第25話 ネガティブ

 部屋の整理を始めようと決めたときから1時間が経っただろうか。


 元からそこまで汚かったわけではなかったので、10分ほど掃除をして終わらせた。


 それからは、美零さんがいつ来てもいいように心の準備をしていた。


 だが、さすがに美零さんがここまで遅れるのは珍しい。今まで何度か遅れることはあったが、その時はいつもLINEが来ていた。


 美零さんの身に何かあってのではないかと、心配になって電話をかけようとするちょうどその時、部屋のドアがノックされた。


 「入っていいですよー。」


 大翔が入室を許可すると、美零さんが部屋に入ってきた。


 「久しぶりだね大翔君。元気だった?」


 「暇すぎて死にそうだったけど、元気だったよ。美零さんは?」


 「うん。私もちょっと忙しかったけど元気だよ。」


 (元気?なんか少し暗い気がするけど、久しぶりだからそう感じてるだけかな。)


 元気と美零さんは言ったが、クリスマスに会った時よりも少し雰囲気が暗くなっているような気がした。


 「そうだ、私用事があって京都と大阪に行ってたんだけど、これその時のお土産ね。」


 美零さんは手に持っていたたくさんの袋から次々と、お土産を取り出した。


 今日は荷物が多いなと思っていたが、美零さんが持ってきたもののほとんどがお土産だったらしい。


 「え、こんなにたくさんは・・・」


 「いいんだよ。これは大翔君に買ってきたものなんだから。それにほかの人に渡す分はちゃんとあるから。」


 「そっか。じゃあありがたくもらっとこうかな。」


 「うん。そうしてくれると私もうれしいよ。」


 美零さんが買ってきてくれたお土産を見てみると、そのほとんどが抹茶のお菓子だった。


 どうやら大翔のために買ってきたというのは案外嘘ではなかったのかもしれない。


 「今から一緒に食べない?」


 「うん。そうだね。...あ、でも私なんかが一緒に食べてもいいのかな。」


 (え!?俺と食べるのがそんなに嫌だったの!?)


 ただでさえ暗いと思っていた表情また一段と暗さを増した気がする。


 それに、どこか挙動不審な感じもする。まるでいつもの大翔のようだ。


 「え、あの、前もよく一緒に食べてたから、久しぶりにどうかなって。思ったんだけど。」


 「私が一緒でいいの?」


 「いいもなにも、美零さんが買ってきてくれたものだし、俺もずっと美零さんと話したかったし。」


 大翔がそういうと少しだが、美零さんの表情が少し明るくなった。


 「そっか。ありがと。私も大翔君と話したいことがいっぱいあるんだ。」


 「!?」


 (久しぶりに会って、話したいことがいっぱいあるなんて言われたら、うれしすぎて死んじゃうよ!)


 大翔が久々の美零さんの天使ぶりに勝手に衝撃を受けた後、2人で食べたいお菓子を選び、お茶を入れて食べ始めた。


★✦★✦★✦★✦★


 「はあ~。美味しいね大翔君!やっぱり本場の抹茶は違うね!」


 お菓子を食べ始めて数分が経った。最初は少し暗めだった美零さんも、すぐに元気になった。


 というか、今まで以上に生き生きしている気さえする。


 (やっぱり美零さんは元気な方がいいな。)


 「そういえば美零さんの実家って京都とか大阪らへんにあるの?」


 「ううん。京都と大阪に行ったのは別の用事があったからなんだ。」


 「へー。どんな用事でそんなとこまで行ったの?」


 「えーと、、、まあ親戚の家を周ってたって感じかな。」


 「そうなんだ。結構大変そうだなー。」


 院内生活の大翔にはわからないことだが、やはり年始でも忙しい人は忙しいらしい。


 「あ、ってことは美零さん京都と大阪観光したってこと?」


 「私も最初はそのつもりだったんだけど、結構忙しくてそれどころじゃなかったんだとね。」


 「せっかくのチャンスだったのに残念。」


 「でも、1人で楽しむよりも、こうして大翔君とお話しながらの方が私は楽しいから、これでよかったんだよ。」


 笑顔でそんな嬉しいことを言ってくる美零さんに、動揺してしまう大翔は、美零さんの顔を直視できなくなってしまった。


 その後も、久しぶりのお茶会に時間を忘れて楽しんでいると、気が付くと時刻は7時近くになっていた。


 「もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと。」


 「ほんとだ。もうこんな時間になってる。」


 時間に気が付いた美零さんがいそいそと荷物をまとめだした。


 「そうだ大翔君。私の友達が大翔君に会いたいって言ってたんだけど、今度連れてきたいいかな。」


 「美零さんの友達なら大歓迎だよ。いつでも連れてきて。」


 「ほんとに!ありがとう。その子結構大翔君に会いたがってたから喜ぶと思うよ。」


 「え、別にここにきてもそんなに楽しいことはないと思うけど。」


 美零さんが何を話したのかはわからないが、そんなに楽しみにされても困っしまう。


 「そんなことないよ。少なくとも私は大翔君と話すの楽しいと思ってるよ。」


 「え、、、あ、ありがとうございます。」


 「っふふ。急にぎこちなくなってどうしたの。」


 あんなことを言われたら誰だって動揺してしまう。いたって健全な男子高校生の反応だと思う。


 「そ、それで!美零さんの友達ってどんな人なんですか。」


 「えっとね、私と同い年でで仲がいいんだ。元気で人懐っこいかわいい子だよ。」


 「元気なら俺も少しは仲良くなれるかもしれないなー。よかった。」


 「うん。私も2人が仲良くなってくれると嬉しいよ。それじゃあ、連れてくるときはちゃんと言うから、またね。」


 帰り支度を済ませた美零さんが帰ろうとする。


 「美零さん。」


 美零さんが目の前を通り過ぎたところ、大翔が声をかけたことで美零さんがこちらを振り向いた。


 大翔は先ほどからずっと言いたいと思っていたが、恥ずかしくて言えなかったことを伝える決心がやっとついた。

 

 「どうしたの?」


 「あの、今回は美零さん時間がなくて観光できなかったらしいから。その、あの時の約束、、、」


 「できるだけ早く怪我なおすから、一緒に京都に行こう!!!」


 「!?」


 今日の美零さんは以前よりも少し暗かったため、初めのころに約束したことを忘れてしまっているのではないかと大翔は思ったのだ。


 言い切ったはいいが、恥ずかしくて美零さんの顔が見れないため、今美零さんがどんな表情をしているのかが分からない。


 「大翔君は私があの時した約束を忘れたとでも思ってるの?」


 「いや、その。今日の美零さんは少しネガティブな発言が多かったから。」


 「っふふ。ネガティブかぁ。」


 なぜか美零さんは大翔が言ったネガティブという言葉に笑っていた。


 「ありがとう大翔君。ずっと待ってるから、楽しみにしてるよ。」


 優しい笑顔を残して今度こそ美零さんは帰って行った。


 その時に見た美零さんの笑顔は、今まで見てきたどの笑顔よりも美しく見えた。



【あとがき】

 久しぶりに大翔と美零の病院回だったので、今までどんな感じだったのか忘れてしまって、大翔の言葉が全部敬語になってたのを最後の最後に気が付きました。


 もう何回目だよって感じですが、大翔は美零に対して敬語というのが、頭の中で変に固定されちゃってるみたいです(笑)


 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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