第17話 クリスマスプレゼント②

 クリスマスの午前中、藤咲さんからもらったプレゼントをニヤニヤしながら眺めていた。


 その間も、藤咲さんが言っていた言葉が頭から離れなかった。『仕事じゃない』『渡したいから渡した』この二つの言葉の意味を考えるのに必死だった。


 あの感じからすると、藤咲さんは本当に個人的なプレゼントということも考えられる。だけど、相手はあの藤咲さんだぞ?


 藤咲さんは時々小悪魔になる時がある。もしかしたら全部演技だったという可能性もある。


 ぐぉおおおおおお!わからない。藤咲さんが分からない。どういう意味だあれ。


 そんなようなことを長々と考えていると、少しづつ日が落ちてきた。時計を見ると、時刻は午後4時半。もうすぐ美零さんが来る時間だ。


 時間が近づいてくるにつれ、なんだか落ち着かず、そわそわしだした。


 最近は美零さんが来ることにも慣れてきたのだが、今日がクリスマスだからというせいか、どうにも落ち着かない。


 いつもと違うことは何もない。ただ今日がクリスマスというだけ。何も期待するな。何も期待するな。俺ぇぇ!!


 初めてクリスマスに女の人と会う約束をしているということを、俺は無意識のうちに、かなり意識をしているようだ。


 落ち着け、まずは深呼吸。そして、素数。素数を数えるんだ。


 素数を数え始めて、251まで来たところで、ドアをノックする音が聞こえた。


 「天音です入っていいですかー」


 「はーい。いいですよ」


 今日の美零さんは、薄茶色のボアジャケットに、濃茶色のロングスカートという冬らしく、とてもかわいい服装だった。


 「メリークリスマスだね大翔君」


 「はい。メリークリスマスです」


 「ふふっ。やっぱり大翔君は。敬語のままだね」


 「いや。今日はちょっといろいろあって」


 がんばって平静を装っているつもりだったが、ダメだったらしい。


 「いろいろ?もしかして藤咲さんと何かあったの」


 「まあそんな感じかな?藤咲さん最近俺をからかうのにはまってるのか、いたずらしてきて困ってるんだよね」


 「本当に仲がいいね。あ、そうだ。これ!。LINEしたけど、ケーキ買ってきたよ」


 美零さんが持ってきた袋の中の箱を開けると、抹茶のケーキと抹茶のモンブランが入っていた。


 「おいしそう!」


 「ふふっ。喜んでくれたみたいで何よりです。さあ、大翔君選んで選んで」


 「いや。美零さんが買ってきてくれたから、美零さんから選んで。それに、前は俺が先に選んだから」


 「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 美零さんは抹茶のケーキを選び、もう一つのモンブランを手に取った。


 「うーん。美零さんが持ってきてくれるお菓子はいつもおいしい」


 「ありがとう。そういってくれると嬉しいよ」


 美零さんがいつも通りなので、緊張もだんだんと和らいできた。


 「これクリスマスツリー?小さくて可愛いね」


 ケーキを食べながら美零さんは窓際に飾っていた、クリスマスツリーをキラキラとした目で見ていた。


 「それは藤咲さんが持ってきてくれたんだよ。看護師っていろいろな仕事があって大変そう」

 

 「へー。藤咲さんってやっぱり真面目なんだねー」


 「あの人が!?全然だよ。いっつもサボってるからそれはないって」


 「そんなことないと思うけどなー。大翔君も仲いいからいい人なんじゃいの」


 「いい人ではあるけど、真面目ではないと思う」


 「ふふっ。本当に仲がいいんだね。まあ良い人なら良かったじゃん。」


 しばらくの間、美零さんと2人で話していると、ふとした瞬間、今のこの状況が理想のリア充像であることに気が付いた。


 クリスマスにこんなにかわいい人とニコニコと話しながらケーキを食べているなんて、1カ月前では想像することもできなかっただろう。


 美零さんは気にしていないようだが、その事実だけで一生生きていける気がする。


 「そういえばさ、その、今日ってさ...」


 先ほどまでの美零さんとは打って変わって、急に歯切れが悪くなった。


 「ん?今日はクリスマスだよ」


 ん?なんか急に美零さんの様子が変わったな。もしかして、藤咲さんの悪い予想通り、この後彼氏との約束があるとか!?


