第5話 スイーツパーティー

 「あの、天音美零です。内田さんはいますか」


 藤咲さんがトレーを回収しに来たのだと思ったが、天音さんが来たことに驚き、すごい勢いで机に手をぶつけてしまった。


 「は、はい。入っていいですよ」


 読もうとしていた雑誌を引き出しにしまい、何事もなかったようにベットの上に戻る。


 「突然すいません。こんなに早い時間に来ちゃって。それとさっきすごい音がしましたけど大丈夫ですか」


 「一日中暇なんでいつでも大丈夫ですよ。さっきの音は少し手をぶつけただけなんで気にしないでください」


 「そうですか。気を付けてくださいね」


 今日の天音さんは昨日の大人っぽい格好とは違って、黒スキニーにベージュのパーカーという、ラフな格好だった。


 本当にかわいい人は何着ても似合うんだなと改めて思うと同時に、病院服を着てる自分が恥ずかしくなってくる。


 「こんな時間に来たってことはこの後なにか予定があるんですか?」


 「そ、そうです。このあと予定があるんですけどそれが夜遅くまでかかりそうで、この時間に来ました」


 気のせいかもしれないが昨日より歯切れが悪いような気がする。もしかしたらあまり聞いてはいけないことだったのかもしれない。


 「そうなんですか。それなら無理してこなくても大丈夫ですよ」


 「いえ、毎日来ます。そうだ。今日みたいに急に来られると困ることもあると思うんで、もしよかったらLINE交換してくれませんか」


 携帯を両手で祈るように持ちながら上目づかいでそう聞いてくる天音さんの破壊力はものすごい。こちらとしては願ってもない申し出だ。


 「いいんですか!!あ、いや、そうですよね。来る時間とか分かった方がいいですもんね」


 予想外すぎてものすごい食い気味になってしまった。キモいとか思われたらどうしよう。


 幸いなことに、天音さんの表情に変化はなかった。お互いの連絡先を交換し、男友達しかいなかった連絡先の中に天音さんがいることにいまだに実感がわかない。


 「よかった。これで連絡が取れるようになりましたね」


 にこにこ笑いながら、そんなことを言っている天音さんを見ていまにも昇天しそうなる。


 勝手に喜んでいる大翔の横で天音さんはなにやらカバンの中から紙袋を取り出した。


 そして、取り出した袋の中から、お菓子やデザートなどをたくさん取り出し、机の上に並べた。


 「す、すごい。おいしそうなもので机が埋め尽くされた。こんなにどうしたんですか」


 「せっかくお見舞いに行くんだから何か持ってかないとって思ったんですけど、昨日は内田さんの好物を聞き忘れちゃったので、たくさん持ってきました」


 「それでこんなに、わざわざありがとうございます」


 「病院食だけだと飽きちゃうかもしれないしたまには甘いものも食べたくなると思ってたんですけど、さすがに多すぎましたね。あの、もしかして甘いもの苦手でしたか」


 そういって、少し心配そうに大翔を見てくる天音さんの上目遣いは、反則級の可愛さだった。


 正直大量のお菓子には驚いたが、甘いものは好きだし病院の中では食べられるものも限られてくるのでかなりうれしかった。


 「いやー、ちょうど甘いもの食べたいと思ってたんですよ。ありがとうございます。せっかくですし一緒に食べませんか」


 「そうですね。内田さんは何を食べたいですか」


 「じゃあ、抹茶のモンブランで。あ、先に選んじゃってすいません」


 「私のことは気にしないでください。もともと内田さんに買ってきたものなんですから」


 天音さんは抹茶のバウムクーヘンを取った。それからしばらく、天音さんが持ってきたものを食べながら、他愛のない会話をしていた。以外と自然に会話ができている自分に驚いた。


 途中、藤咲さんがトレーを回収しに入ってた時に、机を埋め尽くすほどのスイーツを見て、とても強烈な視線を送られた。


 「もしかして内田さんって抹茶が好きなんですか」


 モンブランを食べ終わり、次も抹茶のスイーツを選ぼうとすると、天音さんにそんなことを聞かれた。


 「小さいころは苦手だったんですけど、最近はすごいはまってるんですよね」


 「そうなんですか。私も抹茶好きなんですよね。中学の修学旅行で京都に行ったんですけど、そこで初めて食べて以来ずっとです」


 「俺も修学旅行京都だったけど、そのときはまだ苦手だったから、食べなかったんですよね。本場の抹茶食べてみたいんですけど、なかなか行けなくて」


 「それなら、内田さんが歩けるようになったら、退院祝いに京都一緒に行きませんか」


 え、いまなんて言った?一緒に京都?嘘だろ。


 突然の提案に一瞬固待ってしまった。


 「あ、私となんて嫌ですよね。勝手なこと言ってごめんなさい」


 「行きましょう。京都!」


 体全体を使ってアピールする。今なら右足も動く気がする。こんなチャンスを逃すことは男として絶対に許されない。


 「そ、そんなに行きたかったとは。じゃあ約束ですよ?リハビリ頑張ってくださいね」


 「はい!こんな怪我一日で直してやりますよ」


 天音さんのおかげでリハビリのモチベーションがとても上がった。今から楽しみで仕方がない。


 それからも、ずいぶん長い間二人で話していると、大翔の母親がもうすぐ来るというメールが来た。


 「もうこんな時間ですね。内田さんのお母さんも来るみたいなので、私はそろそろ帰りますね」


 「楽しかったのでつい話しすぎました。この後の用事には間に合いますか」


 「えーと、、、あ!さっき時間を遅くするっていうメール来たので大丈夫です。そういえば昨日ここに雑誌忘れてませんでしたか」


 会話に夢中になり、天音さんに言われるまで雑誌のことは忘れていた。


 「そうだった。今日渡そうと思ってたんですけど、忘れてました」


 引き出しから雑誌を取り出し、天音さんに渡す。


 「あの、内田さんこの雑誌読みましたか」


 「いえ、見てないですけど」


 大翔の言葉を聞いて、天音さんは安心したような表情をしていた。


 「そうですか。これからは忘れものに気を付けますね。では、失礼しました」


 「今日はありがとうございました。すごい楽しかったです。」


 それにしてもあの雑誌は何だったんだろう。読まなくて正解っぽかったけど。まあそんなことどうでもいいか。今は京都のことしか考えられない。


 怪我を早く治すために今からできることをしようと、トレーニングを始めた大翔だったが、すぐに藤咲さんに見つかり、それから部屋の監視が厳しくなった。



【あとがき】

 今回の題名がなかなか思い浮かばなくてメルヘンな感じになっちゃいました。(笑)

それと、これから少し投稿頻度が下がっちゃうかもしれませんが、読んでくれると嬉しいです。コメント、フォロー待ってます。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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