デートにトラブルってお約束なのか?(栄吾)

第7話-① タイトル案募集中:西辻栄吾

 電車を降りて人通りの多い駅構内へ出る。人と人との隙間を縫うようにして通路の脇を通る。はぐれないように、今度は俺から手を繋いだ。芽衣が驚いていたけれど、最初に驚かせてきたのはそっちなんだからお互い様だ。


「手、離すなよ」

「……はい」


 とはいえ恥ずかしさがあることも確かなので、突き放すように言うことしかできなかった。情けない。

 芽衣の手を引いて暫く歩いていると、急に芽衣が立ち止まった。そのまま不満そうな視線を少し後ろから感じる。じー……という効果音まで聞こえてきそうだ。


「…………」

「あの、芽衣さん?」

「栄吾君、歩くの速いです」

「え、あ……すまん」


 どうやら無意識のうちに歩みを速めていたようだ。歩幅の差的に芽衣は歩きづらかかったようだ。申し訳ないことをした。


「別に怒ってはないのですけど……こうすればいいだけですしっ」


 芽衣はそう言うやいなや俺の右腕にぎゅっとしがみついてきた。親子連れや高齢の方々から微笑ましい視線を向けられる一方で、周囲の独身と思われる男性たちからは恨みや嫉妬の込められた視線を向けられる。これ、刺されるんじゃないか?

 ただまぁ、芽衣は幸せそうなので刺されてもいいか(よくない)。少し照れたように顔を赤らめて「えへへ……」と含羞む芽衣が輝いて見えた。


「こうすれば栄吾君も速くは歩けないでしょう?」

「いや、まぁそうなんですが……」


 語尾を濁す俺を見て、芽衣が首を傾げる。だがその理由を口にすることはできない。口が裂けてもなどとは言えない。というか芽衣は気づいていないんだろうか。

 いや落ち着け、意識したら負けだ。意識しない意識しない意識しない…………

 しかし、こういう時に限って感覚は研ぎ澄まされるわけで……


(柔らかいし暖かいし何か甘い匂いするし……っ)


 腕に当たる柔らかく幸せな感触に、俺の理性は崩壊寸前、思考はショート寸前だった。それなのに、芽衣は「どうしたんですか?」と心配そうな声を上げてより密着してくる始末。耐えろ、俺の理性。


「いや、何でもないよ」

「それならいいのですけど……体調悪いなら言ってくださいね? 栄吾君、無茶しそうですから」

「ん、ありがと」

「別にいいのです」


 芽衣が嬉しそうに微笑んだ。だからその笑顔は本当に心臓に悪いんだよ。心臓が口から出てきそうで、別の意味で体調が狂いかねない。というか鼓動が芽衣にまで聞こえていないか不安になってくる。


「じ、じゃあ行こうか」

「はいっ♪」


 独身男子の羨望の眼差しを華麗にスルーして駅を出る。外に出た途端集合した時よりも高く昇っている太陽が容赦なく照りつけてきた。眩しい。


(暑いな……)


 早くも額に浮かび始めた汗を拭っていると、突然頭の上に何かがポスッと乗せられた。直後に「ちょっと屈んでください」という指示が聞こえたのでおとなしく従うと、頭上の物をぽんぽんっと抑える感覚がした。


「芽衣?」

「熱中症対策です。今日は気温が高くなると天気予報でやっていたので持ってきました」


 そう言われてようやく頭の上に乗せられたのが帽子であったことを理解する。触った感覚的にはキャップだろうか。

 いや、しかし何故芽衣が帽子を……?


「いや、それはありがたいんだけど……何で俺のまで?」

「何故って、どうせ栄吾君は持ってこないだろうなと思いまして」


 俺のことをよく分かっていらっしゃる。確かに今日は晴れになるということしか確認してこなかった。成程、今後は気温のことにまで注意を払うとしよう。

 一人で勝手にそう決めてから芽衣の方を振り返ると、彼女もちょうど水色の爽やかなキャップを被るところだった。普段メイド服姿しか見ていない分、こういう格好は新鮮だ。可愛い、よりもかっこいいに近いな。

 それよりも、爽やかな女子って……いいな。

 そんな煩悩まみれなことを考えていると、芽衣は少しだけ真面目な顔になってこう言った。


「言っておきますけど、それだけが理由ではないですからね?」

「……へ?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。帽子って大抵熱中症予防のためだろう。他の用途なんてそうそうないはずだ。


「やっぱり分かってなかったのですね……」


 芽衣の若干呆れたような視線が痛い。条件反射で謝ると、「別に怒ってはいませんっ」という焦りを含んだ声が返ってきた。しかし芽衣はすぐに「ですが」と前置きをしてから言った。


「一応多少なりとも変装は必要でしょう」

「変装……?」

「私たちの関係が当主様に知られているとはいえ、クラスメイトが知っているとは限らないのです。それこそ今日見られて蒼真様や真白様に告げられたら……」

「あぁ、そういうことね」

「帽子だけでも、意外と雰囲気って変わるのですよ?」


 さすがは芽衣、よく考えていらっしゃる。というか普通こういうのは男側の役割な気がするんだけど……彼氏としての自信、なくすなぁ。

 俺が落ち込んだのが分かったのかはたまた別の理由か、芽衣がくいっと俺の袖を引っ張ってきた。


「ん?」

「理由、まだありますよ」

「……え?」


 いやいやご冗談を。熱中症対策、変装。これ以外に何の用途があるというのか。直後、俺はそう思った自分を全力で殴りたくなった。


「栄吾君のと私の帽子、同じやつなんです」


 ふむ、成程。この時、俺の脳は既にショートしてしまっていたのかもしれない。

 芽衣さんや、つまりどういうことかな?

 芽衣は今日の日差しにも負けないくらいの眩しい笑みを浮かべた。直後、俺の耳元でこんな囁き声が聞こえてきた。


「お揃い…… “ペアルック” ですね♪」

「────っ!」

「え、栄吾君!?」


 あ、これ可愛いやつだ。

 そう思ったのを最後に俺の意識は暗転した。


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[ペアルック できる彼女が いないんです(字余り)]

 作者、心の俳句


 はい、今回は栄吾君がただただヘタレってだけのお話でしたね。

 そんな訳(?)で、彼氏 / 彼女と一度でいいからペアルックやってみたいという方も、そんなん恥ずかしくてできるかい! って方も、どうぞ高評価をよろしくです。m(_ _)m


 この話のタイトルは未定です。

 これがいいんじゃないかって思った心優しいそこの貴方! 是非ともお教え頂けますと作者が喜びます。


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