第16話 オルガの剣

 送り届けられた荷物はコンラートの部屋へと運び込まれた。そして人払いしたうえで開封した。それは元王女のオルガが伯爵夫人となったコンラートへ送ったのは薬の行商人のオルガが身に着けていたものであった。なぜ本人に送らなかったのかという謎があったが、もしかするとコンラートに何かを知らせようとしているのかもしれないといえた。


 箱の中身はざっとこんなものだった。オルガの粗末な服と着替え、オルガの薬の行商人ギルドの鑑札(金属製)と通行許可証、薬箱と売上帳と現金29シリング67ペニヒ、聖書と薬剤事典などの書物、そして護身用の剣だった。コンラートはあまりにも粗末な服の生地に驚かされたがさらに驚いたのがオルガの剣であった。


 その剣はオルガが孤児院の前に遺棄された時に一緒にされていたというものであった。剣自体はごく一部の上流階級の子女が誕生した際に贈られる守護剣のようであった。でも剣の柄の部分は何かしらの樹脂によって改変されていた形跡があった。でも、それは元王女のオルガが壊したようであった。そこには真新しい布がまかれていたが、それはオルガが巻いたもののようであった。


 コンラートは布をほどいてみると柄と剣の結合部が現れた。そこには剣の素性が分かるものがあった。そこには紋章があった。「蛇を掴み空へと向かおうとする」 それがオルガが持っていた剣の紋章であった。その紋章はずっと封印していたものであるが、たぶんオルガを遺棄した者がオルガの出自をとりあえず隠そうとしたようだ。オルガはやはり騎士階級もしくは貴族階級の娘であった。しかも剣を用意されるぐらいだから嫡子のはずだった。でも何故遺棄された? という疑問があった。


 その紋章を確かめるためにコンラートは要塞司令のための本棚から「紋章事典」を取り出して、思い当たる項目を探した。そして仮説が正しい事を確認した。紋章はシュタインハルト公爵家のものであったが、疑問があった。シュタインハルト公爵家は半世紀前に直系男子が途絶え廃絶したはずだった。可能性としてシュタインハルト公爵家に所縁のある誰かが作らせたもののようだ。


 また剣の本体は相当な腕前の刀鍛冶が鍛えたものであった。剣を細部まで確認すると刀鍛冶の名前があった。オットー・リザルトと。この名前はコンラートが持っている守護剣と同じであった。そういうことはオルガは公爵家もしくはそれ以上の娘の可能性があるといえた。でも、なぜオルガが遺棄されたのか? 


 それを確かめるにはこの剣の製作者オットー・リザルトに聞くのが早そうであったが、調べてみると数年前に亡くなっているので不可能だった。


 剣などを箱に戻して封印したコンラートは寝台に横になりながら二人のオルガの事を考えた。この剣の秘密に気付いたオルガは戻す決心をし、この剣の所有者のオルガには重大な出生の秘密があるようだと。

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