第14話 前日

 「あなたはあのの天音美零さんですよね」


 「・・・はい。そうです」


 「やっぱりそうでしたか。何度か雑誌で見たことがあるので気が付きました」


 「そうですか。それで、用事はそれだけですか」


 あんまり戻るのが遅くなると大翔君が探しに来るかもしれない。早くこの話を終わらせないと。


 「いえ、もう一つ聞きたいことがあって、天音さん。あなたがモデルだってことをどうして大翔君に隠してるんですか」


 「・・・どうして、私が大翔君に隠してることを思うのですか」


 「さっきも言いましたけど、大翔君から天音さんの話はよく聞くんです。でも、あなたがモデルをやってるなんてことは聞いたことがなかったので」


 「・・・」


 「隠すようなことじゃないと思うんですが、どうして大翔君に言わないのかが、少し気になって」


 いつかばれてしまう日が来ることはわかっていた。だけど、今はまだ、大翔君にだけは知ってほしくない。


 「確かに普通は私がモデルだということを大翔君に隠す必要はないかもしれません。でも、私はですから」


 「嘘つき、ですか」


 「はい。理由は言えませんが、せめて大翔君が退院するまでは、知られたくないんです。だから私から言う気はないです」


 「そうですか」


 モデルであることを大翔君が知ってしまえば、そこからさらに美零の嘘がばれてしまうかもしれない。それだけは防がなければいけない。


 「ですからお願いします。藤咲さん。このことは大翔君には内緒にしてくれませんか」


 「誰にだって言いたくないことはあることはわかってます。わかりました。大翔君には絶対に言いません。約束します」


 「ありがとうございます。では、そろそろ戻らないといけないので」


 「時間を取ってすいませんでした」


 少し戻るのが遅くなってしまったので、怪しまれているかもしれないと思ったが、大翔君に変わった様子はなかったので、ひとまず安心することができた。


 本当はもう少し病院にいる気だったのだが、藤咲さんとの会話が忘れられず、大翔君にはまた嘘をついて早く帰ることにした。


 帰り道、ずっと藤咲さんのことを考えていた。


 藤咲さんにばれちゃったけど、大翔君も憎まれ口をたたいてたけど、いい人だって言ってたし、少ししか話してないけど、約束を破るような人には思えないから大丈夫かな。


  いつまで考えていても仕方がないと。今は藤咲さんのことを信じるしかない。


 「はぁ~。今日はなんか疲れちゃったな」


 ため息をつき、大通りを歩いていると、空から雪が降ってきた。


 そういえばもうすぐクリスマスだった。だからカップルが多いのか。クリスマスは明後日。大通りは、若いカップルたちで埋め尽くされていた。


 駅に向かって歩いていると、突然大通りの木々がカラフルにライトアップされだした。


 周囲のカップルたちは足を止め、『きれい』『すごい』などと、ざわざわしだした。


 目に映るのは、美しくライトアップされた木々と、ひらひらと降る雪。楽しそうに手をつなぎながら歩くカップルたち。


 そういえば、大翔君にクリスマスプレゼントあげようと思ってたんだけど。なにをわたそうかな。男の子にプレゼントなんてしたことないから、なにを渡せばいいのかわからないな。


 本当は今日の帰りにでも買っていこうと思っていたけど、こうも場違いだと店にも少し入りづらい気がする。


 今日はあきらめて明日にすることに決め、足早に駅に向かうことにした。


 「あれ、美零。どうしてこんなところにいるの」



 いつも通り携帯のアラームで目を覚ます。アラームを止めようと手を伸ばし、スマホの画面を見る。


 本当にいつも通りの朝だな。もはや、目をつぶっても朝の支度をできる気がする。


 あれ、美零さんからLINE来てる。何だろう。


 アプリを起動させ、昨日の夜遅くに来ていたメールの内容を見る。朝からいきなり大きなショックを受けた。


 『夜遅くにごめん!明日のことなんだけど、急に用事が出来て、お見舞いに行けなくなっちゃった。ごめん(。-人-。) 』


 唯一の楽しみがなくなった。


 『用事があるなら仕方ないです。次に来てくれる日を楽しみにしてます!』


 心の中で泣きながらメールを送信する。


 だが、今日は先生と母が来ることになっている。意外と忙しい。


 昨日言われた通り、お昼前に母が来たが、それ以外特に何事もなく半日が過ぎて行った。


 お昼ご飯を食べ、勉強をしながら3時過ぎに来るという先生を待っていると、ドアをノックされた。


 「おーい。大翔ー入っていいか」


 「入っていいですよー」


 入ってきたのは担任兼部活の顧問である山内やまうち先生だった。


 「いやー久しぶりだな大翔。本当はもっと早く来るつもりだったんだけど、学期末は何かと忙しくな。来るのがだいぶ遅くなった」


 「全然大丈夫ですよ。蒼汰たちも何回か来てくれたし」


 「そういえば試合の後に行くって言ってたな」


 山内先生はまだ25歳と若く、その明るい性格もあって、生徒たちととても仲がいい。


 普段は優しい先生だが、部活の時や、行事ごとにはとても熱くなるいい先生だ。


 「はい。これクラスのみんなで折った千羽鶴。綺麗だろ」


 「おお。すげえ。ありがとうございます。あとでクラスのみんなにもメールしときます」


 その後は、プリントや通知表などを大量に渡された。もらうものをもらった後は、学校のことや、部活のこと、病院のことなど、いろいろな話をした。


 「おっと、そろそろ戻んないと部活が終わっちゃうな。そろそろ戻んないと」


 「そうですか。今日はわざわざ来てくれてありがとうございました」


 「気にすんな。ずっと気になってたけど元気そうでよかった」


 「俺も久しぶりに先生と話せて楽しかったです」


 「あ、そうだ。大翔に聞きたいんだけどってここにきてるか」


 「え?は、はい。今日は用事があるって言ってましたけど、毎日お見舞いに来てくれますよ。ていうか、なんで先生が美零さんのこと知ってるんですか」


 先生の口から、美零さんの名前が出てきたことに驚いた。


 「え、ああ、そうか。まあいろいろあってな。親御さんから聞いたんだ」


 俺の親が先生と何話してるんだろう。


 「そうですか。美零さんに言いたいことがあるなら代わりに言っときましょか」


 「いや、大丈夫。そうだ、冬休み明ける前にまた来るよ」


 「わかりました。部活のみんなにもよろしくお願いします」


 「おう。じゃあなー」


 久しぶりに先生と話せて楽しかったな。でも、今日は美零さんが来ないのが残念だ。



【あとがき】

12月の23~25くらいの都会のリア充率半端ないですよね。話に全く関係ありませんが、今回の話を作っているとき、クリスマスの時期に男友達10人くらいでイルミネーションを見に行って、雰囲気をぶち壊したのを思い出しました。変な視線をいっぱい受けましたが、楽しかったです(笑) 

コメント、フォロー待ってます!最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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