第8話 忘れ路(わすれじ)~とある噂~
中宮様のご兄弟は、
すべての人を包み込みながらも、一の人に第一に愛おしまれるお方。
中宮様は、御親君の馴れ初めのころ、貴子様が道隆様に贈られた和歌、
忘れじのゆくすゑまではかたければ今日を限りの命ともがな
をそらんじなさって、
「これで父上は、母上を北の方にお決めなさったのですって」
と、うれしそうな目をしておっしゃいました。主上様のお心のつぼがどこにあるのかも、母君から受け継がれた本能のようなものでご存知であったのかも知れません。
実は、高階家には密やかに噂される伝説がございました。かの、風流人で色好みの在原業平と伊勢斎宮との禁じられた恋の果てに生まれた御子が、高階家の先祖であるというのです。
けれども、中宮様は明るく私に仰せになりました。
「少納言、知っていて。私とあなたとはもとをたどれば天武天皇でつながっているのですって。父上が以前、系図をお見せになって、『清少納言を大事にお扱なさい』と、私に言われたことがあるの」
「大事に」なんて、お聞き違いされたのではないかと思ったものです。あまりに恐れ多くて草子には書けないこともあるものです。
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