第19話 買い物

 翌日12月24日。クリスマスイブの朝10時。優佳との待ち合わせのために渋谷駅前に来ていた。


 なぜ渋谷なのかというと、2人の学校は近いのだが最寄り駅が少し離れてるので、とりあえず渋谷と優佳に言われたのだ。


 クリスマスイブということもあって、駅前はたくさんのカップルであふれかえっていた。


 うわぁ。すごい場違いだ。人混みは苦手なんだよなぁ。


 予定よりも少し早くなって来てしまったため、優佳を待っている間も、目の前を、たくさんのカップルが通り過ぎる中、大翔君に何をプレゼントするのかを考えていた。


 5分ほど待っていると、人混みの中から優佳がこちらに向かって手を振ってきた。


 今日の優佳の服装は、白のニットセーターに、タイトスカートという大人らしい服装だった。


 元気に手を振ってくる優佳は、童顔のせいもあってか、小さな子供のように見えた。


 「ごめんねー。ちょっと遅れちゃった。待たせてごめんね」


 「私が早く来ただけだから気にしないで」


 自分で約束は守る主義だと豪語するだけあって、意外にも、優佳はそこらへんはきっちりしてる。


 「よし。早速だけど行きますか」


 「どこに行くのか決まってるの」


 「まだ決めてないけど、歩いてたらいい感じの店見つかるでしょ」


 朝から元気な優佳に手を取られて、そこから適当に歩いて回った。


 「あ、こことかいいんじゃない」


 そういって優佳が指さしたのは、腕時計の専門店だった。それも、その業界にあまり詳しくない美零でも知ってるようなハイブランドのものだった。


 「ちょ、ちょっと待って。高校生だよ?腕時計とかって使うのかな。実際に大翔君がつけてるの見たことないし」

 

 「使わなかったらプレゼントしても仕方ないか。いい案だと思ったんだけどなー。腕時計ってプレゼントの鉄板じゃない」


 「まあね。でもそういうのはもうちょっと大人になってからだと思うな」


 「んー。早速候補が一つ減っちゃったな」


 「そういえば優佳のプレゼント候補ってほかには何があるの」


 「えーっとね、昨日考えたのは、ネックレス、マフラー、ネクタイ、万年筆とかかな」


 出てきた候補は、美零が昨日ネットで調べたときに出てきたものがほとんどだった。


 だが、付き合ってるわけでもないのにネックレスは少し重い気がするから無し。


 この冬、外に出られない大翔君にマフラーを贈るのは、嫌味に取られてしまうかもしれないので無し。


 ネクタイ、万年筆を大翔が使う時が来るのはあと5年は先のことだろう。できれば渡してからすぐに使えるものがいいのでこれらも無し。


 「うーん。もうちょっと使いやすいのがいいんじゃないかな」


 「使いやすい、か。そうだ。ボールペンとかどうかな。男の子って文房具好きな人多い気がするし、いいと思うよ」


 「ボールペンか。プレゼントに渡してもおかしくないかな」


 「大丈夫」


 自分のチョイスに絶対の自信がある優佳は、近くにある文房具屋を調べ、その店に向かうことにした。


 「へー。文房具屋ってこんなにおしゃれなんだね。どう?私のセンスいいと思わない」


 なぜ優佳が自慢げなのかわからないが、確かに想像してた文房具屋と全く違い、とても綺麗だった。


 店内を見て回ると、100円ほどのものから、5桁を超えるようなものまであった。


 「すごいね。こんなにいっぱい種類があるんだね。知らなかったよ」


 「そうだね。私もこんなにたくさんの文房具初めて見たよ」


 「それで?どれをプレゼントするか決めた」


 「どれがいいのかわからないし、今更だけど、プレゼントにボールペンもらってうれしいか、また不安になってきた」


 店内を見て回っている最中、ずっとそのことを考えていた。


 「大丈夫だって。確かに高校生のうちはあんまり使わないかもしれないけど、使う機会は全然あるし、大人になってからも使えるからいいと思うよ。」


 想像以上にしっかりと考えてくれている優佳に少し感動した。


 「確かにずっと使えるのはいいと思うけど・・・」


 「そんなに悩まなくても、美零からのプレゼントなら男の人はどんなものでもうれしいに決まってるよ」


 「そ、そうかな」


 「うん!私がその子の立場だったら、毎日お見舞いに来てくれる献身的な美少女がいたら絶対好きになってるよ」


 「またその話?今はそんなことよりもプレゼントを・・・」


 「と・に・か・く!美零からプレゼントもらって喜ばない男の子なんてこの世にはいないんだから、もっと自分に自信をもって」


 「う、うん。わかった。優佳がそこまで押すならきっと大翔君も喜んでくれると思うし」


 なぜそんなことが分かるのかわからないが、これ以上悩んでもいい案が浮かばない気がするので、最終的にボールペンにすることにした。

 

