第20話 嵐の朝

 今までのクリスマスの中でダントツに楽しいクリスマスだった。


 クリスマス翌日の朝、目を開くと机の上には美零さんからもらったボールペンと、藤咲さんからもらったハンカチが置いてあった。


 しばらくの間、美零さんは帰省するため、病院に来られないと昨日の夜にメールが来た。


 少し悲しいが、今は美零さんと藤咲さんからもらったプレゼントがある。それだけで充分すぎるくらいだ。


 しばらくの間、何をするわけでもなく2人からもらったプレゼントを眺め、昨日の出来事を振り返る。

 

 クリスマス前日には、藤咲さんのせいで美零さんに彼氏疑惑が出て、そのことで頭がいっぱいになって、プレゼントどころの話ではなかった。


 だけど、実際にはその疑いはほぼ白になった。それに、プレゼントまでもらうこともできた。それも2から。思い出しただけでニヤニヤが止まらない。


 1人でニヤニヤしていると、携帯から着信音が鳴りだした。


 『おーい。大翔生きてるかー?』


 電話相手は蒼汰だった。


 「生きてるよ。てかこんな朝早くになんだよ」


 『いやー。昨日はどうせ病室で一人寂しくクリスマスを過ごしてであろう、かわいそうなお前が死んでないか心配で』


 「馬鹿にしてんのか?勝手に決めつけんな」


 『あー、怖い怖い。あ、ちなみに俺は昨日、部活の仲間でクリスマスパーティーだったよ』


 スマホの画面に急に蒼汰の顔が映り、マネージャーからプレゼントをもらったと、とても腹が立つ顔で自慢してきた。


 なんだかんだいって、心配してくれてはいるんだろうけど、本当にこいつはムカつくな。美零さんと藤咲さんのことを言うつもりはなかったけど、ここまで馬鹿にされては黙っていられない。


 「おい蒼汰。これが見えるか?」


 こちらもカメラ機能をONにして2人からもらったプレゼントを見せつける。


 『ん?なにそれ』


 「これはな、美零さんと藤咲さんからもらったクリスマスプレゼントだ」


 『は?』


 「あ、藤咲さんっていうのは俺の担当の超可愛い看護師さんね。美零さんはわかるよな」


 『は?』


 「しかも、美零さんはもちろんだけど、藤咲さんもこれは仕事じゃない的なこと言ってたから、俺にしか渡してないんじゃないかな」


 『は?』

 

 顔が映っていないので表情は分からないが、一言しかしゃべってないのに蒼汰が怒っているのが声から伝わってくる。


 「いや~。楽しいクリスマスだったな。あぁ、そっちも楽しかったんだってな。よかったな」


 『よし分かった。お前は仲間じゃない。ただで部活に戻ってこれると思うなよ?』


 そういって蒼汰からの着信が急に切られた。


 まあ最初に喧嘩売ってきたのはあっちだからな。でも最後に言ってたのはなんか怖...ん?なんだ?


 何かと思ってスマホを見てみると、携帯に通知がたくさん来ていた。開いてみると、すべてサッカー部のグループのものだった。


 見てみると、それはすべて自分に対する暴言や妬みだった。


 『おい!お前1人だけ何でプレゼントもらってんだよ!』


 『お前がなんで天音さんからプレゼントもらってんだよ!死ね!』


 『お前の部屋番号はわかってる。今すぐ殴り込みに行ってやるから待ってろ』


 『生きて帰ってこれると思うなよ』


 蒼汰あいつ全部ばらしやがったな。ていうか、こういう時の団結力の高さは相変わらずだな。


 他校のサッカー部はどうか知らないが、俺の学校のサッカー部は非リアを集めて作ったようなもの。行動力だけはあるやつらだ。本当に乗り込んできたらどうしよう。


 どうやってもごまかしきれる気がしない。あいつらのしつこさは世界レベルだ。何もいいアイデアが思い浮かばない。


 「いや~。超かわいい看護師なんて照れるな~」


 「!?」


 なんて返信すればいいのかを考えていると、突然後ろから声が聞こえた。悪い予感がして、振り向いてみると、そこには藤咲さんがいた。


 「大翔君は私をそんな風に思ってくれてたんだ~。お姉さん嬉しいな」


 「なんでここにいるんですかー!」


 「ちゃんとノックしたんだよ?でも、返事がないから心配して中に入ってみたら、電話してるみたいだから待ってたんだよ」


 「普通外で待つでしょ!?」


 「ごめんごめん。まあでも、私は嬉しかったよ」


 この人はやはり反省という言葉を知らないらしい。一度痛い目にあった方がいいと思う。


 「そういう問題じゃないでしょ。ていうか、あの...どこから聞いてたんですか」


 「えーとね、大翔君がボールペンとハンカチを見せびらかしてた時からかな」


 「ほとんど全部じゃないですか!」


 「大丈夫。私は気にしてないから。むしろうれしかったよ」


 「藤咲さんは大丈夫でも、俺は全然大丈夫じゃありませんよ」


 いつも以上に上機嫌な藤咲さんがとてつもなくムカつく。


 「わかったよー。今の大翔君がどういう状況なのか、なんとなくわかるから、お詫びに私が解決策を教えてあげよう」


 「ほんとですか」


 「ほんとだって。どうせ友達に自慢したのを拡散されたとか、そんなとこでしょ」


 ほとんど合ってる。本当にこの人は全部見ていたらしい。早く気づけばよかった。まあ、過ぎたことは仕方ない。ここは黙って藤咲さんに任せよう。


 「じゃあ、少しだけスマホ貸してくれるかな」


 「わかりました」


 いまだに荒れているスマホを渡す。


 「おおー、思ってた以上に荒れてるねー」


 「ほんとにやばいんですから、できるだけ早く沈静化してください」


 「わかったよ。お姉さんに任せればこんなのすぐだよ」


 「どうするつもりなんですか」


 「ん?それはねー。こうするんだよ!」


 突然肩をつかまれ、藤咲さんの近くに寄せられた。


 え?なにこれ。近い近い!どういうつもり!?


 「はい。カメラ見て」


 頬がくっついてしまいそうなほど近くにいる藤咲さんに動揺して、何が何だかわからなくなって、いわれるままに藤咲さんに従った。


 すると、スマホからフラッシュとともに、シャッターを切る音が聞こえた。


 「何してるんで...おい!!!」


 藤咲さんは、すごいスピードで指を動かし、今もなお荒れているグループに今撮った写真を投下した。


 すると、少しの時間を置いた後、先ほどまでとは比べ物にならないほどに荒れだした。


 「なにしてるんですかー!」


 「なにって、大翔君を助けてあげたんだよ」


 「藤咲さんには何が見えてるんですか!?俺のスマホえぐいことになってますよ!」


 「大丈夫だって。誰って聞かれたら、また超かわいい看護師って言ってくれてもいいんだよ」


 ものすごく楽しそうな表情をしている藤咲さんは、ニヤニヤしながらスマホを渡してきた。


 「どうしてくれるんですか?責任取ってくださいよ!」


 「あ、そろそろほかの患者さんのとこに行かないと。またねー」


 「はぁ!?ちょっと待ってくださいよ!」


 最後まで楽しそうにしながら藤咲さんは部屋から出て行った。


 そこからずっと、午後からの部活が始まるまでの間、部活の仲間から永遠に誹謗中傷を受けることになった。



【あとがき】

 非リアの団結力ってすさまじいですよね。僕の部活でも同じようなことがありました(笑)

 これからは少しづつ物語を進めていく予定です。投稿が遅れてしまうかもしれませんが、頑張ります!

 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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