第17話 オルガお出かけする(1)

 コンラートが不在であったが、オルガはどうしても一人で出かけなければならない事態が発生した。とある大貴族の老婦人の葬儀に参列しなければならなくなった。人の死は時と場所を選ばないものであるが、同じ公爵家であるためノルトハイム家を代表して参列しなければならないわけだ。貴族の社交界に想定よりも早くデビューする羽目になった。


 オルガは公爵夫人に相応しい喪服を纏い馬車で大聖堂へと向かった。「公式」にはオルガは結婚後初めての外出であったが、今のオルガからすれば憲兵隊本部の地下で眠らせられた以来の事であった。いま向かっている大聖堂は「公式」にはコンラートと挙式をあげたところであるが、その時初めて行くところであった。孤児出身の薬の行商人であったオルガは正面の荘厳な姿を見たことはあっても、内部で開かれるミサに参列できる身分ではなかった。それに一般の信者が入れるときでも、そういった機会はなかった。


 内心、オルガは大聖堂内の聖人の像や美しい宗教画に目がいっていたが、そうだ今日は葬儀に参列していると気を引き締めていった。オルガは貴族でも高位とされるので祭壇のすぐ目の前に席が用意されていた。当然その周りには王国内の公爵家の面々が勢ぞろいしていた。


 オルガは軽く挨拶したが、なんとなく空気が変なのが気になった。それは、会場内に入って来た時から感じていた。その空気は歓迎されていないのだというものだった。それだけ貴族社会でのオルガの評判が悪いってことだった。前に向かう途中である女性に声をかけられた。


 「おやおや、やんちゃなオルガちゃんじゃないですか? あれだけ嫌がっていた結婚をしておとなしくなったんじゃないの? 最近出てこないからね」


 その声に悪意はあった。でも、当然今のオルガには顔と名前は一致しないので内心焦っていたがすました顔で通すことにした。


 「おかげさまで、コンラート様にご指導していただいて努力しております」


 オルガは当たり前の事をいったが、相手は黒いベールの下で驚いた表情を浮かべながらいった。


 「阿婆擦れのあんたが? なにかひどい目にでもあったのか? 男なんかはじめてじゃないとあれだけ言っていたのに!」


 そういって進路を遮ろうとしたが、オルガの後ろから次々と参列者が入ってくるのですぐあきらめ、進路を開けた。


 「あのお方はどなたですか?」


 オルガは不安を覚えながら一緒にいたお付きの者に尋ねた。彼は結婚前のオルガの交友関係を把握していないオルガのために派遣された王室のものだった。


 「あのお方はブラウンドルフ公爵夫人です。オルガ様と一緒によからぬことをしていたのですよ」


 その言葉にオルガは不安な気持ちになった。もし入れ替わりがばれたらどうしようかと。

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