第30話 御匣殿 (みくしげどの) ~ 君ぞ知りける~
それでも中宮様は、彰子様に五月五日の節句に、菖蒲の輿や薬玉を奉りあそばしました。また、若い女房や
「青ざしでございます」
古歌になぞらえ、垣根を越えて麦を食べる馬のように、障害があろうとも中宮様のおそばをはなれません、という思いを伝えたかったのでございます。
中宮様は、薄様を少し引きちぎって御歌を書いてくださいました。
みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける
「誰もが勢力の移った他の後宮へと挨拶に急ぐ日も、あなただけは、私の心をすべて知っていてくれるのですね」と。しんみりとした歌でございました。人は苦しみの中で明るく笑うほどに、心を深くしていくものなのでしょうか。
中宮様の思いやりのお深さ、心づかいの細やかさは私にばかりではございませんでした。
あかねさす日に向かひても 思ひ出でよ 都は晴れぬ ながめすらむと
とご自筆でお書きあそばしているのをお見受けし、私ならばとてもこのような時にお側を離れてしまうことなど出来ないと、乳母の無情さを憎らしくさえ思ったものです。
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