第14話 気分の悪い熱気
「信じる者はすくわれる」。ただし、足か懐を。
会場はまさにそんな感じである。
「うわぁ、こりゃひどい・・・。」
フドウさんの眼鏡型カメラ越しでの映像と音声を見ながらのセリフである。
もうなんていうか、会場の脂ぎったオーラ。
壇上の講師は無責任に「○○産業の株は、これからどんどん上がります!その根拠は!!」などと盛り上げ、サクラと思しきおばちゃんは目を輝かせて拍手、挙句セミナー終わりにはみんなで起立して「○○産業は!絶対上がる!」の大合唱である。もはやなんか、投資セミナーでも宗教セミナーでもなく、いろいろ通り越して洗脳セミナーに近い。
しかも、セミナーが終わった後は個別相談会。熱気そのままに、株式を買わせるつもりである。ここまでくると、手慣れているとしかいいようがない。
「センセのいわはるとおり、裏で糸ひいてんのがおりそうでんな」
喫煙室横での電話会話である。
「いますねー。なんで我々の計画も、相手方に故意ではなく、運が悪かったと思わせる必要があります」
余計な敵は増やしてもしょうがない。
「そうでんな。ま、こっからがワイらは本番ですな」
「よろしくお願いします。」
フドウさんのパフォーマンス力に期待である。
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「いやぁ、先生のセミナー聞いて、コレや!って思いましたんや!」
すげぇ。何がすごいって、セミナーの面談担当の人が勢いに負けてちょっと引いてる。
「は、はぁ。ありがとうございます。では、我々の取り組みに一口乗っていただけるということでよろしいですか?」
気丈なものである。さすが、インチキセミナーのスタッフをやるだけはある。でもそんなんじゃフドウさんの勢いは止められない。
「なにいうてますんや!一口でも二口でも、どんとこいや!」
いいながら、ポケットから無造作に取り出した300万円をテープルに叩き付ける。
金額としては大したことがないかもしれないが、やはり現ナマの威力は素晴らしい。思わず釘づけになるスタッフ、そこに畳みかけるフドウさん。
「もちろんこれは手付けよって!もし話詳しい聞かせてもろて、ええなと思たら10倍でも20倍でも出させてもらいますわ!」
ここで、周りのブースに聞こえないように声を潜める。
「そん変わりというてはなんやけど、別の機会でいいから先生とお話しできるタイミング作ってもらえませんやろか?もちろん、食事しながらでもええから。これ、名刺ですわ」
札束を目の前に叩き付けるからのコンボで、断る隙間を与えず名刺を押し付ける。こ奴らのセミナーでもやっていた、「相手の頭が追いつくまでに情報をどんどん追加し、YESと言わせる」というテクニックである。
「あんじょうたのんまっさ。申し訳ない、次のアポあるから今日はこの辺で!名刺にケータイ番号書いてるから、いつでも連絡してや。次は具体的な話しましょうや」
いって、立ち上がる。もちろん叩き付けた札束を回収するのも忘れない。
「おーきに、おおきに!」
いいながら、会場をでる。大声でPRするところはして、現金は回収。要望と名刺を叩き付けての退出だが、与えるインパクトが違う。
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「お疲れ様です、フドウさん」
「おうセンセ、おつかれちゃん。あいつら、かかるかな?」
「電話が来ないなら来ないでこっちからアポすればいいだけですし、釣れるの待ちましょう。」
「おもろいな。ゴルフばっかりで釣りには興味なかったけど、やってみたいなて思たわ」
「今回でおなか一杯になると思いますけどね。まぁ、待ちましょう」
まぁそんな、期間かからんだろうけど。
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