第5話-① デート:西辻栄吾

 買い物デートから数日。毎日お嬢様の無茶振りに翻弄されながらも何とか一週間が経過した。そしてお待ちかねの週末デート当日がやってきた。


「服よし、髪型よし、時間よし……っと」


 集合指定時刻は午前九時なのだが、今日という日を楽しみにしていた俺は、その十五分前に駅前に到着していた。ちなみにデートプランは昨日までに考えてある。


「少し早すぎたかな……」

「ほんとですよ。早めに家を出て正解でした」

「ごめん…………うぉっ!」

「驚きすぎです」


 そりゃ急に後ろから声をかけられたら誰だって驚くだろう。振り返って文句を言おうとして、その言葉を飲み込んだ。

 何故かって? そんなの決まっている。集合場所に現れた俺の彼女が可愛すぎるからだ。

 至ってシンプルな白のワンピース。それが芽衣の魅力をより一層引き出していた。普段メイド服姿しか見ていないだけに、清楚な服装の芽衣が輝いて見えた。


「やっぱり……変でしたか?」

「……へ?」


 不安そうに尋ねてくる芽衣。それもそのはず、俺は芽衣の姿に見とれてしまい、何の感想も言っていなかったから。

 しゅんとする芽衣を見て慌てて感想を言う。


「いやいや、凄い可愛いよ!」

「でも……黙っちゃいましたし」

「それは可愛すぎて見とれてたというか…………あ」


 勢いでそう言ってしまってから、休日朝の駅前で大声でとんでもないことを叫んでしまったことに気がついた。周りから感じる視線に急激に顔が熱くなる。やらかした、芽衣の顔をまともに見ることができない。

 と、袖が引っ張られる感覚が。横を見ると、真っ赤な顔の芽衣が俯きながらこんなことを言ってきた。


「その、嬉しいです。ありがとうございます」

「あ、あぁ」

「でも!ちょっと恥ずかしかったですけど!」

「……すみませんでした」


 うん、全面的に俺が悪いのはわかっている。素直に謝るのが吉だろう。

 俺が謝ったのを確認した芽衣は、漸く笑みを浮かべてくれた。そしてなんと、爪先立ちになり俺の耳元に口を寄せ、こんなことを囁いてきた。


「栄吾君も、かっこいいですよ♪」

「あ、ありがとう……」


 芽衣、不意打ちはずるいぞ。


「それじゃあ、行きましょうか」

「おう」


 こうして俺と芽衣のデートが始まった訳なんだが……まさかあんなことになるなんて、この時の俺たちは知る由もなかった。











 *短めでごめんなさい*

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