第6話 メール

 天音さんが帰ってから少しして、母が病室にやってきた。昨日メールをしたおかげで、いろいろな暇つぶしグッズを持ってきてくれた。


 「そういえば、そろそろ病院食にも飽きてくると思って、大翔の好きな抹茶のお菓子持ってきたよ」


 カバンの中から天音さんとさっき食べたものと同じ、抹茶のモンブランを持ってきた。


 「そういえばさ、さっき天音さんが来てくれたんだけど、その時にいっぱいお菓子持ってきてくれたから、今はおなかすいてないんだよね」


 天音さんからもらった、たくさんのお菓子を母に見せる。


 「美零ちゃん来てたんだ。それもこんなにたくさんお菓子を持って。ちゃんとお礼したの」


 「美零ちゃん?母さんって天音さんに会ったことあるの」


 「言ってなかったっけ。事故が起きた日の夜に、お父さんと病院に来て、先生の話が終わった後に会ったのよね」


 「なんでそんな大事なこと黙ってるの。ていうかなに話したの」


 「美零ちゃんずっと謝ってたんだけど、私もお父さんも美零ちゃんが悪くないのわかってたから、そんなに謝らないでって言ったんだ。それでも自分を責めてるみたいだったから、ちょっと気にしてたのよね」


 天音さんがそんなに事件のことを気にしていたなんて知らなかった。確かに初日はずっと謝って来たけど、昨日,今日はそんな初日ほどではなかったけどな。


 天音さんもいろいろなこと考えてくれてたみたいなのに、初対面の時の俺は何をしてたんだ。


 改めて初めて会った時のことを思い出すと、すごい失礼なことをしてたな。今度謝ろう。


 「それにしてもこんなにたくさんお菓子を持ってきてくれるなんて、美零ちゃんはやっぱりいい子みたいねー」


 「さっきから気になってたんだけど美零ちゃんってなに」


 「美零ちゃんは美零ちゃんよ」


 「そういうことを言ってるんじゃなくて、なんでそんなに仲良くなってんの」


 「勝手に呼んでるだけよ。まぁあの日に美零ちゃんが落ち着いてから少し話したんだけど、しっかりしてる子よね。大翔も1年後にはあれくらいしっかりした子になってくれるように頑張って」


 それから特に変わったことはなく、病院生活には慣れたか、俺がいないうちに家ではこんなことがあった、という普通の話を1時間くらいして母は帰っていった。


 そのあとすぐにお昼ご飯を食べ、学校の先生から出されていた課題を進めることにした。


 課題を始めてから1時間ほどして、勉強にも飽きてたので、母の持ってきてくれたゲームで遊んでいると、スマホの着信が鳴りだした。


 着信先は、同じサッカー部で、クラスメイトでもある、滝波蒼汰たきなみそうたからだった。


 「おーい大翔。今病院の入口のとこいるんだけどなんて言って入ればいい」


 「なんていうって、俺もよくわかんねーけど、言われたらその通りにすればいいんじゃないの」


 「そっか、分かった。あ、そうだ部屋番号おしえて」


 部屋番号を教えるとすぐに蒼汰は来た。蒼汰以外にも、同じ部活の仲間が4人も来た。


 「急に来んなよ。メールくらいしろ」


 「一昨日したわ!お前が見てないだけだろ」


 「あー、そういえば見たような気がしなくもない」


 入院をしてから学校の友達から、同じような内容のメールが大量に来たため、最後の方はほとんど流し読みだった。


 「ていうか、電話の時なんかうるせーと思ったらこんなに来たのかよ。」


 「別にいいじゃん。オフなのにわざわざ来てやったんだから」


 「お前らどうせ東京こっちに遊びに来たついでだろ」


 「そんなことどーでもいいだろ。心配してたのは本当だし」


 「はぁ。来たんなら仕方ないけど個室だからってあんまうるさくすんなよ。結構隣に声聞こえんだからな」


 それからは最近の部活の様子や、学校でのことを聞いたり、一緒にゲームをして遊んだ。1時間ほどしてから、映画の時間がもうすぐだと言って、帰って行った。予想通りここに寄ったのは、ついでらしい。


 帰る前に『明日は近くで試合があるから、また何人か寄りに来る。』と言われたので、迷惑だからやめてくれと全力で言った。


 蒼汰たちが帰ってからは、夜ご飯の時間になるまで、再び課題を進めた。


 ご飯を食べた後、消灯時間までにスマホをいじっていると、天音さんからLINEが来た。


 『今日はいっぱい話せって楽しかったよ(≧∇≦)明日は2時くらいに行こうと思ってるんだけど、大翔君は大丈夫?』


 突然のこと過ぎて一瞬、夢でも見てるのではないかと思ったが、何度目をこすっても、天音さんからのメールが届いていることに変わりはなかった。


 天音さんからのメール!それに、いつもと違う口調。こっちが天音さんの普通なのかな。ていうか大翔君って!いつもは内田さんなのに大翔君って!!!


 天音さんからのメールにしばらく舞い上がっていたが、よく考えてみると、女の人からメールが来るなんて久しぶりすぎて、なんて返せばいいかわからない。


 そこからさらに天音さんへの返信に悩んでいると、消灯時間をとっくに過ぎていたので、考えた中で1番無難な返信をすることにした。


 『俺もすっごい楽しかったです!特に予定はないので大丈夫ですよ。楽しみにしてます。』


 メールを送った後すぐに寝ようとしたが、天音さんに送ったメールの内容が普通すぎないか心配になって、その日大翔は、ほとんど眠れなかった。




 『了解です!私も今からすっごい楽しみだよ!』




【あとがき】

今回は大翔の母が登場しました。一応40代半ばという設定なんですが、40代の女性の口調ってどんなんだっけ。と、途中から思って、あとがきを書いている今も、本当にこれであっているのかがわからなくてとても心配です(笑)

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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