第2話 メイド:東坂芽衣

 突然ですが、失礼を承知で皆様にお聞きしたいことがあります。

 皆様は“メイド”という職業に関して、どのような考えをお持ちなのでしょうか。


 曰く、ご主人様とメイドの恋っていいよな。

 曰く、俺もご奉仕されたいわー。

 曰く、巨乳メイドとかいたら最高じゃね?


 まぁ、様々なご意見があることは認めましょう。否定は致しません。ですが、敢えてこの場で言わせて頂きましょう。

 皆様の頭の中は空っぽのようですね。もっとマシなことを考えては如何でしょう、と。

 失礼しました、少々言葉が過ぎたようです。そもそも自己紹介がまだでしたね。

 私の名前は東坂芽衣。高校二年生、そしてメイドとしてとある御方に仕えています。

 故に、現役メイドとして一言言わせて頂きます。


 ご主人様とメイドの恋? バカバカしい、小説か何かの読み過ぎでは?バレたらクビなのです。

 奉仕されたい? ご冗談を、貴方は奉仕されるに足る何かをお持ちなのですか?

 巨乳メイド? 申し訳ありません、当方、皆様の望むような大きさを所有しておりません。期待に背いてしまい──いえ、正直に言わせて頂きます。ド変態の下衆どもが。


 ところで、私がお仕えしている御方ですが、その名を速水蒼真様。高校がある町のひとつ隣の町で、運送会社を経営している速水家の御嫡男です。蒼真様に仕え始めて今年で五年になりますが、蒼真様は非常に誠実で紳士的な御方です。

 どなたかのように下卑た考えも持たず非常に紳士的に接してくださるため、私としても安心してお仕えすることができています。


「あ、東坂」

「何でしょう」

「今日の授業で分からないところがあったんだけど、教えてくれるかな」

「承知致しました」

「ありがとう」


 こんな命令が続いているだけです。

 むしろ私の方がメイドとは何かを考え直す羽目になっています。メイドと言うよりは家庭教師に近いのではないか、最近はそんなことを考えています。


 私がメイドとして働き始めたのは、先程も述べた通り五年前。私の家系は代々メイド又は執事、家政婦(夫)として生計を立ててきました。小説のようだ、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、現実です。

 十二歳になった年の四月、速水家の当主である豪紀様が我が家にお越しになりました。そして私にこう仰ったのです。「息子の専属メイドとして働く気はあるか」と。それが我が家の生業だったので、断るという選択肢があるはずもなく、二つ返事で承諾しました。それ以来、私は速水蒼真様専属メイドとして働いています。

 友人にこれを話すと、「五年も一緒にいて好きになっちゃうとかないの?」と聞かれます。その答えは勿論NO。バレたら即クビなのです。そんな危険を冒す必要性なんて皆無でしょう?

 それに、私にはお付き合いしている人がいますので。


 西辻栄吾君、それが私の彼氏の名前です。

 ですが、私と彼の間には大きな壁が立ちはだかっています。何故なら栄吾君も執事だから。しかも速水家の永遠の商売敵である如月家の御息女、如月真白様の専属執事だからです。

 これが周囲にバレた場合、私たちがどうなってしまうのか。そんなこと考えたくもありません。

“絶対秘密”、これが私と栄吾君との交際に課せられた条件なのです。

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