第15話 狐と狸のなんとやら

「センセ、魚が餌にかかりましたで」


その日の夜のうちに連絡が入ったらしい。

ビジネスをやっていて思うのは、裏社会の人間というのは総じて動きが速いということだ。ほかにもいくつか特徴があるが、それはまぁいい。


「じゃあ打合せ通りにお願いします!」

第二幕の始まりである。向こうも大物を釣り上げる気持ちでいるんだろうが、はたしてエサはどちらかな??


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「はっはっは!いやいや、先生はほんと素晴らしい」

大盛り上がりである。

招待された食事処で杯を交わし、酔いも合わさって大盛り上がりである。


「いやいや、フドウ社長こそ素晴らしい。一代でそこまで事業を大きくされるとは」

事業の大きさなんかよりも、そのうちの幾らを合法的に自分の懐に入れるのかを考えているのであろう。


このインチキ仕手相場のオーナー(おそらく現場担当の捨て石)、名を仮に「サクライ」という。

中肉中背、グレーのストライプスーツに白のワイシャツのノーネクタイ、トカゲのような細い面持の男である。

この容姿で持ち上げるような甘ったるい声なんだから、気分が悪い。


「でや、サクライ先生。肝心の投資額の話なんやけどな」

目の色が変わる。だめだよ、そこでそんな反応しちゃあ。やっぱこいつ、仕掛け人じゃなくて捨て駒だな。


「ワシ個人としては、2000ぐらいで考えてる。でもな、話させてもらった通り、仲良うしてる大阪の社長が何人かおんねん。うまいことやったら、1億近くはいけるがな」


「なるほど」


「で、や。そういう人らに声かけてもいいけど、やっぱりなんていうんやろほら、汗かいた分便宜は買ってもらえたらな、とそういうわけで場所移させてもらってん」


「・・・・・・なるほど。」


こういった交渉をするときは、相手にとって「都合のよい話」をするだけでなく、その見返りとして「自分が何を求めているか」をキッチリ伝えるのがコツだ。ギブアンドテイクなら、相手ものってきやすい。


「まぁ、今日すぐには答えはいりまへんわ。数日考えて、また聞かせてもらえまっか」


会談はこれで終了である。


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「センセ、これでよかったんでっか?」


「えぇ、これでよかったんですよ。ウチで相場をウォッチしますね」


「なんやようわからんねんけど、これからどうなりますんや?」


「まず、向こうが話に乗ってきそうなら、そのフドウさん周辺の買いで利益を出すため、仕掛け人のグループが大口の買いを入れることによって、株価があがります」

買われれば上がる。シンプルな原則である。


「で、それがマーケットから読み取れたら、フドウさんのところに連絡が入るはずです。そこで、報酬率やらなんやらを決めて、何回かに分けて買わせてもらいますわ!という形で話を進めてください」


「で、その前に実はわしらは儲かった後や、ゆうはなしですな?」


「相乗り資金でね」



そこから先は、仕掛けの大詰めである。

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