第2話 目覚めたオルガ

 オルガ・シュバルツァーは金髪碧眼の17歳の娘だった。彼女は教会にある孤児院で成長し、薬の行商人として独立したのは二年前だった。以来、彼女は薬の原料や完成品を辺境などで入手しては、いろんな町を旅しながら売る生活をしていた。


 若い娘が危険を冒して薬を売るのは、孤児院に少しでも恩返ししようとお金を稼ぐためだった。山賊やモンスターが跋扈する荒野を旅している彼女には誇りがあった。純潔を守っていたことだ。オルガのような若い娘に誘惑するもののほか、小娘として襲われることもしばしばであるが、そのたびに得意の剣で撃退してきたのだ。あの夜までは・・・


 オルガが目覚めたのは、ふかふかの寝具のうえだった。いつもは一夜で銅貨数枚で眠れる馬小屋の脇にある藁を積み重ねただけの所で眠るのが普通なので、なんでこんなところにいるのだろうと思った。仰向けで眠っていたので天井が見えたが、そこには豪華な彫刻が施された天蓋があった。そんな天蓋なんて教会にあった絵画でしかみたことないし、実際に存在するとは思っていなかったものだ。


 彼女は身体が気怠いのを感じていた。特に腰のあたりが・・・それで起き上がってみると、自分が身にまとっているモノに驚いた。豪華に装飾された刺繍のある絹の薄いドレスを纏っていた。そして股の方をみると、シーツが赤く染まっていた。それが意味することは、男なんて付き合った事も好きになった事もなくても分かる事だった。処女喪失の儀式があったんだと!


 自分がいつの間にか大人の女にされたことにショックを受けたオルガだったが、どうしてこんなことになったのかわからなかった。以前、騙されてスケベな男に襲われた時も格闘の末に撃退できたというのに、なんでやすやすと契りを結ばれてしまったのか? それよりもここはどこなんだ? そう思った時、寝台のそとから声が聞こえた。


 「目が覚めたが? 昨夜はすまなかった。お前の初夜を奪ってしまって」


 寝台のカーテンを開けたのは、美男子の貴公子であった。彼はオルガと同じ金髪碧眼であったが服装からして貴族のようだった。


 「あのう、わたしの身体というか、わたしと昨夜やったのは・・・」


 そこまでいったところでオルガは恥ずかしくなった。純潔の誓いをしていたのに知らないうちに破っていたことが。本当に好きな男と結婚するまではと!


 「本当にすまなかった。僕も知らなかったんだ。結婚したはずのオルガが入れ替わっていたなんて! 薬を盛られていたようだな僕もお前も」


 薬? なんのことよそれって、オルガは思ったが確かにボロボロで穴だらけの何の糸で織ったのか分からないような下着を着ていたのに、今は豪華なドレスをしているし、それに指には触った事のないダイヤモンドが散りばめられた結婚指輪が輝いでいた!


 「オルガと言われますが、私はただの薬売りですよ。だれなのですかオルガって? それは」

 

 すると、相手の男は手にしていた紙を見せてくれた。しかし文字は神父さんに教えてもらったけどなんて書かれているのかいまいちわからなかった。


 「お前も知っているだろう。国王陛下第七王女のオルガ王女を! あいつと結婚したんだが初夜を迎える前に急に拒否したんだが、せめて女にしてくれってせがまれてな、それで媚薬を飲まされたんだが、そのあとは・・・入れ替わっていたわけだな、お前と」


 オルガはどうやら自分は目の前にいる男の妻の身代わりになった事に気付いた。よりによって王国で最もわがままで嫌われている王女オルガの!

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