13話 1日子育て体験!?

 仕事が再び開始し、ある程度の落ち着きをみせたある日の夜、俺たちにとっては珍しく、電話がかかってきた。綾香も俺も別に友達は多くも少なくもないが、同棲してからはめっきり会うことはおろか、電話すらしなくなったので、最初は親かな?と思った。

 着信音が同じなので、どっちのスマホが鳴っているのか分からなかったが、どうやら綾香の方らしい。

「もしもし、どうしたの、うん、へぇ~そうなんだ!あ~ちょっと待ってね」


「歩くん、姪っ子ちゃん、1日預かっても良いかな?何かその日、親戚みんな忙しいらしくて」

「まぁ、別に良いよ」

「うん、大丈夫だよ、うん、それじゃあ」

 黒電話でも固定電話でもないので、ガチャッとは鳴らなかった。


「明日の朝9時に連れてくるって」

「俺、初対面だけど大丈夫?」

「小5だからどうだろうねぇ~」

 楽しそうに言ってるけど、思春期入りかけの女の子、俺みたいな奴とそう簡単には打ち解けないと思うんだけど………


 そして翌朝。このインターホンは果たして天使の呼び鈴か、あるいは地獄の門を開錠するための合図なのか。綾香が真っ先に玄関へと向かい、運命の歯車は猛スピードで回り出す。

「おはよう、久しぶりだねぇ、琴音ことねちゃん!」

「はじめまして琴音ちゃん、斎藤歩です、今日はよろしくね」

「こちらこそお願いします」

 ペコリと頭を下げるいたいけな少女、なんだ、かわいいじゃないか。どうやら反抗期を迎えては流石にいないようで、何なら俺のとなりでぽよぽよと跳ねて、はしゃいでいる大きなお友だち(他ならぬ綾香だが)よりも、行儀が良さそうだ。後で横の娘はしっかり躾ないとな。


「さて、何して時間潰そうか………」

「琴音ちゃんは何かしたいことある?」※綾香ちゃんは反省しました。

「ん~ゲームは持ってきたよ」

「へぇ、どんなの?」

「チェス!」

「チェス!?」

 渋すぎだろ小5女子………綾香なんてポカンとして何かすら分かってないぞ。

「お兄さん、チェス出来る……?」

「全然強く無いけどな」

「よかった!じゃあやろやろ!」

 まぁ、子どもにとってはオセロだろうが将棋だろうがチェスだろうが、そう大差は無いのだろう。先手は琴音ちゃん。

「どっちもがんばれー。私が審判するから!」

 審判は別に要らないと思うけどな。

 ちなみに結果は、こてんぱんに負かされました。


「もう、こんな時間か。案外熱中してたな」

「私も二人の見てたら何だが眠たく……」

「あの、お姉さん、お兄さん、今日は楽しかったです。また遊んでね」

「こちらこそ楽しかったよ」

 思わずうるっときた。綾香は琴音ちゃんにお別れのハグをしていた。子どもか……


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