第13話 宴は終わり、そして冒険は始まる

 後日、健一の所にパーティーの招待状が届く。

会社(組織)の設立20周年祝賀パーティー?の招待状だ。

健一が所属している事となっているネットオークション会社の親会社という設定のため、招かれても不自然では無かった。

(太田さん、そうきたか。まあ、それでもいいか)

百合子と由美は少し残念そうだが大勢が集うパーティーは久しぶりのようで、それはそれで楽しみにしているようだ。

パーティー当日、堅苦しい服装では無く普段着でも良い事になっていたが、百合子と由美の強硬な主張でそれなりの衣装を身に纏い出席する。

実際会場に入ると皆、それなりの服装だった。

それ見た事かと百合子と由美は同時に健一を見る。

小首をかしげ、それから一礼をして二人をエスコートする健一。

子供を預ける施設もあると言う事で、健太も美幸も連れてきている。

早々ベビーシッターが美幸を預かってくれる。

健太は同年代の子供を見つけ、そちらに小走りで行ってしまった。

太田が3人の所に来て挨拶をする。

「ご足労頂き、ありがとうございます。ささやかなパーティーですが、楽しんで下さい」

「あなたが太田様ですね。こちらこそお招き頂き、ありがとうございます」

百合子が家族の代表として挨拶を返す。

二人を見ていて、緊張を隠せない健一。

「健一さん、どうしたの?」

「い、いや。こう言うパーティーは初めてだから」

由美の父親である秀一とその友人の話は内緒にしてあるため、そう言うしかなかった。

「そうだ、少し小腹が空いているから何か料理を」

そう言って由美の手を取り料理コーナーに向かう。

料理はホテルの料理だけあって、手の込んでいるものが多かった。

座って食べられるようテーブル席もあり、すでに多くの家族が食事をしていた。

部屋の中央付近は立食パーティー用に小さめの丸テーブルが置かれ、オードブルや飲み物も用意されていた。

そこで太田と百合子が何か楽しそうに話をしている。

これまで、あれほど楽しそうにしている太田を見る事が無かった。

何を話しているのか気にはなったが、何かを察してか由美が

「ねえ、なんだかあの二人、良い感じじゃ無い」

よしてくれよと実際は思ったが

「そ、そうかな」

と曖昧に答える。

「そういえば、二人でこんなパーティーに来るの、初めてね」

「僕はもとより初めてだけど、由美さんはこういったパーティーに参加した事あるのかい」

「もっとこぢんまりとしたものだけど、父が生きている時に何度か」

「あ、ごめん。思い出させちゃったかな」

「大丈夫、楽しかった思い出だから。それにあんなに楽しそうにしている母を見るのも久しぶりね」

「由美さんも楽しもうよ」

「そうね、同年代の奥様方もお見えになっているようだし、少しお話してこようかしら」

「それが良いよ」

食事を済ませ、立食パーティー用テーブルに行くと声をかけられる。

「渡辺健一さん、ですよね」

振り返るとまだ20代中頃だろう若者のカップル?が立っていた。

「初めまして、私は丸山幸喜。こちらは井上瞳さんです」

「ひょっとして精神科医と行動心理学者さん?」

「正解です。私が精神科医で井上さんは行動心理学者です」

「いや、思っていたよりも若いので驚きました。(小声で)今回はありがとう」

「それは私たちもです。あなたの噂は聞いていました。もっと怖そうな人を想像していたんですが、こんな優しそうな人だったとは」

「いやあ脳天気なもので、そう見えるのでしょう」

「私たちは脳科学者でもあります。その観点からもあなたは興味深い」

「太田さんが優秀だと認めている方々だ、ちょっと怖い気がする」

「そう言いながら、いつでも反撃出来る様にしている。あなたの方が私たちには怖いですよ」

「あ、済みません。そんなつもりはないのですが」

と、本当に困っている健一に二人は好感を持ったようだ。

それから色々と話をする。

元々別々の部署にいたが今回の件で、太田が二人の研修先であるアメリカの研究所から呼び戻したらしい。

