第7夜 すべては積もる

 降り積もる雪雪また雪よ。

 雪には7つの種類があると言う。

 この前クリスマスチキンと酒を交換してから、配達係の気前がやけにいい。

 ウィスキーの差し入れを置いていった。

 夜は冷えるでしょう、なんて言って。

 気味が悪い。

 が、酒は飲むよ。

 窓の外に意識を置いたまま、手元でボトルを回した。

 時は流れない、それは積み重なる。 

 遠い日、どこかで見た酒の広告。

 時にとっちゃあ流れるのが自然かもしれないが、人間にとっちゃあ時すら積み重なる。 

 全てがそうだ。

 塔の外では雪が降り続いている。

 そして、積もっている。 

 これはいいことだ。

 俺にとっては。

 鳥の死骸を覆いつくすからな。

 あんたはどう思う?

 すべては積もる。

 それは、いいことでも悪い事でもない。 

 なぜならば。

 良いことも悪いことも積もるからだ。

 毎日1クローネ、井戸に投げ入れてみろ。

 あるいは、毎日自分が出したゴミを、投げ入れてみろ。

 な?

 そういうこと。

 そういうことだが、そう考えると、悪い事の方が圧倒的に早く積もるし、より圧倒的に厄介だ。 

 俺の貯金は20クローネを切っていた。

 むしろ、マイナス500クローネ。

 ここに来るまでは。

 金が入ると使っちまう、使わないと明日生きる気力が生まれない、という悪癖の毎日を、積もらせた結果だ。

 塔に入ることでチャラになった。

 悪いことは早めに処理しなきゃならない。 

 そうしないと、いつか自分でも手に負えなくなっちまう。

 聞いておけよ。

 若者よ。

 自分で処理できるうちに、そのゴミを一切合切焼き捨てるか、その場所がどうあがいても見えなくなる場所まで逃げるかしとけ。

 街にいた時に、積もっていることに薄々気づきながら、何にもしないやつに五万とあった。

 そうするとどうなる?

 自分が積もらせたゴミを、誰かに何とかしてもらいたくなる。

 そうして、仕舞には、なんで誰も何もしてくれないんだと怒りだす。

 積もらせるのは、誰にでもあること。

 だが、怒っても何も解決しない。 

 ただ、状況がより悪くなるだけだ。

 怒りというのは、略何もしないということと同義だ。

 怒りに我を忘れている内に、時は流れ、それは一層積もり、悪臭を放つ。

 ゴードンとヤミーンの夫婦がそうだ。

 ヤミーンは、マーグほどじゃないが、美しく、そして幸の薄い女だった。

 ゴードンは、危険な目をしたイケメンだった。 

 そして、二人共、物事を深く考えるのが何より嫌なタチだった。

 言い換えると、ハッピーエンドには成り得ない組み合わせってこと。 

 死体が見つかったのは、ヤミーンが先で、ゴードンが後だったが、死んだのはその逆だった。

 ゴードンが日課を終え(つまりはしこたま酒に酔って飽きるまでヤミーンを罵り、殴りつけた後)寝入ったところを、ヤミーンが肉切り包丁で一刺し。

 ヤミーンは、持てるだけの金目の物を持って街から逃げたのはいい物の、橋の上から転落。

 丁度一昨年の今頃だ。 

 街の保安官が、ヤミーンの死を知らせにゴードンを訪ねたら、ビックリ。

 そういう話だ。 

 今夜は冷える。 

 どこかで、犬が泣いた。

 気づけば雪は止んでいる。

 こんな日に鳥は現れない。

 足跡を残して脱走する兵士は、アホだ。

 俺に撃たれなくても、もうどこかで死んでいる。 

 降り積もる物に乾杯。 

 ひと時の安息に乾杯。

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