 「心配てなんの心配?」


 「それはもちろん美零と大翔君の2人っきりの時間だよ。それは私が保証するよ!」


 「は、はあああああ!?」


 いつも優佳は突飛なことを言い出してそれに美零は振り回されてばかりだが、今日は特にそれが多い気がする。


 「な、なに言ってるの!本当にそういうのはやめてって言ったよね?」


 「あはは。美零はわかりやすくて面白いなー。」


 「人をからかうのはやめて!」


 「わかったよ。ほどほどにするって。」


 どうやらやめる気は全くないらしい。どうしてか、美零にはこういう話で優佳に勝てる気がしない。


 「行くならちゃんと大翔君に許可取ってからにしてよね。あと変なこと言わないこと。」


 「わかったよ。美零はいつ行ってるの?」


 「前にも言ったけど、私は予定がなかったらほぼ毎日行ってるよ。時間はばらばらだけど、平日はだいたい4時か、遅くても7時前かな。」


 「なるほどなるほど。よし!家に帰ったら大翔君に連絡してみるね。」


 「うん。そうするといいよ。」


 時刻は午後の6時過ぎ、病院からの帰り道は比較的大通りなのもあって明るい方だが、空の色はすっかり暗くなっていた。


 「そういえばさ、最後にもう一回だけ美零に聞いてもいいかな。」


 まだ1月の真冬ということもあって、2人してポケットに手を入れて歩いていると、優佳が前を向いたまま話しかけてきた。


 「どうしたの。」


 「美零はさ、大翔君に会えなくなってもいいの?本当に行くときに聞いたような終わり方でもいいの?」


 「...さっき言ったとおりだよ。」


 優佳は今までの楽し気な話し方から、急に真面目な声で話しかけてきたのですぐには返事を返せなかった。


 「あの時の私はさ、話しか聞いてなかったから、美零が大翔君といるときはどんな感じなのかわからなかった。」


 「でもさ、実際に2人が話してるとこを見たらさ、美零がどんな気持ちでその決断をしたのかが私にも少しはわかった気がするんだ。」


 「私はあんなに楽しそうな美零を初めて見たし、これからも美零にはずっと笑顔でいてもらいたい。」


 「だから最後にもう一回聞くよ。本当に?」


 優佳の真剣な眼差しが美零に刺さる。その目は優しさと思いやりで満ちていた。


 「ありがとう優佳。でももう決めたことだから。」


 「・・・その選択が美零にとってつらいものだと分かっていても?」


 「うん。後悔は残さないって決めたから。」


 「そっか、、、よし!」


 駅までもうすぐというところまで来たところで、美零のポケットに優佳が手を突っ込んできた。


 「ふぇ!?なに。びっくりした。」


 少しづつ温かくなってきた手に、急に冷たいものが触れて変な声が出てしまった。


 「そういえばここら辺に行ってみたい店があったなーって。せっかく一緒にいるんだからちょっと寄ってこうよ。」


 「ちょ、優佳?」


 「今日は私のおごりだよー。」


 「っふふ。もう。なんでいっつも突然なのかな。」


 すでに強引に手を引っ張られているので、拒否権はないような気がするが、少し暗くなってしまった空気を換えるための、優佳なりの気遣いだろうと思い、美零はついていくことにした。


 

【あとがき】

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

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