 「あとは大量にあるボールペンの中からどれを選ぶかだね。」


 「あ、それならいいなって思ったのがあるんだけど。」


 優佳を連れて、選んだボールペンを見せる。


 「うん!シンプルでかっこいいと思う。ずっと使ってくれると思うよ。きっとその子も喜んでくれるよ」


 「そっか。よし!これにしよう」


 選んだボールペンをもってレジに行く。その後は、優佳とお昼ご飯を食べ、服を買いに行ったりした。


 しばらく2人で買い物をしていると、だいぶ辺りは暗くなっていた。時計を見ると、午後の6時過ぎになっていた。


 「どうする?ごはん食べに行く?」


 「そうだね。私も少しおなかすいてきちゃった。」


 ご飯を食べに、以前から優佳が行きたいと言っていたイタリアンの店に行くと、かなり混んでいるようだったが、ちょうど2人分の席が空いていたので、待たずに中に入ることができた。


 席に着き、パスタやピザなどを頼む。今日は1日ずっと歩いていたので、さすがに少し疲れが出てきた。


 「はあ。大翔君はいいな。クリスマスに美零と会えるなんて」


 「まあ大翔君がどう思ってるかはわからないけどね。優佳は明日用事ないの」


 「残念なことに何も用事がないんだよね。私も一緒に病院行こうかな。美零を助けてくれてありがとうって、私も言いたいし。」


 「明日はさすがに急すぎない?行くんだったら大翔君に許可取らないと」


 「あはは。嘘だよ」


 「急にそんなこと言いだすからびっくりしたよ」


 優佳なら本当に来かねないので嘘に聞こえない。それに、もし本当に来たら2人はすぐに仲が良くなる気がする。


 「まあでも、会ってみたいとは思うよ。だって男の人に全く興味なさそうだった美零がその子のこと話すときはすごい楽しそうなんだもん」


 「そんなことないと思うけど」


 「自分が気づいてないだけだよ。美零はそういうの疎そうだし」


 「そうなのかな」


 「うん...きっとそうなんだよ。」


 一瞬優佳の声が暗くなった気がしたが、それからは、学校のことや仕事のこと、最近はまっていることなど、いつも通りの会話をした。


 それから1時間ほどして、2人は帰ることにした。


 駅に向かっている途中で、綺麗なイルミネーションを見たり、大きなクリスマスツリーの前で写真を撮ったりした。


 「はあ。今日は本当に楽しかったよ。久しぶりに美零と遊べてよかった」


 「うん。私もすごい楽しかった。プレゼント選ぶの手伝ってくれてありがとね。それと、これ」


 美零はカバンの中からあらかじめ用意していたプレゼントを取り出した。


 「え、なにこれ」


 「1日早いけどクリスマスプレゼントだよ。今度会うのは年明けになっちゃうと思うから」


 「あはははは。なんだよー、美零もか」


 そういって優佳は笑いながら、カバンの中から小さな紙袋を取り出した。


 「これ、私に?」


 「うん。美零に。やっぱり考えることは同じなのかー」


 「ふふっ。ほんとうだね。ありがとう優佳」


 プレゼントを交換し合い、なんだかおかしくなって2人で笑ってしまった。


 「こちらこそ。それと美零!明日は頑張ってね」


 「うん。今日は本当にありがとう。また遊ぼうね」


 「うん!絶対遊ぶ。それじゃあ次会うのは2週間後くらいかな」


 「そうかもね。じゃあ、またね」


 「うん。またね」


 優佳と別れ、それぞれ別々のホームに向かって歩いていく。


 家に着き、優佳からもらったプレゼントを開けてみると、中にはルームソックスが入っていた。


 ほんとに考えることは同じなんだな。


 おかしくなって1人でしばらくの間、笑っているとそこへちょうど、優佳からLINEが来た。


 『プレゼント開けた瞬間運命感じたよ!面白すぎてこれを使うたびに思い出し笑いしちゃいそう。ありがとう。」


 そこには、メールと一緒に、美零がプレゼントしたルームソックスを履いた優佳の写真も送られてきていた。



【あとがき】

 最近、この作品を読んでくれる方がたくさん増えてきてすごくうれしいです。少し前にPV数が1000を突破したと喜んでいたんですが、気づいたらすぐに2000PVも突破していました。

 たくさんの方に読んでいただけて本当にうれしいです。ありがとうございます。

 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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