第4夜 クリスマス休戦

 馬鹿馬鹿しくはある。

 ただ、嬉しくない訳ではない。

 今日一日は、鳥が塔に寄りつくのを日がな見続けなくてもいい。

 なんなら。

 考えなくてもいい。

 何にも追い立て馴れない日。

 それは、人生最良の日だと断言しよう。

 なんなら、壁に書き記してもいい。

 現実には書かない。

 今日は、クリスマス休戦日。

 壁に鳥を書かなくていい日。

 ハレルヤ。 

 そのうえ、特別料理が運ばれてきた。

 ハレルヤ。

 しかし、こともあろうことか、鶏の丸焼き。

 ハレルヤ。

 村の連中は、厄介事を、厄介な人間に押し付けている罪悪感から、こんなことを思いついたんだろうが。

 鶏の丸焼き。

 いやはや。

 頭に言葉を思い浮かべただけで、吐き気がする料理だ。

 今、そして、おそらくこれから一生。

 罪悪感とは違う。

 多分、もっと、そう、なんて言ったっけ?

 そう、生理的な嫌悪感。

 まだ、丸焼きにしたことはないが(あはは。最低のジョーク)俺は毎日鳥を撃っている。

 さすがに、食べる気はしない。

 それで、捨てるのか、って?

 まさか!

 それはクリスマスジョークか?

 笑えないね。

 俺はもう、40を過ぎた大人だ。

 つまり、酒も煙草も合法ってこと。

 それで、軍の配達係(輜重隊?補給兵?良く分からんが、俺は単に配達係って呼んでる)に取引を持ち掛けたね。

 昔の聖人が、水をワインに変えた話を知ってるかい?そう言ってね。

 配達係はキョトンとしてたね。

 まあ、見た所、20そこそこだし、あんまり、その、なんていうか機転が効かない感じだったから、しょうがない。

 そこで、ストレートに伝えたよ。

 しょうがない。

 時は金より貴重だもんな。

 あいつの喜びようったらなかったね。

 こっちにしちゃあ当たり前のオファーだったんで、心苦しくなるほどに喜んで鶏の丸焼きを持って行ったよ。

 ワイン2本余計において。

 どこかに行く予定のワインだろうから、数が合わないのは大丈夫か少し心配になったが、もちろん、言わなかった。

 大方、良くあることなんだろう。

 それか、2本割ったことにするか。

 というわけで、今日は盛大に飲んでいる。

 つまみは、猪肉の干物。

 猪肉はいいのかって?

 当然、常識、そして当たり前。

 俺が壁に書いてるのは、猪じゃあない。

 今夜は月がきれいだ。

 普段感じないが、空気が上手い。

 煙草をふかして、夜空に吹き付ける。

 煙が、薄く、夜空に溶けて行った。 

 夜空の向こうには、明日が繋がっている、そう言った詩人がいると、昔聞いた。 

 そうあって欲しい。

 この瞬間はひどく満たされているが、これは永遠じゃない。

 だったら、いっそ、過ぎ去って行って欲しいし、ある段階に差し掛かったら加速度を点けて終わりまで突っ走って欲しい。

 時は残酷だが、時が進まないのも残酷だと、そう思わないかい?

 いい時も悪い時も平等に過ぎ去ってくれよ。

 神様がいるなら、俺のこの人生の今を、猛スピードで進めてくれ。

 メリークリスマス。

 ハレルヤ。

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