 「そうなんだけどさ、あの...」


 美零さんが少し顔を赤くして、何か、言いにくそうにしている。


 あぁあああ!これ絶対藤咲さんの予想当たった。今すぐ泣きそうだけど、言いにくそうだから、ここは俺から言ってあげた方がいいか。


 「あの、美零さん。俺に気を使わないでいいって言ったよね。用事があるならその...」


 用事があるならそっちを優先すればいい。と言うべきなのだろうが、最後の最後で情けなさが出てしまう。


 「うん。そうだよね。今日はクリスマスだから大翔君にも用事があるよね。ごめん」


 なんだか会話がかみ合っていないような気がするが、今は何かを深く考える余裕はない。


 「いや。俺のことは気にしないで」


 すると、美零さんは持ってきたカバンの中から何かを取り出した。


 その後、一度深く目を閉じ、なにかを決心したように、カバンから取り出した細長い箱を大翔の目の前に出してきた。


 「これ、クリスマスプレゼントです!!」


 「・・・へ?」


 「あの、だから、プレゼント。クリスマスの...」


 突然のことに頭の回転が付いていかず、気の抜けた返事をしてしまった。


 「おれ、に?」


 「う、うん。嫌だったらごめんだけど、その、一生懸命選んだから、もらってくれるとうれしい。...です。」


 今まで見たこともないほど、美零さんの顔が赤くなっている。


 「ほんとに!俺にプレゼント!?ありがとうございます!美零さんからのプレゼントだったらポケットティッシュでもうれしいです」


 「そ、そっか」


 喜び具合に美零さんが若干引いてる気がしなくもないが、美零さんからのプレゼントにはそれだけの価値がある。


 「あの、今開けてもいいかな」


 「うん。大翔君が喜んでくれるといいんだけど」


 美零さんに彼氏疑惑があったせいで、プレゼントをもらうことを考えてもいなかった。中身が何であってもうれしい。


 箱を開けると中には、シンプルな黒のボールペンが入っていた。


 「本当にありがとうございます。このボールペンはお守りにして一生大事にします!」


 「いや、大事にしてくれるのは嬉しいんだけど、普通に使ってくれていいんだよ」


 「こんなおしゃれなボールペン俺にはもったいない気がして」


 「そんなことないよ。大翔君いっつも勉強してるみたいだからちょうどいいかなって思ったんだけど」


 「本当にうれしい。これからは授業も全部このボールペンでノートに書くって今決めたよ」


 「ふふっ。そんなに喜んでくれて、でこっちもうれしいよ」


 美零さんからのプレゼントは、今までの人生の中でもトップレベルでうれしいが、やはり今の自分では何も返すことができない。


 藤咲さんに次いで美零さんにももらってばかりということに、初めてこの怪我を恨んだ。


 「でも、すいません。今の俺には何も返すことができなくて」


 「気にしないでいいんだよ。その怪我がなければ今頃大翔君は楽しいクリスマスを過ごしてたはずなんだから。」


 「まだ美零さんは気にしてたの?俺は今この生活をすごい楽しいと思ってるよ」


 「大翔君は優しいからそう言ってくれるけど、本当は私なんかが大翔君とこうして毎日会うことだって許されないことだから」


 うつむいている美零さんの顔を見ると、初めて会った時と同じような暗い表情をしていた。


 そんなことはない。と言おうと思った。だが、美零さんの思いは大翔の想像以上に強く、軽々しく口にしてはいけないと思った。


 「。」


 「私がいなければあんな事件は起きなかった。私がいなければ大翔君はこんなところに来なくてかった。私がいなければ大翔君がこんな思いをしなくて済んだ。私が大翔君の大切な高校生活を壊した。全部私のせい。プレゼントを贈ったところで、何も変わらないことはわかってる。私が許されることはなくても、こんなことでも私にできることは何でもしてあげたいから。」


