第5話-② デート:東坂芽衣

 芽衣サイドのお話。


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これはデート二日前のお話になります。


「あの、蒼真様」

「ん、どうした?」


 蒼真様ならきっとお許し下さるだろう。頭ではそう理解していても、一抹の不安が残っているのも確かです。それ故に、私はおずおずとそう切り出しました。


「今週末、お休みを頂けないかと思いまして」

「あぁ、父さんが言っていたな」


 まさか当主様までご存知だったとは……。驚きましたが、おそらく如月幸成様から連絡が回っていたのでしょう。それにしても、本当に色々な方に知られているのですね……。少しだけ恥ずかしいです。


「本家から一人来てくれるらしいから僕は構わないよ」

「……ありがとうございますっ」


 お許しを頂けたことにほっとしつつ、頬がにやけそうになるのを必死に堪えます。周りに知られている以上、せめて蒼真様だけには隠し通したいのです。メイドの──いえ、これは乙女の意地というやつですね。


「ところで、何をする予定なんだ?」

「……ひゃい!?」


 思わず変な声が出てしまいました。そんな私を見て微かな笑みを浮かべながら蒼真様は言葉を続けました。


「いや、一人で行くのなら心配だよ。東坂だって女子高生なんだしさ」

「あの、その……同行者はいますので。ご心配ありがとうございます」


 まさか栄吾君とデートです、などと正直に言えるはずもなく、必死に言葉を濁す私でした。蒼真様の紳士的な一面が私を動揺させるとは。これは細心の注意を払う必要がありそうです。


「そうか、同行者がいるなら安心だね。それ以上はプライバシーもあるだろうし聞かないでおくよ」

「ありがとうございます」


 何とか助かったようです。もしかすると栄吾君も真白様から追及されているところかもしれませんね。あの性格ブ──いえ、お嬢様のことです。ちょっとやそっとのことでは栄吾君を解放することはないと思われます。頑張って下さい、栄吾君。

 そんなことを考えていたせいで、蒼真様の質問にすぐに反応できませんでした。


「そうだ、東坂。今日のの授業なんだけど……」

「えいっ……あ、英語ですか」

「東坂、大丈夫かい?」

「申し訳ありません、少し考え事をしていました」


 分かっています、英語、Englishですよね。栄吾君とは何の関係もありませんよね。これくらいで動揺する訳には……いえ、認めましょう。これは末期症状のようです。まさかここまで栄吾君のことで頭がいっぱいになってしまうとは、予想外でした。

 栄吾君も同じだと嬉しいんですけれど。


「失礼しました。英語の授業とのことですが」

「うん。今日の授業でやった長文がややこしくて」

「できる範囲であれば」

「ありがとう、助かるよ」


 私って本当に家庭教師なのでは?

 そんなことを思いながら英文に目を通す私でした。


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 そしてデート当日。

 何を着てくるか悩みに悩んだのですが、結局一番無難な白のワンピースを着ていくことにしました。栄吾君の好きな色は確か白だったはずです。

 メイドたるもの遅刻など許されません。余裕のある行動が原則……なのですが、まさか十五分前とは。さすがに早すぎましたかね。

 栄吾君が来るまで何をしていようか考えていると、集合場所に見覚えのある人影が。気づかれないように足音を立てずに近づくと、こんな声が聞こえてきました。


「少し早すぎたかな……」


 なるほど、少しからかってみますか。後ろに立ってそっと声をかけてみることにします。


「ほんとですよ。早めに家を出て正解でした」

「ごめん…………うぉっ!」


 栄吾君は予想以上の驚きを見せてくれました。ドッキリ大成功です。プラカードがあれば彼の目の前に出したい気分ですね。それにしても、些か驚きすぎでは?


「驚きすぎです」


 振り返った栄吾君は私を見て固まってしまいました。その目は私の服に釘付けになっています。まじまじと見つめられるとさすがに緊張するのですが、それよりも不安の方が大きくなります。


「やっぱり……変でしたか?」

「……へ?」


 栄吾君は黙っています。今日の服装は栄吾君の好みに合わなかったのでしょうか。

 と、我に返った栄吾君は堰を切ったように話し始めました。


「いやいや、凄い可愛いよ!」

「でも……黙っちゃいましたし」

「それは可愛すぎて見とれてたというか…………あ」


 嬉しいです。嬉しいですけど、大声で言うのは控えて欲しかったですね。休日の朝、駅前にはたくさんの人が訪れています。その方たちの視線を一身に受け止める形となってしまい、非常に恥ずかしいです。

 でも、栄吾君が似合っていると言ってくれたので良しとしましょう。


「その、嬉しいです。ありがとうございます」

「あ、あぁ」

「でも!ちょっと恥ずかしかったですけど!」

「……すみませんでした」


 素直に謝ってくれました。素直なのはいいことです。でも今の栄吾君は心ここに在らずといった感じなので、ちょっとだけ仕返しをしてみようと思います。

背伸びをして、栄吾君の耳元で囁きます。


「栄吾君も、かっこいいですよ♪」

「あ、ありがとう……」


 不意打ちは成功。栄吾君の顔が真っ赤に染まりました。満足です。


「それじゃあ、行きましょうか」

「おう」


 こうしてデートが始まりました。

まさかあんなことになるなんて、今の私はそんなこと思いもしませんでした。


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先日初めてレビューを頂きました。

ありがとうございます。m(_ _)m

メイド可愛いよねって方は高評価よろしくです!

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