8話 引きこもりが辛い!?

「歩くん、あのね……」

 おもむろに口を開いた綾香は、衝撃の発言を放つ。

「引きこもり、やめようかな……?」

「そ、それって、働くってこと!?」

「ううん、いきなりは難しいし、ホントはそういう意味じゃなくて……」

「じゃあ、どういう意味なの?」

「何だかずっと家にいるのも疲れちゃって。それに歩くんがお仕事に行っている時は、ひとりぼっちだし」

「まぁ、わからなくもないな」


 引きこもりは、その人間の素質によって、世間からの圧力を防ぐシェルターにも、孤独死を住居人とする禁固刑にも化ける。

 周りに公園が無く、工場の敷地内で子どもが十分に遊べるかと言えばそうではなく、また反対に、世界中の書物を集めた図書館に居座ったからといって、読書家であっても、疲れは感じる。

 つまりは何事も適度に、という事だ。インドア派と引きこもりは違う、その事実に気づけなかった若人は、復帰するのにも時間がかかる。その点、綾香は事実上、扶養される身であるから、社会的悲壮感はなさそうだ。彼氏としても、それは嬉しい。


「じゃあ、何するの?」

「そうだね~ん~」

 美少女名探偵は、暇つぶしを思案する。冴え渡るは、にたどり着く。

「お仕事について行きましょう」

 どうやらこの安楽椅子探偵は、ポンコツらしい。

「いや、さすがに無関係な人を仕事場には連れていけないだろ……」

「無関係じゃないもん、恋人だもん。それに、家だろうが、外だろうが、歩くんが居ないと寂しいのには違いないじゃん」

「その気持ちは嬉しいんだけどな」

 妻であっても難しいところを、新入社員が彼女を無意味に連れてくるなんて、許される訳がない。


 そんなおりもおり、世間ではリモートワークが推奨され、試験的にわが社も取り入れた。

「えへへ、歩くんとしばらく一日中一緒だね」

 俺、ここに入社してホント良かったわ……


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