そして一緒に”仕事”をするようになって気が合い、お互い意識するようになり付き合い始めたばかりだと言う事だ。

そのせいか健一の家庭について、色々と質問してくる。

「ちょっと待って。これって何かの心理調査?」

あまりの真剣なまなざしの二人にたじろぎ、思わずそう言ってしまった。

すると二人は顔を真っ赤にしている。

心理学者で無くても判る状況だ。

「・‥他人の家庭など、参考にしてもしょうが無いよ。自分たちは自分たちの価値観を尊重し、尊敬し合い、お互いを思いやればそれが君たちの家庭になる。お互いの事を大切に思っているようだから、きっと良い家庭を作れるよ」

さらに顔を赤らめ、下の方を見て健一の顔を見ようとしない、と言うかそんな自分たちを見られるのが恥ずかしいようだ。

高い知性はあるが、純情な二人をうれしく思う建一だった。

ポンと、二人の肩を叩き、

「君たちとなら又、一緒に仕事をしたいな」

そう言って太田の方に歩き出す。

百合子はどうやら健太に捕まって連れ回されているようだ。

「健一君、彼がプログラマーの森本猛君だ」

「先日はありがとう。おかげで命拾いをさせて貰った」

直立不動で今にも敬礼でもしそうな感じで

「と、とんでもありません。私はあなたの指示通りの事をしただけです」

「森本君は君を尊敬しているんだよ」

「え?俺なんかを?」

「はい。渡辺健一さんの作戦は繊細で緻密。人の感情、感性も考慮されており、それなのに汎用性も高くAIでも作り出せません。」

「いや、君のプログラムこそ繊細で緻密。感性に溢れていると感じたよ」

「こ、光栄です」

「うーん、困ったな。人に尊敬されるような人間じゃ無いんだけど」

「そんな事はありません」

「うーん、参ったな。それじゃあこうしよう。僕はこれからも君と一緒に良い仕事がしたい。それには対等な立場でいるべきだ。君は思った事、感じた事をもっとざっくばらんに話すようにしてくれないか」

「私もそう思いますよ、森本君。我々は皆、対等な立場にいなければいけない。個人に偏ったものは排除しなければね」

「それはそうですね。ではそうさせて頂きます」

そう言うと森本は頭を深く下げながら健一と握手をする。

苦笑いしながら先程と同じように、肩をポンと叩く建一。

それが嬉しかったのか満面の笑みで丸山と井上の方へと小走りで行く。

「いやあ、彼等と接していると、自分が年寄りに思えてくる。新しい時代を予感させてくれますね。しかし彼等にこのような仕事をさせて良いのだろうか」

「彼等の親、あるいは兄弟は犯罪組織の犠牲となっています。彼等は我々の組織を自ら見つけ出し、志願してくれました。あなたのようにスカウトされた者は、他にほとんどいませんよ」

「要は俺を野放しには出来無かった訳だ」

「犯罪組織が目を付ける前に取り込んだだけですよ」

「それであなた自ら指導してくれた訳か。・‥彼等みんな若いけど、良い子達だ。組織も良い方向に向かうだろうね」

「あなただって、まだ十分若いですよ」

言われて頭を掻く健一。

いつになく優しい目で彼等を見つめる太田。

「やっと肩の荷を下ろせそうです」

「まさか引退?」

「それはまだ先です。例の学校の設立に注力出来ると言う事です」

「プロジェクトはもう動き出したみたいだね」

「ところで健太君にはもう話して頂けました?」

「いや、まだだけどね。返事は判っているつもりです」

そう言って健太を見つめる健一。

今日出来た新たな友人達と、何やらごっこをしている様だ。

その瞳は今を見ながらその先をも見ているのだろう。

その先にあるものの一つが希望であって欲しいと願う健一だった。

健太自身の”人生という未知なる世界”へと歩み出す”冒険”はこれから始まるのだから。

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健太の冒険(暇な殺し屋) キクジヤマト @kuchan2019

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