 最後の方は少し涙目になりながら、美零さんは贖罪をするように話していた。


 「何言ってるの」


 思ってもないことを勝手に美零さんが思いこんでることに、美零さんが自分を責めることに、少し頭に来た。


 「俺はあの事件のことも、病院ここに来たことも後悔したことはないし、辛いと思ったことなんて1度もない!普通の高校生じゃ絶対に経験できないことをいっぱい経験することができた。あの時に美零さんを助けたから!」


 今までため込んできた感情が一気にあふれ出していく。だが、それを止める気はない。


 「ここに来なかったら美零さんにも藤咲さんにも会うことができなかった。俺は美零さんに会えてよかったと思ってる」

 

 勢いに美零さんが少し驚いているが、そんなことは今は関係ない。


 「全部美零さんのおかげです!」


 言い切ったぞ。自分でも途中からなんて言ってたか覚えてないけど伝えたいことは全部言ったはずだ。


 自分の気持ちをすべて言い切ったあと、美零さんの表情を確認すると、今にも泣きだしそうだった瞳から、涙がこぼれていた。


 暗かった顔を明るくするはずが、完全に泣かせてしまったため、完全にパニック状態になった。


 もしかして、言い過ぎた?もしかして、俺がとどめを刺しちゃった?


 「ごめ、んね」


 「謝らなくていいよ。美零さんには俺も助けられてるから」


 泣いているのでよくは見えないが、その泣き顔は少し笑っているようにも見えた。


 それからしばらく、美零さんが泣き止むまで勝手にあたふたしていると、ようやくみれいさんが笑ってくれるようになった。


 「ごめんね。気を使わせちゃって」


 「気なんか使ってないよ。俺が言ったことは全部本当のことだから」


 「やっぱり大翔君は優しいね。本当に、ありがとう」


 「そんなことないよ。泣いてる美零さんより、笑ってる美零さんの方がいいから」


 さっきまで泣いていたせいで、まだ少し目尻が赤いが、やはり美零さんの笑顔は最強だ。


 そこから、少し話をしていると、窓の外はだいぶ暗くなっていた。美零さんがそろそろ帰ると言っていたが、これから彼氏と会うことはないと思う。いや、そうであってほしい。


 「ふふっ。今日は本当にありがとうね。せっかくのクリスマスがこんなになっちゃって」


 「気にしないで。来てくれるだけでもうれしいから。あと、プレゼントありがとう。退院したら絶対お返しするから」


 「あんまり頑張りすぎないでね。それじゃ。また明日」


 「そうだ。大翔君」


 「どうしたの。何か忘れもの」


 ドアを開けた音がしたのでもう帰ったのかと思ったが、美零さんはドアに背を向け、こちらを見ていた。


 あれ既視感デジャヴだ。前にもこんなことがあったような。


 美零さんの顔は前と同じく少し赤くなっているように見える。


 「私も...私も大翔君に会えてよかったと思ってるよ」


 そういって美零さんは駆け足気味に帰ってしまった。


 え、あんなの卑怯でしょ。あんなこと言われたら誰だって好きになるわぁ!!



【あとがき】

 今回、いつもの2倍ほどの長さになってしまってすいませんでした。そのせいで、登校時間もだいぶ遅くなってしまいました。

 今回は、途中で二人が言いあう場面がありましたが、今までそんなに熱がこもってる表現をしたことがなかったので、何か変だなと思うところがあったら、指摘してくれると嬉しいです。

 コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。


 

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