第4話 相方、源良清

源氏物語「若紫」より脚色


夕顔の君急逝から半年が経ち、光る君18才の三月。


平安京の底冷えが過ぎて梅の花開き、高貴な殿方たちも「どっかいい女いないかな~」とそぞろ歩く季節だというのに…


光る君ったたらおこり(マラリア)に罹ってしまわれたのです!


発熱と全身倦怠感で苦しむ主を前に新入り従者の良清くんは、


「ど、どうしようどうしよう…惟光せんぱい」


とおろおろするばかり。


ここで新キャラ、良清くんこと源良清みなもとのよしきよを紹介しましょう。

年の頃は僕と同じ19くらいで可愛いジャ○ーズ系の僕とは違って目鼻立ち整ったクール系。

僕は奴の、

みなもと

という姓を聞いて、


ぬゎに!?源氏だぁ?

元皇族ってゆー血筋だけでぬくぬくと守られて実力も無く出世していく遊び人のボンボン共め!噛みついて引きずり下ろしてやるっ!

せいぜい吠え面かいて○○○○(ぴー)でもしてな!


とそれはそれは激しい敵愾心が一瞬燃え盛ったもんですが、

(まあ我が主は別ですが)


「僕の親父は播磨守で受領なんです」


と彼の立ち位置を聞かされ、僕の親父は太宰大弐とゆー大宰府の副官で終わったから、こいつと僕は共に地方官僚のせがれで


同じような身分だ。と解った瞬間、


「そっか~、じゃあ仲良くしようね。解んないことがあったら何でも聞いてね」


と嫉妬の炎を消火器で鎮火し、にこにこにこにこにこ。と先輩づらした作り笑いで彼の肩を抱き寄せました。


「は、はいっ!」


説明しましょう。

源氏というのは僕の時代から百年ほど前、時の帝嵯峨帝が政治も奥さんたちへの気配りも頑張り過ぎて生まれた子供、なんと52人。


全ての子供たちを税金で養うのは経済難に陥るのでとりあえず姓を与えて臣下にし、貴族たちに養育を押し付ける、いわゆる皇族リストラシステムなのです。


天皇の子供の源氏なら元服してすーぐ四位の殿上人になれる鼻持ちならぬボンボンどもなのですが、

(我が主は別として)

そいつらの孫世代にまでなると…苗字だけ立派なただの中流貴族です。


良清くんの親父のように受領で終わるのが関の山なのです。


さて話を元に戻しましょう。


脇息にもたれて瘧の発作に苦しむ光る君と新人パシリ良清にすがるように見つめられた僕は先輩風を吹かして…


「お任せください光る君。実は北山の岩屋に籠るひじりの祈祷は病に効・く!との評判を聞き付けて参りましたよっ!」


「でかした惟光、いざ北山へ」

「はい、牛車を用意させます。ノベルの中でトリップ北山ですよ」


と、まあ二条院から北山へ。


幸い高僧の祈祷のおかげで光る君の病は快方に向かい、泊まらせて貰っている「北山のなにがし寺」を出て気晴らしに散歩できるようになるまで回復なさったのです。


「聞いてくださいよ、その明石の長者の娘がさ、たいそうな美人だってんでうちの父が『じゃあ息子の嫁に』と縁談持ち込んだらそのクソジジイ何て言ったと思います?


『うちの娘は強ぇ星を持っとんじゃ、半端な貴族のせがれに娘はやれん!』と言って断って来やがったんですよ、とほほ…僕、半端な源氏の子だから振られたんですかねえ、惟光せんぱい」


と父の赴任先に居た頃、都で中納言まで務めたのに急に明石に隠居して出家して暮らしている明石の入道。という変わり者のジジイの娘に求婚したら半端な貴族とバカにされた上に振られた。

という過去のトラウマまで話してくれた良清くんに僕はいたく同情し…


ああ、僕も半端な藤原氏のせがれ。外は夕暮れで霞がかっている。

こいつが女だったらこのまま成り行きで抱いてる。ってシチュエーションの時に…


「ちょっとこっちにおいで」

と光る君が近所のお家を垣間見(のぞき見)しながら他の従者は下がらせて僕だけを呼び寄せました。


「いい女がいるよ惟光…」

「まーたまたぁ、こんな寺だらけの場所にいい女がいる訳な…いましたね」


その女性は、年の頃ジャスト四十といったところ。

体つきはやせ形だけれど色白のお顔はふっくらされていて胸の辺りで切り揃えたおぐしがただ長く伸ばしてやがるだけのそこらへんの女たちよりも最先端って感じで…いい。


ただ、夕勤行の時間で御持仏に向かって読経なされてはいるが、経文を脇息に乗せてらっしゃる様がいかにも気だるげでよほどご病弱なのだな。と見受けられる。


「確かにいい女ですけど…尼さんですってば光る君」


そう申し上げると光る君は僕を見てくすり、とバカにしたようにお笑いになり、


「惟光くん、君は今現在ばかり見ていて未来には目を向けない男だね。ま、その目端の効くところが君の優秀さでもあるんだけどさ…部屋の奥を見てごらん…将来絶対マブい女になる子がいるよ」


と我が主が示す方を見ると、年の頃十を出たばかりくらいの姫君がどうやら祖母であるらしい尼君に向かって、


「だって、犬君いぬきが雀を逃がしてしまったんだもん…伏籠に入れておいたのに」


とこすった頬を赤くして泣いておられました。


確かに、他に二、三人女の童はいるけれどその姫君だけきっとやんごとないお生まれなのだろう思わせる位の気品が既に備わっていました。


「惟光くん…僕は運命の出会いをしてしまったようだよ」


姫君を見つめる我が主の目にはトキメキ7割と、夕顔の君を失った失意の反動3割で異様に輝いていました。


まだ十歳くらいの幼子相手になんですと!?


光る君、令和の世ではコンプライアンス的にNGですよ!


次回、「運命の人、紫ちゃん」に続く。





























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