第26話 美零の答え

 「ちょっと優佳。話聞いてた?」


 「大丈夫だって。私がそんな下手なミスするわけないでしょ。」


 「その謎の自信が怖いんだよ!」


 どこかふわふわとしている優佳が不安でしかない。優佳は少し天然なところがあるので、何をしでかすかわからない。


 なぜ優佳と一緒にいるのかというと、昨日大翔に言った紹介したい友達というのがこの優佳のことだからだ。


 昨日の夜に大翔から許可をもらったと優佳にLINEをしたところ、1分もしないうちに『明日行く。』と返信が来たのだ。


 さすがに昨日の今日で早すぎないかと思ったのだが、一応大翔にLINEをしてみたところ、『全然大丈夫だよ。』と返信が来たので、一緒に行くことになった。


 時刻は午後の4時半。優佳の学校の終わりの時間に合わせて駅で待ち合わせすることにした。


 そして今は病院に向かって電車に乗っているところである。


 美零が注意事項を言っていると、堅苦しいことが嫌いな優佳はボーっとしたり、話を変えたりしてくる。


 「ねえ優佳。ほんとに真面目にやってよね。」


 「わかってるって。私と美零はモデルもなにもやってないただの学校の友達。でしょ。」


 「絶対に守ってよね。モデル仲間なんて絶対に言わないこと!」


 今この車両には美零と優佳以外に人がいないので、つい声が大きくなってしまう。


 「わかってるよー。今日は私の大事な親友の彼氏を見に行くだけだから。」


 「彼氏とかいうのも禁止ね。」


 「えー。それは別にいいでしょー。」


 「変な誤解を招くでしょ。」


 こんな調子で大丈夫なのかと、ついため息をついてしまう。実際に優佳はすでに一つやらかしている。


 昨日の夜、私服を持ってこいと言ったのだが、優佳はしっかり忘れてきた。


 私服の件ならばまだなんとかなるが、大翔の目の前で失言をされればどうしようもない。


 美零はそれだけ心配をしているのだが、当の本人に緊張感というものが全く見られない。


 「大丈夫だって。私も美零がどれだけその子のことが好きか、によくわかったから。」


 「思いっきり勘違いしてるし、そのことも言っちゃだめだからね。」


 優佳の言ったあの時とは、年初めに行った京都や大阪での撮影のことだろう。


 大翔には親戚の家を周りに行ったとをついたが、本当は数名のモデルで雑誌の撮影をしに行ったのだ。


 そして、偶然にもその数名の中に優佳がいたのだ。


 仲のいい2人は、自由時間や撮影の合間の時間をほとんど一緒に過ごしていた。


 その時に大翔とのLINEのやり取りを優佳に盗み見られてから、大翔に会ってみたいと騒ぎ出したのだ。


 「いや~。彼氏からのLINEをずっと待ってる美零は可愛かったな~。」


 「だからあれは違うって言ったじゃん。優佳の勘違いだよ。」


 「勘違いじゃないでしょ。私と話してる時もすっごいスマホ気にしてたじゃん。」


 「誰だってスマホくらい気にするでしょ。」


 「それはそうかもしれないけどさー。美零はいつもそんなにスマホいじらない人なのに、あの時はいつもの3倍は気にしてたよ。」


 どうやら優佳は、どうしても美零が大翔のことを好きだということにしたいらしい。


 「はあ。もう何でもいいけど余計なことは絶対に言わないでよね。」


 「え~。美零がLINE来るの待ってるくらい好きだっていうこと教えたら、大翔君も絶対喜ぶと思うけどなー。」


 「そういうことが余計なんだよ。ほら、次の駅なんだから降りたらもうそういうこと言わないでよね。」


 「はいは~い。」


 返事は軽いが、なんだかんだ言って仕事の時も切り替えはしっかりしている優佳だ。ここからはもう信じるしかない。


 電車から降り、大翔のいる病院まで2人で歩く。美零はその間も、隣を楽しそうに歩いている優佳のことが心配でならなかった。


 「そういえばさ。ずっと前から気になってたんだけど、美零はどうして大翔君に?」


 「それは、、、」 


 突然の優佳の純粋な疑問にすぐに答えることができなかった。


 「私はまだ直接会ったことないから言い切れないけどさ、美零から聞いてる感じだと大翔君はすごくいい子だと思うんだ。」


 純粋な質問が今の美零には良く刺さる。裏表のない優佳だからこそ余計に。


 「うん。...すごい、いい子だよ。」


 「それなら、早く本当のことを言った方がいいと私は思うな。美零が今の関係を続けたいと思うなら、余計に。」


 「・・・そう、かもしれないね。」


 隣りを歩く優佳の顔は、さっきまでの楽しそうな表情から、撮影の時に見る真剣な表情になっていた。


 まさか優佳からこんなにも真面目なことを言われると思っていなかった美零は、昨日の先生との会話を思い出した。


 美零が返事に迷っていると、優佳は何も言わずに美零の返事を待っていた。


 「...私は、ずっと今のままがいいと思う。だけど、それができないことは私が一番わかってる。だから決めたんだ―――」


 昨日の夜、いや、本当はもっと前から決めていたことだ。だが、今まで美零が甘かったせいでなかなか決断できずにいた。


 だが、それも昨日まで。先生と話したとでやっと決断することができた。


 「この関係は大翔君が病院を退院するまで。その時が来たら、私は本当の私を大翔君に教える。私はだって。」


 「・・・」


 「それで私たちの関係は終わり。大翔君には、もう。」


 想像しただけでも辛い。だが、これも大翔のためだ。


 「本当に、美零はそれでいいの。」


 「うん。もう決めたことだから。」


 「そっか。ならそれまでは美零がやりたいことをやればいいよ。」


 最後の優佳の優しい一言に涙が出そうになる。


 (そうだ、優佳の言う通り。まだ時間はあるんだ。後悔は残さないようにしよう。)


 だいぶ重めの話をしていたが、気が付くとすでに大翔の病院の玄関口まで来ていた。


 1日1日を大切にしよう。美零は改めて決意した。



【あとがき】

 自分でも最近気が付いたのですが、この作品を作りだしてからすでに1カ月がたっていました。時間が流れるのって早いんだなとびっくりしています(笑)少しは上手になっていると嬉しいです。

 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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