執事な俺とメイドな彼女

とろけたチーズ

これがいつもの距離なのです(芽衣)

第1話 執事:西辻栄吾

 突然だが、これを読んでいる皆は“執事”という職業についてどのような意見をお持ちだろうか。


 曰く、執事とお嬢様との禁断の恋とか憧れる。

 曰く、毎日美少女の隣にいれるとか役得じゃん。

 曰く、一度でいいから燕尾服着てみたいわ。


 その他多くの意見があることだろう。勿論その意見が間違っているとは言わない。そう思うのは自由だ。だが今は、敢えてこう言わせてもらおう。

 どうやらお前らの頭の中はお花畑らしいな。平和で結構だ、と。

 いや、失礼。言葉が過ぎたかもしれない。そもそも自己紹介がまだだったな。

 俺の名前は西辻栄吾にしつじえいご。現役の高校生にして、とある家のお嬢様に仕えている執事だ。非現実的と嘲笑ってもらっても構わない、事実なんだからな。

 そのお嬢様というのが如月真白きさらぎましろ様。この町できさらぎ運送を経営する如月家の、正真正銘のお嬢様だ。如月家の歴史は古く、なんと二百年以上前から──って、まぁその説明は省かせてもらう。

 改めて、実際に執事として働いている俺から言わせてもらおう。


 執事とお嬢様との禁断の恋? バレたら即クビだ。そんな危険を冒すメリットがない。

 毎日美少女の隣? あぁ、確かに美少女だよ、性格以外はな。

 燕尾服? 他の奴がどう思っているか知らないが、ぶっちゃけアレ動きづらいだけだ。


 そもそも何で俺が執事をやってるか。それは軽く五年前まで遡る。当時まだ十二歳だった俺の家(代々執事として金を稼いできた)に、如月家の当主である幸成様から電話がかかってきた。曰く、娘と同年代の俺に執事として勤めてもらいたい。信じられるか?まだ十二歳だぞ。それでも俺の両親は俺の意見を無視して快く俺を送り出した。何せ地域で一、二を争う名家だ。それ相応の報酬が待っている。別に俺だって平均よりかなり多いお小遣いが貰えるんだから断る理由なんかない。こうして俺は真白お嬢様の専属執事になった。

 しかし、ホイホイ承諾していったのが間違いの始まりだったと、今なら自信を持ってそう言える。


「ねぇ、栄吾」

「……何でしょう、お嬢様」

「明日提出の課題やっておいて」

「お言葉ですが──」

「やって」

「…承知しました」


 こんな命令、まだ可愛い気のある方だ。

 ついこの前なんて、こんな理不尽なことがあったんだから。


「ねぇ、栄吾」

「……何でしょう、お嬢様」

「背中、洗って」

「………………」

「冗談よ。気持ち悪い、お父様に言いつけるわよ」

「まだ何も言ってませんけど」

「煩いわね」

「申し訳ございません」


 どうだ?これでも執事に憧れるか?

 これで外見は美少女なんだから余計にタチが悪い。何かあったら悪者扱いされるのは必ずと言っていいほど俺なんだから。


 だがまぁ、そんなお嬢様であっても苦手な人物は存在するる。この如月家の商売敵、隣町で速水通運を経営している速水家の嫡男──速水蒼真はやみそうま様だ。

 学校、しかも同じクラスで唯一お嬢様の言いなりにならないのがこの蒼真様なんだから、お嬢様からしたら目の上のたんこぶみたいなものなんだろう。


 そしてそして、更に不味いことに、俺は蒼真様の専属メイドである東坂芽衣とうさかめいと付き合っている。

 ライバル同士の家の後継者。その従者同士が恋仲にあると周囲に知られれば、俺たちはクビになるどころか、最悪この地域での立場まで失いかねない。俺と芽衣の関係は、誰にも知られる訳にはいかないんだ。

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