2021年10月6日

 いつも通っている道に新しくカフェが出来ていた。他にめぼしい店などない人通りの少ない住宅街のど真ん中なので、珍しいところに開くもんだと思いちょいと興味に惹かれて入店した。店内はダークブラウン中心の木製家具を中心に、同系色のフローリング。バリスタと店員が一人ずついて、テーブルで注文を聞いてくれる。Free Wi-Fiもあって非常に快適だ。


 客は私の他にはノートPCで何かをしている女性が一人居るだけで、非常に静かだった。耳に邪魔にならない程度の音量でゆったりと流れるJAZZがますますその森閑とした雰囲気を増していた。オリジナルブレンドのコーヒーは私の好みの酸味の少ない深煎っぽい味わいで香りも良い。そう言えばコーヒープレスでの注文も受けているので、香りをもっと濃く楽しみたいならそちらにするのも良さそうだった。


 さて、喫茶店で時間を潰すのは結構得意で、それこそ思ったことを適当に書き留める作業をしたり、SNSをひたすらに泳いだり、本を読んだりとして、尻が痛くなるまで何時間でも居座ることができる。私は読みかけの本を取り出して読むことにした。バルベー・ドールヴィイの『デ・トゥーシュの騎士』。フランス革命時、貴族側の抵抗軍として活躍した美男子の騎士、デ・トゥーシュについて、年老いた元貴族たちが回想するという内容の本だ。重厚かつ軽快な文体で書かれていて非常に面白い。帯にはプルーストが愛したなどという文字が踊っている。別に意識の流れ文体で書かれているわけではない。


 と言うかウォーキング&ジョギングの途中なのに私は何故コーヒーを飲みながら本を読んでいるんだろうという気持ちにもなったが、たまにはこういうおサボりをする日があっても良いと思うのだ。鬱で頭はますますぼやけて、様々なことに集中できなくなっているが、このように場所を変えて開く本には妙にのめり込むことができる。変化こそが救いだ。


 私は健康のために運動やなんかの習慣をつけようと意識しているのだけれど、習慣は嫌いなのだ。常に変化を求めていたい。イレギュラーに振り回されて疲弊したい。という気持ちが常にある。停滞は相対的な後退だ。私は変化していたい。そう簡単なことではないお陰で私は常に後退をしているけれど、心は常に変化を求めている。あとは自分の怠惰とのうまい付き合い方というものできれば良いのだけれど。


 私の中に常にある焦燥感は、何かを行っていると他の必要ごとをしなくてはならないのではないかという要求を呼び起こすので、何をやっても集中出来ないのだが、怠惰というのもは強固で何もしていない時間、その焦燥で逡巡し続ける時間の中で、なおもサボるという豪胆さを発揮する。非常に厄介である。


 その怠惰さが祟って、本当は応募しようと思っていた公募の原稿が全く間に合いそうもないという事態を招いた。そもそも言葉が出てこないという恐ろしく情けない状態になっており、何を語ろうとしていたのか何を語るべきなのか見失い、ただディスプレイに明滅する|の姿を眺め続けるだけという次第。そのような状態は実に精神にクるので、私はワッとなってベッドに飛び込むと、目を閉じて|の姿を消すように務めるのだ。その時間たるや一日の半分を占めることもままあり、つまり本当になんにもしない時間を過ごすのだ。これが私の生活の本性! 筋トレ、ウォーキング、食事、風呂、睡眠を別とすると懊悩する時間一時間、他すべてベッドで何もしない時間などという過ごし方を平気でしくさるのだ! そんな腐れたメンタリティで物語が編める筈もない。すべての物書き、読書家に失礼だ。鳳仙やリモンは動物だからそれで良いのだが、私は人間社会に属する(属したくないが)、一人の理性ある人間として、それなりにしっかりと生きたいと切望しつつ怠惰に屈しているのである。怠惰に屈する人間! これこそが私であって、忙しいフリなどすることも出来ずただただ怠惰を貪っているのだ! その理由が懊悩する時間から逃げるためなどとはなんと見下げたやつ! 生きること、活きることを放棄するような愚かさである!


 と、コーヒーを飲みながら本を開いていたら自分の良くない部分が急にフラッシュバックしてきてしまい、酷いバッドトリップを味わうこととなった。


 こういう自己否定、省察は必要なものなので、またウォーキングの途中にこのカフェに寄ろうと思う。

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