第15話 天然小悪魔

 「ヤッホー!!」


 すごい勢いでドアを開け、藤咲さんが部屋に入ってきた。


 先生が帰ってしまったので、特にやることもなくボーっとしていた大翔は、藤咲さんの突然の入室に驚いた。


 「はあ。またサボりに来たんですか。入るときはもっと静かにしてくださいよ」


 「ごめんごめん。これからは気を付けるよ。ていうか今回はサボりじゃないし。あれ?これ千羽鶴?綺麗だねー」


 一応謝ってはいるが、中身が全くこもっていない。一ミリも反省していないようだ。


 「さっき先生が来て、もらったんですよ。クラスのみんなが折ってくれたみたいで」


 「そっかー。よかったね。千羽鶴もらってる人はたまに見るけどこんなに立派なのは珍しいよ」


 「そうなんですか。シンプル見嬉しいです。それで、サボりじゃないって言ってたけど、何しに来たんですか」


 「そうだった。はい、これ。クリスマスツリーです」


 藤咲さんはそういって、体の後ろに隠していた30センチほどの、可愛らしいクリスマスツリーを窓際に置いた。


 「おお。ありがとうございます」


 「薄い!もっと喜んでよー。感情込めて」


 「いや、普通にうれしいですけど、エントランスにあったすっごいでかいツリー見た後なんで、どうしても」


 今日の朝、美零さんが来ないということを知ったことで、だいぶへこんでいたので、気を紛らわせるために、院内を散歩していたのだ。


 その時に、エントランスに、かなり大きなツリーを見た。


 「それなら仕方ないね。あれは私たちの自信作だから」


 「あれ藤咲さんが作ったんですか」


 「倉庫にあったのを昨日の夜に持ってきたんだよ。あれすごい大きいから、組み立てとか、飾り付けにすっごい時間かかって大変だったんだよ」


 「いつの間にかできてると思ったら、夜にやってたんですか。看護師も大変ですね」


 「ああいうのは若手の仕事だからねー。まあ、案外楽しかったけど」


 肩を回してアピールしてくる藤咲さんは、なぜかそのまま椅子に座りだした。


 「結局サボりじゃないですか。よくばれないですね」


 「私も疲れてるんだよー。ていうか大翔君はそんなに私が部屋にいるの嫌なの」


 少し悲しそうにこちらを見てくる藤咲さんは、さっきまでのだらしなさはどこへやら、急にお姉さんらしくなった。


 この人は狙ってこれをやってるの?そうは見えないけど、急にお姉さんモードに入ってくるのはずるい。


 「そ、そういうわけじゃないですよ。むしろ藤咲さんと話すのは楽しいですから、うれしいくらいです」


 「わかった!これからも大翔君の話し相手になってあげるね」


 悲しそうな顔から一転、ニコニコとしだした藤咲さんが小悪魔に見えた。


 「はあ。藤咲さんって実は頭いいんですか。それともただの天然なんですか」


 「私はずっと優等生だよー。冷静沈着、しっかり者の副会長で有名だったんだから」


 絶対嘘だ。やっぱりこの人は天然みたいだな。


 「昔のことを自慢しても悲しいだけですよ。今は仕事場で浮いてる悲しい看護師じゃないですか」


 「失礼な!大翔君の私に対する態度最近ひどくない!そんなんじゃ彼女さんに嫌われちゃよ」


 「何回も言ってるけど、美零さんは彼女じゃありません」


 「でも、今日はまだ来てないみたいだから、嫌われちゃったんじゃないの」


 「違います。今日は用事があるらしいですけど、そんなことは、な、無いと思います」


 「へー、クリスマスイブに用事かー。大翔君。ドンマイ!」


 「何がドンマイですか!美零さんだって用事の一つくらいあってもなにもおかしくないでしょ。それがイブだって!」


 そうだ。美零さんが用事でこれなくなること自体はそこまで問題ではない。むしろ、今まで毎日来てくれてた方がおかしい。


 だが、今日はクリスマスイブ。そんな日に用事があるということは、理由は聞かずともわかる。


 


 先程はただ強がっだけだ。一応美零さんはいないと言っていたが、それが本当である確証はない。だから今日は朝から少しテンションが低い。


 あまり考えないようにしていたけど、その可能性は十分にあり得る。あんなにかわいい人を、世の男が見逃すわけない。


 もし明日も来れなくなった。などというメールが来たら、軽く死ねる。


 「大翔君。君はいい子だからほかにもいい人はいるはずだよ」


 「余計なお世話です。ていうか俺にさんざん言ってますけど、藤咲さんはクリスマス用事ないんですか」


 「そりゃもちろんあるよー」


 「え、もしかして彼氏ですか⁉いつの間に」


 「いやー、彼氏じゃないんだけどね。男の子と会う予定だよ」


 藤咲さんに彼氏ができていたのは予想外の出来事だった。


 「どんな人なんですか」


 「お、興味津々だな。えっとねー。年下で、いつも私と楽しく話してくれるような、優しい人だよ」


 だれだ。俺が知っている中で、今の条件が当てはまりそうな人はいない。院外の人間か!?


 当てはまりそうな人を考えていると、藤咲さんがくすくすと笑いだした。


 「あはは。何真剣に考えてるの。私が言ったことよーく思い出してみな。大翔君のよく知ってる人だよ」


 「え、年下、いつも話している、優しい...」


 「本当に君は面白いなー。いいよ、特別に教えてあげるよ」


 「本当ですか」


 そういって藤咲さんは近くに来るように手を招いてきた。そして、耳打ちをするように、顔を近づけてきた。


 過去最大級の女の人との急接近に、大翔は固まってしまう。


 「き・み・だ・よ」


 「は?」


 「だから言ったじゃん。大翔君。君だよ」


 「ふざけんな――――――――!!!」


 「ちょ、静かに。声がでかいよ」


 「どういうことですか。ふざけないでください」


 「私は嘘ついてないよ。だって私が明日仕事ないなんて一言も言ってないじゃん」


 静かにしろって言ってきたのに、藤咲さんだって、結構おっきい声で笑ってんじゃん。


 確かに。藤咲さんはそんなこと一言も言ってなかった。完全にはめられた。確かに、藤咲さんが明日も仕事が入っているなら、会うことになるから、嘘は言ってない。


 「はあ。ってことは、藤咲さんもクリぼっちなんですね」


 「だから言ったじゃん。大翔君に会う予定だって」


 「そうですね。明日もお仕事頑張ってください」


 「ごめんって。大翔君の反応が面白いからちょっと意地悪しちゃったんだ。これからはほどほどにするよ」


 やっぱりこの人は反省という言葉を知らないみたいだ。


 「もういいでしょう。そろそろ仕事に戻ったらどうですか。」


 「本当だ。いい感じに休み時間使えてよかった。楽しかったよ」


 最後に藤咲さんは天使のような笑顔を残して仕事に戻って行った。


 「はあ」


 藤咲さんが部屋に来るといつも疲れてる気がする。ああいう悪ふざけは本当に心臓に悪い。


 ていうか、藤咲さんって俺のことあんなふうに思ってたのか。


 改めて思い出すと恥ずかしくなってきた。自分にももしかしたら可能性があるのではないかと思ってしまい、その後は、何も手が付かなくなった。


 はあ。藤咲さんってやっぱり天然小悪魔だ。



【あとがき】

完全に僕の問題なんですが、最近パソコンの調子が悪くて、1つ1つの話を投稿するまでに時間がかかってしまってます。すいません!ですが、それでも頑張って目標を達成できるように頑張ります。

コメント、フォロー待ってます。作品を評価してくれると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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