第6話 終わりの始まり

「コロナウィルスが、やばいらしい」


そんな話が囁かれるようになり始めたのは、2月の半ばだったか、末だったか。

正直当初はまだまだこの新型肺炎の影響は軽視されており、相場に多少の影響を与えるとはいえ、「そこまで大きな被害にならないだろう」とみんなタカをくくっていた。


正直に告白すれば、私もその一人である。

だが、複数の情報網から寄せられる内容を分析・包括すると、どうも事態は深刻なようだ。


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2020年3月9日 関西某所

この日、日経平均株価は終値をラインだといわれていた2万円を割り込んで終了し、当初軽視されていたコロナの脅威に、日本も直面する事態となった。


この事態に、アドバイザリー会社に限らず、その社長および周辺の、愉快な仲間たちと会議で集まることになった。


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一言で今の心境を表すなら、「帰りてぇ・・・」である。


打ち合わせの会議室に現れたのは、自称・情報屋のY君。

情報屋といっても映画やドラマの登場人物のようなたいそうなものではなく、フリーライターとして活動して雑誌や新聞などにネタを売り込む傍ら、ウチのようなアドバイザーやその他、多種多様な人間・法人にネタを耳打ちし、商いをしている。


もう一人、キラキラしたネイルをつけて登場したのは、自身でネイルサロンを2店舗経営するユキナさん。

大阪・北新地のホステスを経て、そこで夢料金として巻き上げた資金を元手に成功を手にした、女性実業家である。ネイル作業を行う最中に暇つぶしで行われるIDOBATAネットワークという名の噂話というのは意外と馬鹿にできず、そので集められた内容を収集・分析することで、さまざまな状況が見えてくる。


余談であるが、任侠映画に出てくるヤの付く自営業の方や、これまたフィルムに出てくる武装した自警団、ぶっちゃければマフィアの方々が床屋でひげをそるようなシーンが多いのは、こういった手法で地域の情報収集をしているためだ。


「とりあえず、まぁ。二人してテンション低いけど、どうしたの?」

お通夜・・・とまでは言わないが、どーにも表情が暗い。どうやっても明るくならない話になりそうなので、テンションぐらいは高めに維持してほしいものだ。


「いやあ・・・実はコロナを甘く見て、相場で損しちゃって。」

おい、大丈夫か情報屋(自称)

ちなみにこれ、今回だけでなく割と定期イベントである。情報を収集できるということと活用できるということは別なんだと気づかせてくれる生き字引である。


「ユキナさんは?」


「ウチは、そこのアホみたいなことしたわけじゃないけど。これ、広がると店にも影響出るやろなぁ、と」


「まぁ食料の買い出しと違って、ネイルしなくても死ぬわけじゃないですしね」


「見せる相手とかもおらんと、女の子のみだしなみなんてテキトーになるもんよ」

そんな話は聞きたくない。


「とりあえず。こうやって集まったのは、それぞれの商いについて、コロナ関係で情報交換するためと、それぞれのリソースをトレードするためです。というわけでY、そろそろしゃんとしろ。」


「うぇーい・・・!」

大丈夫か、ほんと。

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